【本編】今夜もウサギの夢をみる
僕は、藍良とお付き合いをすることになった。
もう恋人になったのだから、お店には通わなくていいと藍良は言ってくれたけれど、僕はウサギさんの藍良に会いに行くのを辞めるつもりは全くない。
だって、僕は藍良の初めての指名客。誰より長く『あいら』を推しているのは僕なのだと、それだけは他のお客さんにだって譲れない。
それを藍良に話したら少し呆れていたけれど、照れくさそうに「気持ちは分かる」と言ってくれた。
「ヒロくんいらっしゃーい!」
僕は今日も、藍良の務めるウサギさんのコンセプトバーに顔を出す。藍良はカウンターの内側で、お酒用のグラスを拭いていた。カウンターには他のスタッフの姿もある。僕は藍良に案内されたカウンターの端の席へと座った。
「藍良もおつかれ様。カウンターの仕事には慣れた?」
藍良はウサギの耳をぴょんと揺らして首を横に振る。
「ぜーんぜん。でも楽しいよォ、色んなお客さんと話せるし」
藍良は『ひめる』さんの打診を受け、大学を卒業するまでこのバーで働くことになった。
藍良はご両親には「新しいバイトを探すより良い」と説得し、僕には「カレシから指名料をもらうわけにはいかない」と言い訳してカウンター担当になった。
「ひとりのお客さんとじっくりお話すればよかった今までと違って、カウンターのお客さん全員に気を配らないといけないところが難しい。……って、『ひめる』さんが言ってたよォ」
藍良が笑うと、『ひめる』さんが藍良に注文を聴くよう促した。藍良に渡されたメニューを見て、僕はカシスオレンジを二杯注文する。
「君も良かったらどうぞ」
「いいんですかァ? じゃーいただきまァす!」
藍良が作ってくれたお酒で、カウンター越しに乾杯する。『あいら』を指名できなくなったのは寂しいけれど、その代わり僕は藍良のプライベートな時間を独り占めできる。
時間が合えば藍良をお店まで送って飲んだり、迎えに来てラストまで飲んだりしている。今日は後者の日だ。
「それじゃあ」
外で待ってる、と僕は他のお客さんに聞こえないよう、口の動きだけでそれを伝える。藍良がにっこり笑って頷いた。
「ありがとうございまァす!」
藍良が元気に手を振ってくれる。藍良のあの笑顔のおかげで、カウンターを利用するお客さんが増えたらしい。僕がお店に通わないわけにはいかないのは、それも要因だったりするわけだ。
僕はいつものように、店の近くにある本屋で藍良を待つ。ビジネス書のコーナーを表紙を眺めながら通り過ぎ、文庫本のコーナーにたどり着く。
大学へ持って行くための新しい本を選んでレジを済ませ、出入口付近で雑誌を物色していたら後ろから突然抱き着かれた。
「えへへェ、お待たせェ」
振り返ると、僕のかわいいウサギさんが、変身を解いた姿で僕を見上げていた。僕とおそろいのつもりで買ったらしい赤フチの眼鏡がずれたのを直してあげる。
「お帰り藍良。夕食は何食べたい?」
「じゃあ今日はオムライスにしよォ」
僕たちは手を繋いで本屋をあとにする。
この後一緒に夕食をとって、藍良のお家に送ってあげるまでが僕のルーティン。
夢から覚めても、藍良がこうして僕の側にいてくれる。
藍良と、藍良と過ごせるこの時間を、これからもずっとずっと大切にしていこう。
僕は柔らかな手を握るたびに、そう心の中で誓う。
今夜もウサギの夢をみる 終
もう恋人になったのだから、お店には通わなくていいと藍良は言ってくれたけれど、僕はウサギさんの藍良に会いに行くのを辞めるつもりは全くない。
だって、僕は藍良の初めての指名客。誰より長く『あいら』を推しているのは僕なのだと、それだけは他のお客さんにだって譲れない。
それを藍良に話したら少し呆れていたけれど、照れくさそうに「気持ちは分かる」と言ってくれた。
「ヒロくんいらっしゃーい!」
僕は今日も、藍良の務めるウサギさんのコンセプトバーに顔を出す。藍良はカウンターの内側で、お酒用のグラスを拭いていた。カウンターには他のスタッフの姿もある。僕は藍良に案内されたカウンターの端の席へと座った。
「藍良もおつかれ様。カウンターの仕事には慣れた?」
藍良はウサギの耳をぴょんと揺らして首を横に振る。
「ぜーんぜん。でも楽しいよォ、色んなお客さんと話せるし」
藍良は『ひめる』さんの打診を受け、大学を卒業するまでこのバーで働くことになった。
藍良はご両親には「新しいバイトを探すより良い」と説得し、僕には「カレシから指名料をもらうわけにはいかない」と言い訳してカウンター担当になった。
「ひとりのお客さんとじっくりお話すればよかった今までと違って、カウンターのお客さん全員に気を配らないといけないところが難しい。……って、『ひめる』さんが言ってたよォ」
藍良が笑うと、『ひめる』さんが藍良に注文を聴くよう促した。藍良に渡されたメニューを見て、僕はカシスオレンジを二杯注文する。
「君も良かったらどうぞ」
「いいんですかァ? じゃーいただきまァす!」
藍良が作ってくれたお酒で、カウンター越しに乾杯する。『あいら』を指名できなくなったのは寂しいけれど、その代わり僕は藍良のプライベートな時間を独り占めできる。
時間が合えば藍良をお店まで送って飲んだり、迎えに来てラストまで飲んだりしている。今日は後者の日だ。
「それじゃあ」
外で待ってる、と僕は他のお客さんに聞こえないよう、口の動きだけでそれを伝える。藍良がにっこり笑って頷いた。
「ありがとうございまァす!」
藍良が元気に手を振ってくれる。藍良のあの笑顔のおかげで、カウンターを利用するお客さんが増えたらしい。僕がお店に通わないわけにはいかないのは、それも要因だったりするわけだ。
僕はいつものように、店の近くにある本屋で藍良を待つ。ビジネス書のコーナーを表紙を眺めながら通り過ぎ、文庫本のコーナーにたどり着く。
大学へ持って行くための新しい本を選んでレジを済ませ、出入口付近で雑誌を物色していたら後ろから突然抱き着かれた。
「えへへェ、お待たせェ」
振り返ると、僕のかわいいウサギさんが、変身を解いた姿で僕を見上げていた。僕とおそろいのつもりで買ったらしい赤フチの眼鏡がずれたのを直してあげる。
「お帰り藍良。夕食は何食べたい?」
「じゃあ今日はオムライスにしよォ」
僕たちは手を繋いで本屋をあとにする。
この後一緒に夕食をとって、藍良のお家に送ってあげるまでが僕のルーティン。
夢から覚めても、藍良がこうして僕の側にいてくれる。
藍良と、藍良と過ごせるこの時間を、これからもずっとずっと大切にしていこう。
僕は柔らかな手を握るたびに、そう心の中で誓う。
今夜もウサギの夢をみる 終