幸せにならないで
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いつもの部屋に馴染みのない人がいる。
視界で捉える度にその風景は浮いて見えた。
「荷物はこれで全部ですね」
「うん…ありがとう」
爽やかに微笑む男性に⚫︎⚫︎も微笑む。
殺風景になった部屋は、やけに声が響いた。
「もっと色々あるかと思ったんですが…これだけですか?」
「うん、あまり物は持たないの」
「へぇ…同意見です。気が合いますね」
嬉しいな、と彼は笑った。
私も嬉しいよと笑えば、じっとこちらを見つめて彼は言う。
「…それは愛想笑いですよね」
「そこ…ハッキリ言うかなぁ」
てっきり流されると思っていたので拍子抜けする。
その様子に慌てて彼が補足した。
「あのっ…責めてるわけじゃないですよ!いつか心から笑ってもらえるように、オレが側にいますから」
みていてください!と胸を叩く。
「ふふ…頼もしいね」
真っ直ぐな彼に目を細めれば涙腺が緩む。
物は少なくても思い出は多い部屋だった。
響く声も肌寒く感じる室温も、全てが消失感となって押し寄せる。
目に滲む涙を流すもんかと、彼に向かって無理矢理笑った。
「さて…目処もついたし休憩しましょう。何か飲み物買ってきますね」
「…ありがとう」
「好みはありますか?」
「特にないの、お任せしてもいい?」
「わかりました」
振り向きもせず、素早くドアから出て行く背中を見て思う。
(きっと優しい人なんだな……)
部屋のドアが閉まった後、堪えていた涙が頬を伝った。
ーーーーーーーーーーーーーー
「初めまして、火影様」
仕事で里内を移動していると急に声を掛けられた。
聞き慣れない声に歩みを止める。
「…君なのか」
賑やかだった人混みの声は気にならなくなった。
ほんの少しだけ、オレに声が似ていると思った。
自惚れかもしれない。
心のどこかで⚫︎⚫︎にオレを求め続けて欲しいと願っているせいだろう。
男が言った。
「⚫︎⚫︎さんの事、時々お伝えしますね」
優越感から来る提案ではない。
素直な男なのだろう。
しかしオレがそれを受け止められるほど、度量は広くなかった。
「…君から聞きたいことは何もないよ」
柱間は静かに微笑んで言う。
「離れていても、⚫︎⚫︎の事は全て分かる」
「………」
「それよりも…」
深々と頭を下げる。
「ありきたりな幸せでなく⚫︎⚫︎を誰よりも幸せにしてやって欲しい」
少しの間の後、困ったように男は言った。
「参りましたね…火影様にそんな事をされては…」
「お願いぞ、もう貴殿にしか任せられないのだ」
「ハハッ、同じように任せる所も仲が良い…。そんなに信用していただけるなんて光栄ですね」
尽力致します、と言って頭を下げた。
あぁ、この男が酷い奴なら…無理矢理にでも別れさせて⚫︎⚫︎の側にいられたのに。
邪魔する理由はもうオレには存在しない。
男は人並みへと飲まれていった。
大切な人が笑っていられたら、離れていても満ち足りた気持ちでいられる。
⚫︎⚫︎の幸せを託すことを、もう悔やんではいなかった。
