追い風に乗って
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「…⚫︎⚫︎」
思わず足を止めて、オレは彼女の名前を呟いた。
慰霊碑の帰り道。
普段は気にもせず通り過ぎる公園が、その日はやけに賑やかだった。
ふと視線を送れば、フェンス越しに同期の姿を見かける。
(⚫︎⚫︎と会うのはいつぶりだろう)
今日は急ぐ用事もない。
久しぶりに声を聞きたくなって、⚫︎⚫︎が座るベンチに近付いた。
「⚫︎⚫︎じゃないの」
「あれ?カカシ…!なんだか久しぶりだね」
「久しぶり。元気だった?」
「元気元気!それが取り柄だからねー!」
たしかに、と相変わらずの様子にオレは笑う。
「⚫︎⚫︎の子供と来てるの?」
「そうだよー」
ここ数日、里では雨が続いていた。
晴天を楽しむ子供達の中に、⚫︎⚫︎の子も紛れているのだろう。
「今日は天気も良いし、公園日和なの」
そう言って滑り台を見つめる。
視線の先には愛娘がいるのだろう。
同期等と出産祝いを渡しに行った以来、⚫︎⚫︎の子には会っていない。
どの子かと視線を追ってみたが、記憶は乳飲み子のまま止まっているので見当もつかなかった。
横目で⚫︎⚫︎を見ながら思う。
(どうして別れたんだろーね)
⚫︎⚫︎は夫と結婚して1年も経たないうちに離婚している。
後輩達から高嶺の花だと噂されていた彼女が、ある日突然一般人と結婚してアッサリ別れたのが数年前の事だ。
聞きたい事は山程あるが、根掘り葉掘り聞けるほど下世話じゃない。
複雑な気持ちを胸に秘めて空を見上げた。
青を際立たせるように時々浮かぶ雲は今日はやけに高く、手の届かない存在に思えた。
「⚫︎⚫︎さんカカシさん、お疲れ様です!」
突然視界に男が入り込む。
見れば何度か任務で組んだ事のある後輩だ。
「お疲れさま。なーに、デート?」
隣の女が親しげに腕を絡ませている。
「へへっ…わかります?」
オレは嬉しそうに笑う後輩に苦笑した。
(あぁ、自慢したいのね…)
次の質問を待つ後輩に、それ以上は触れず笑顔を保つ。
静かに去るのを待っていたら、隣の⚫︎⚫︎が口を開いた。
「可愛い彼女ね!お似合いだよ」
「え!そうですかー?照れるなぁ…」
謙遜しながらも後輩は嬉しそうに頭を掻く。
⚫︎⚫︎は二人の馴れ初めを丁寧に聞いていた。
ひとしきり話して満足した後輩が言う。
「それにしても、先輩方が一緒だなんて珍しいですね」
「あー、そうかも。偶然カカシに会えてさ」
「そうやって並んでいると夫婦みたいですよ」
「こらこら…変な事言わないの」
⚫︎⚫︎が嗜める。
「オレたちお似合い?」
他人なら興味がないのに平然と聞き返す。
「もちろん!前の旦那さんより…って口が滑りました、すみません…」
失言に慌てて頭を下げる。
「気にしないで、大丈夫だよー」
⚫︎⚫︎は笑っていたが、後輩は気まずそうに去っていった。
二人の背中を見つめながら思う。
(本当に、どんな男だったんだろーね…)
あの後輩より、オレの方が知らないかもしれない。
あの日結婚の報告を聞いた時から、不自然なくらい距離を取っていたのだから。
「幸せそうだったねー」
「⚫︎⚫︎はよくノロケに付き合ってあげるじゃないの」
オレなら無視するね、と自分の事は棚に上げて言った。
「そうー?可愛いじゃない」
ああいう時が一番楽しいもの、と微笑む。
「それよりカカシ。嫌な思いさせてごめんね」
「嫌って?」
「夫婦なんて言われてさ」
「………」
⚫︎⚫︎は嫌だと思うのか。
「オレは間違われてもいいけどね」
「え……」
⚫︎⚫︎は一瞬目を丸くしたが、すぐに笑い出した。
「アハハ。気持ちは嬉しいけど、初婚は慎重すぎるくらいがいいよ」
結婚の先輩からの助言だよ、と明るく笑う。
「私はバツイチ同士で探すくらいが丁度いいの」
そう⚫︎⚫︎が穏やかに言い切るのが気に食わなかった。
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