風邪と夕陽の逃避行
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具合が落ち着くまでそばを離れたくはなかったけれど、数日が経てば飲水さえ尽きて。医者が言うよりずいぶん長引いているので不安になる。やっぱりヤブだったのかな。
そんなこんなで、しぶしぶマーケットに出向いた。果物や飲み物をいくつか買って重たい紙袋を抱えた時、なんだか妙な気配がして、慌てて広場の柱の後ろに身を隠した。ガラの悪い黒服の連中が歩いている。
「私達」が仕事をするときは、ルパンみたいに予告状なんて出したりしないし、派手な仕事はしない。
今回ーー次元が風邪を引く前の仕事だってそうだ。
思い立って駅の公衆電話のボックスに入る。電話はしない。あくまで電話をするフリだ。ポケットから小道具を出して、電話機に小細工を仕掛ける。近隣の無線の電波を拝借するのだ。つまみを弄って周波数を合わせると、雑音に混じりに、黒服の会話が受話器から聞こえた。
『…本当にまだこの街にいるのか?』
『その筈だ。国境付近に張ってる奴らがヘマしてなけりゃな。』
『そうでなくても二人合わせて5万ドルのボロい商売さ。』
『へへっ。あのオッサン、よほど気に食わなかったんだな。こんな賞金まで掛けてよ。』
ため息をついて受話器を下ろした。無線の受信機も外す。なるほどそう言うことか。済ませたはずの仕事の不始末だ。
今回の仕事というのは、幽霊屋敷と名高い廃屋から、依頼のものを運び出す仕事だった。内容こそ簡単なようでいて、廃墟は町中のゴロツキの寝床で、忍び込むのも一苦労だった訳だけど。
無事に仕事を遂げてから、依頼者の元に戻ると、仕事っぷりをいたく気に入ったその依頼主から、仲間にならないかと持ちかけられたのだ。
気ままな二人暮らしを愛している私たちは、丁寧にその誘いを断ったのだけど、それがどうも気に障ったらしい。
自分のものにならないくらいなら死ねって?どんなヤンデレ娘だよ。実際の依頼主は禿げたオッさんだったけど。
しかしどうしたものか。本当にちょっとの買い物のつもりだったから、ここまでは電車で来てしまったのだ。駅には奴らが張り込んでるだろう。だいたいこの陽気なマーケットでドンパチ騒ぎたくはない。顔や私の身体的な特徴はおそらく割れているし、うまく電車に乗れたところで、アジトの方向がバレては案配が悪い。電車の時刻表を見る。
危ない橋渡りって大嫌いなのに、やっぱりこう言う目にあうのだ。意を決して、電話ボックスを飛び出した。
***
紙袋を胸の前で抱えて、わざと流暢に街を歩き駅に向かう。男たちが数人私に注目するのを確認する。奴らの死角に入ったところで、自分と似た背格好の少女に声をかけた。
「この紙袋を、顔の前で抱えて公園駅の方へ向かう電車に乗ってくれたら、10ドルあげる。どう?」
急な申し出と、思わぬ小遣い稼ぎのチャンスに、声を掛けた女の子は目をパチクリさせてこちらを見た。言いたくないんだけど、と芝居をして、耳打ちする。
「彼と駆け落ちするところで、パパが私を探してるの。助けてくれない?」
安っぽいシナリオに目を輝かせた女の子は、二つ返事で紙袋を受け取った。紙袋を抱えた少女を追って、数人の男がアジトとは全く逆の駅を目指す。とりあえず半分。
遠回りしつつ、本命の駅のホームに行くと、ここにも黒服が数人いた。時刻表と、自分の腕時計をみる。電車が出るまであと1分。40秒…30…
あと10秒のところで、全力ダッシュで電車に乗り込む。気付いた黒服たちがもちろん慌てて追ってくる。電車の車両をかき分けて、進み、進み…。5…4…3…2…。
プシューと音をたてて、発車のために閉まるドアを、すんでのところで滑り降りた。
車両から姿が見えないように、素早くホームのゴミ箱の後ろに身を隠す。
バイバイ。黒服さん。それはアジトと逆方向の電車だよ。
私は電車が去るのを見送って、速やかに逆のホームから電車に乗り込み、アジトを目指した。
***
そんなこんなで、しぶしぶマーケットに出向いた。果物や飲み物をいくつか買って重たい紙袋を抱えた時、なんだか妙な気配がして、慌てて広場の柱の後ろに身を隠した。ガラの悪い黒服の連中が歩いている。
「私達」が仕事をするときは、ルパンみたいに予告状なんて出したりしないし、派手な仕事はしない。
今回ーー次元が風邪を引く前の仕事だってそうだ。
思い立って駅の公衆電話のボックスに入る。電話はしない。あくまで電話をするフリだ。ポケットから小道具を出して、電話機に小細工を仕掛ける。近隣の無線の電波を拝借するのだ。つまみを弄って周波数を合わせると、雑音に混じりに、黒服の会話が受話器から聞こえた。
『…本当にまだこの街にいるのか?』
『その筈だ。国境付近に張ってる奴らがヘマしてなけりゃな。』
『そうでなくても二人合わせて5万ドルのボロい商売さ。』
『へへっ。あのオッサン、よほど気に食わなかったんだな。こんな賞金まで掛けてよ。』
ため息をついて受話器を下ろした。無線の受信機も外す。なるほどそう言うことか。済ませたはずの仕事の不始末だ。
今回の仕事というのは、幽霊屋敷と名高い廃屋から、依頼のものを運び出す仕事だった。内容こそ簡単なようでいて、廃墟は町中のゴロツキの寝床で、忍び込むのも一苦労だった訳だけど。
無事に仕事を遂げてから、依頼者の元に戻ると、仕事っぷりをいたく気に入ったその依頼主から、仲間にならないかと持ちかけられたのだ。
気ままな二人暮らしを愛している私たちは、丁寧にその誘いを断ったのだけど、それがどうも気に障ったらしい。
自分のものにならないくらいなら死ねって?どんなヤンデレ娘だよ。実際の依頼主は禿げたオッさんだったけど。
しかしどうしたものか。本当にちょっとの買い物のつもりだったから、ここまでは電車で来てしまったのだ。駅には奴らが張り込んでるだろう。だいたいこの陽気なマーケットでドンパチ騒ぎたくはない。顔や私の身体的な特徴はおそらく割れているし、うまく電車に乗れたところで、アジトの方向がバレては案配が悪い。電車の時刻表を見る。
危ない橋渡りって大嫌いなのに、やっぱりこう言う目にあうのだ。意を決して、電話ボックスを飛び出した。
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紙袋を胸の前で抱えて、わざと流暢に街を歩き駅に向かう。男たちが数人私に注目するのを確認する。奴らの死角に入ったところで、自分と似た背格好の少女に声をかけた。
「この紙袋を、顔の前で抱えて公園駅の方へ向かう電車に乗ってくれたら、10ドルあげる。どう?」
急な申し出と、思わぬ小遣い稼ぎのチャンスに、声を掛けた女の子は目をパチクリさせてこちらを見た。言いたくないんだけど、と芝居をして、耳打ちする。
「彼と駆け落ちするところで、パパが私を探してるの。助けてくれない?」
安っぽいシナリオに目を輝かせた女の子は、二つ返事で紙袋を受け取った。紙袋を抱えた少女を追って、数人の男がアジトとは全く逆の駅を目指す。とりあえず半分。
遠回りしつつ、本命の駅のホームに行くと、ここにも黒服が数人いた。時刻表と、自分の腕時計をみる。電車が出るまであと1分。40秒…30…
あと10秒のところで、全力ダッシュで電車に乗り込む。気付いた黒服たちがもちろん慌てて追ってくる。電車の車両をかき分けて、進み、進み…。5…4…3…2…。
プシューと音をたてて、発車のために閉まるドアを、すんでのところで滑り降りた。
車両から姿が見えないように、素早くホームのゴミ箱の後ろに身を隠す。
バイバイ。黒服さん。それはアジトと逆方向の電車だよ。
私は電車が去るのを見送って、速やかに逆のホームから電車に乗り込み、アジトを目指した。
***