押入れの記憶
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「あったあった」
見つけた⚫︎⚫︎の顔が綻ぶ。
狭い押し入れの奥に眠っていた木箱は、予想通りの場所にあった。
上に重なっていた物を優しくどかしながら、自分の方へ引き寄せた。
少しだけ浮かせればずっしりとした重さを感じる。
両手でそっと蓋を開けた。
中身に異常もなさそうだ。
「それが“おひなさま”ってやつか?」
デイダラが背後から覗き込んで言った。
「そうだよ。本当に初めて見たの?」
「あぁ」
「芸術家って言うけど、意外と知らない事も多いよね」
「…アートは伸びしろがあった方がクールだろ」
口を尖らせて言った。
⚫︎⚫︎はお雛様を丁寧に取り出す。
(飾るのがギリギリになっちゃってゴメンね…)
心の中で詫びる。
去年の今頃は、長期任務が重なり出せずじまい。
今年もバタバタしていて前日の今日、やっと飾り付けをし始めた。
集中して口数が少なくなった⚫︎⚫︎に、もうかまってもらえないと悟ったデイダラは近くの椅子に掛ける。
「…一人で盛り上がってんじゃねーよ」
面白くなさそうに呟くが、夢中になっている⚫︎⚫︎の耳には届かない。
デイダラは飾り付けられていく雛人形を、頬杖をついて眺めていた。
ふと疑問が湧き、再び雛人形へと近づく。
手近な女雛を手に取る。
「…これ、ナカはどうなってたんだ?」
そう言ったかと思った瞬間、バキッと何かが鳴る音が響く。
(何、今の音…)
音のした方を見れば、デイダラの手にはお雛様の顔と身体が別々に握られていた。
「え……あーー!!!」
慌てて奪い取る。
「何してるのよ!」
信じられない行動にデイダラを睨むが、彼は悪びれもせずに言った。
「どうなってるか見たかっただけだ」
「馬鹿っ!」
「バカとはなんだ、バカとは!」
無邪気という言葉で許される事ではない。
(私のお雛様……)
⚫︎⚫︎はそれ以上何も言えず、腕の中の女雛を静かに見つめていた。
次第に視界が滲み出す。
その様子に気づいたデイダラが気まずそうに言った。
「また買えばいいだろ?」
「そういう問題じゃないよ…」
⚫︎⚫︎は暫く考えていたが、そっと雛人形を箱へ戻し出した。
「飾らないのか?」
「…もういい」
「オイラに見せてくれる約束だろ」
「…壊す人に見せるお雛様はない」
こういう時、デイダラは謝らない。
どれだけ非があろうとも、彼が謝っている所を見た事がない。
やるせない気持ちの行き場が分からず、堪えている涙が溢れそうだった。
悔しいので口元に力を入れて堪える。
次の雛人形を持とうとした時、自分の手が意図せず止まった。
違和感の先を目で追えば、デイダラが手首を掴んでいる。
「何…?」
「片付けるなよ」
「………」
⚫︎⚫︎は雛人形を見つめたまま、ボソッと呟く。
「これ、お母さんが買ってくれたの…」
もう天国に行ってしまったが、世界で一番大好きな人だったと告げた。
「あ?一番はオイラだろ?」
「さっきまではね…」
いつもなんだかんだ許してくれる⚫︎⚫︎の“もういいよ”の一言が聞こえない。
デイダラは内心焦っていた。
黙々と片付ける⚫︎⚫︎を見て、事の重大さを知る。
チッと舌打ちをした後、暫く無言が続く。
「…かった」
「ん?」
「…悪かったよ」
聞こえるか聞こえないかの声量でデイダラは言う。
「ウソ……」
⚫︎⚫︎は目を丸くした。
「ねぇ、もう一回言って?」
「もう二度と言わねぇ」
「……だよね」
デイダラが視線を外す。
心なしか彼の頬が赤い気がした。
「いいよ」
「………」
「許してあげる」
⚫︎⚫︎はデイダラへ微笑む。
プライドが高い彼の精一杯だろう。
いつもあり得ない事の連続でも突き放せないのは、憎めない優しさもあるからだった。
しかし、今そんな所が好きだと言えば調子に乗るのは目に見えている。
そっと胸にしまったまま、手にした男雛に語りかけた。
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