不運自慢
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「ツイてない一日だったな…」
⚫︎⚫︎は力無く呟いた。
昨日までで運を使い果たしてしまったのか。
今朝からずっと不運が続く。
忘れ物に失くし物。
正午を越える頃には転ぶ事の多さに呆れ、思わず笑みが溢れたほどだ。
数々の偶然が重なり、今日の任務はいつもの倍以上かかった。
こんな日は一刻も早く寝て、明日を迎えるに限る。
不出来な任務の報告を終えて帰路に着いた。
「あれ、⚫︎⚫︎先輩!」
帰り道、近頃任務で一緒になる後輩に会った。
「いい所に…!聞いてよー」
誰でもいいから愚痴を吐き出したかった。
今日のボロボロの出来事を話す。
「…それはついてなかったですね」
後輩は憐れみの目を向ける。
「そうでしょー」
項垂れる⚫︎⚫︎に、男は言った。
「…先輩、ご飯でも行きませんか?今日はオレが奢りますよ」
「えっ、いいの?」
「あまりにも可哀想ですし…」
「えー、嬉しい!最後に良いことあったなー」
無邪気に喜ぶ⚫︎⚫︎につられて、男も微笑んだ。
誘った事に下心がなかったわけではない。
同期と恋愛話になれば、⚫︎⚫︎先輩に憧れている面々で盛り上がる事も多い。
今日をキッカケに後輩以上の関係になれたら…と淡い期待もしていた。
忍がよく使う店に誘った。
そこは個室が多く、任務の話もしやすい。
店に入ると店員が申し訳なさそうに言う。
「すみません、只今混み合ってまして…」
「入れませんか?」
「いや、なくはないんですが…。狭い部屋でして、それでもよろしいですか?」
「…⚫︎⚫︎先輩どうします?」
「私は気にしないよ」
断られなかった事にほっとしながら、店員の後ろを男は歩いた。
通された場所は階段下の空間で、2人が並ぶのが精一杯の空間だった。
座るだけで肩が触れ合う。
「…ふふ、ほんとに狭いね」
思わず⚫︎⚫︎は笑った。
後輩からすれば幸運にしか思えず、心の中でガッツポーズをする。
「ごめん、汗臭いよね?」
⚫︎⚫︎は自分の服をスンスンと嗅ぐ。
「いえ!全然!」
(むしろ汗と先輩の香りが混ざって興奮する…)
そんな事を言えば引かれてしまうので、心の中だけにおさめておいた。
ご飯を食べながら過去の任務の話や、今日の出来事の続きを聞いた。
「あー、スッキリした。愚痴ばっかりでごめん!私ばっかり話しちゃったね」
申し訳なさそうに⚫︎⚫︎が言う。
「大丈夫です。先輩の話楽しいですよ」
「本当…?そうだ、何か悩みとかあれば聞くよ?」
ここぞとばかりに先輩風を吹かそうとする⚫︎⚫︎さんが可愛かった。
いい流れが来ている。
「実はオレ…女性に会うと緊張しちゃって…」
「え、そうなの?意外…全然見えなかったよ」
「恥ずかしくて話せなくなっちゃうんですよ」
「そっかー…前に彼女欲しいって言ってたもんね、それは困るかぁ」
どうしたものか…と悩むが、恋愛は⚫︎⚫︎も苦手だった。
一緒に困ってしまう。
進展がなさそうな⚫︎⚫︎に、後輩は更に続けた。
「よかったら先輩、ちょっと練習に付き合ってくれません?」
「練習?私でなるかな?」
「お願いします!」
「いいよ、何したらいいの?」
「うーん、女性に慣れるために手を握ってみてもいいですか?」
「どうぞ」
⚫︎⚫︎の白く細い手にそっと重ねてみる。
「…どう?」
「お、いい調子かもしれません」
「そう?よかった」
疑いもなく微笑む⚫︎⚫︎に、もっと攻めてもよさそうだと確信する。
「次、いいですか?」
「いいよー」
「少し近づいてもいいですか?」
「もう十分近いけど…」
「女性に見つめられるのが苦手で…克服したいんです!」
「そうなのね…うん、どうぞ」
後輩の顔が近づく。
息づかいが感じられる数十センチの距離で見つめられると、⚫︎⚫︎の方が気まずくなる。
「…ねぇ、もう大丈夫なんじゃないかな?」
目を逸らして逃げ腰になれば、後輩がさらに距離を詰めてくる。
「…先輩、逃げないで下さいよ」
⚫︎⚫︎の太ももに手が置かれ、後輩が距離をどんどん詰めてくる。
あぁ好意があったのか、と⚫︎⚫︎は冷静に考えていた。
ここで静止することもできるが散々愚痴を聞いてもらった手前、可哀想かなとも思う。
唇が触れる数センチというところで、目の前で水しぶきが飛んだ。
驚いて見れば、後輩がずぶ濡れになっている。
「なにしてんの」
後輩の頭上から声がした。
カカシがグラスを持って立っていた。
「カカシ?」
「少し頭冷やせ」
「すみません…」
後輩を置いたまま、カカシに手を引かれて店を出る。
「ハァ…後輩を弄ぶんじゃないよ」
「ごめん…」
弄ばれたのはどちらかというと私だった。
カカシは最後だけ見ていたのだろう。
弁解しても面倒なので素直に怒られる。
(あーあ、ほんとについてない…)
「ねぇ、オレはもう公言したいんだけど」
「うーん…」
カカシが指すのは、秘密裏に付き合っていることだろう。
わざわざ皆に言うのもと思い、⚫︎⚫︎が口止めをして数ヶ月が経っていた。
「なんだか面倒なことになりそうで嫌なんだよな…」
カカシを狙う女性たちが怖いのだ。
「もう面倒なことになってるでしょ」
変な虫もつくし、とカカシは長いため息を吐く。
「うん…」
「あ、わかった。結婚すればいいんだ」
良いことを思いついたと笑顔で言う。
「えっ、また突飛な…」
「婚姻関係を結べば誰も文句言えないでしょ」
「そんな極論を…」
でも、カカシならやりかねない。
こういう話し合いは早めに降参するに限る。
「…わかったよ。皆に話す」
「わかってくれてよかった」
なんだか丸め込まれた気がするが、深く考えないようにした。
家までの帰り道を2人で歩く。
「ねぇカカシ。なんでわかったの?」
店選びは偶然だったはずだ。
「んー?変な虫は全部マークしてるの」
「全部って…」
引き気味に言葉を発する。
「不運は振り切れても、俺はムリだから」
美しく笑う恋人に、⚫︎⚫︎は恐ろしさを感じるのだった。
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