ゆれる、愛する。

 セックスの度に泣きそうな顔で見つめてくることを、柄崎は知っていたけど黙っていた。
 なんでですか、と聞くこともできたし、その顔なんなんですか、と茶化すこともできたが、柄崎は決して触れなかった。その目があまりに必死に見えたからだ。長く人生をともにしてきて、もはや言葉も要らぬ仲になったからこそわかることがある。強く揺るがぬ男の中にある、痛ましいほどの柔らかさが柄崎を切なくさせる。
 濡れて解けた肉穴に硬く滾ったペニスを押し付けられ「柄崎」と呼ばれると、どれだけ快楽に押しつぶされていても視線を交わし「はい」と答えてしまう。躾けられたわけでもなく、計算があるわけでもない。生まれつき備わった機能のように、丑嶋の泣きそうな顔を見つめ潤んだ瞳を受け取り「はい」と答え広い背中を抱いてしまう。合わさった胸が一つの心臓を共有しているように高鳴って、汗まみれの肌を抱き寄せる。
 「えざき…」
 興奮に上擦った声が耳元で滲む。少し鼻声なのは溢れそうなものを堪えているからだろうか。丑嶋のそんな声を聞いていると、柄崎は時間も過去も未来も溶けていくような錯覚を覚える。
 「はい。はい、社長」
 いいんですよ、と促すと丑嶋はグッと腰を進め柄崎の中に入ってくる。
 「えざき、えざき」
 しつこいくらい名を呼んでくる丑嶋は熱病におかされたように熱い。下半身から伝わる強烈な快感がますます思考を溶かし、柄崎は訳がわからなくなった。
 「社長、うしじま社長、いい。いいです」
 叫ぶように応えると抉るようなピストンが一層激しくなる。胎を蹂躙する肉塊が前立腺を擦り上げ、丑嶋のことしか考えられない。
 「うしじま、社長っ! 社長、いい…っ」
 いい、と繰り返すうち、柄崎は自分が一体なにに応えているのか段々とわかるような気がした。同時になぜ、丑嶋が泣きそうな顔をするのかも、わかった気がした。
 「柄崎、いいの」
 声だけ聞けば幼児のようだ。友人で、幼馴染で、上司であるこの男が、いつも泣き出しそうな顔でこの身を掻き抱く理由。熱く滴る汗も拭わぬまま交わる理由。いつも「いいの」と聞く理由。
 「いい。いいです。いいんですよ」
 枯れた声帯を引き攣らせ、丑嶋の頭を抱いてやる。腕の中、微かな声でえざき、と呟いて丑嶋は何度も腰をビクつかせ柄崎の中に吐精した。
 無言のままきつく抱き締めてくる丑嶋の後頭部を撫で、髪にキスをする。
 「社長、俺はずっとそばにいます。だから、いいんですよ」
 泣いてくれていい。殺してくれてもいい。あんたがそうしたいなら、俺はいいんだよ。言葉に出さず強くおもう。
 丑嶋の広い背中がわずかにゆれる。
 「…あほ」
 子供じみた悪態をつかれて、柄崎は思わず朗らかな声で笑った。
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