金曜日にキスするひいあい
⑧校庭
昼休みはいつもテラスで学食をとるのだが、今日はガーデンスペースのさらに向こう、運動部のコートがあるエリアまで足を伸ばした。二人は校庭のいたるところに設置されているベンチのひとつに座る。
ここからはテラスの人混みも、バスケットコートで休み時間を満喫する生徒の姿も見えて賑やかだ。
ガーデンスペースで二人と同じようにお弁当を食べたり、お茶を飲んでいる生徒たちがいるが、わざわざテーブルの無いベンチで弁当を食べようという者は少なく、二人きりとは言えないが落ち着くことができた。
今朝は二人で早起きして、星奏館のキッチンでお弁当を作った。一彩の黒い大きな弁当箱にも、藍良の丸い小さなお弁当箱にも、同じ構成でオムライス弁当が入っている。
チキンライスの上に薄く焼いた卵を被せ、ケチャップで味を付ける。前日作っておいた小さなハンバーグを一彩は二個、藍良は一個入れていた。茹でたブロッコリーとレタス、プチトマトで作ったサラダをフタ付きのミニボウルに入れてきたので栄養バランスも満点。
今日は良い天気だ。日の当たる庭のベンチでお弁当を食べる日も悪くないと一彩は思う。
「美味しそうだね」
「うん、最高!」
手を合わせていただきますをして、オムライスを一口すくって食べる。少し濃いめに味付けをしたそれは、口に入れた瞬間一気に満足度を及第点まで引き上げる。ゆっくり味わって食べたいのに、どんどんとスプーンが進んだ。
それほど時間をかけずに、でも美味しく弁当を食べた二人は弁当箱を包み直して鞄にしまい、水筒のお茶で一服する。
「毎日お弁当を作るのは大変だけど、藍良と二人きりでお昼休みを過ごせるのなら頑張りたいな」
一応ここは外だし、周りにもお弁当派の生徒たちが昼食をとっている姿やバスケットコートで自主練をしている生徒の姿があるので「二人きり」ではないのだが。
「おれ朝練はあんまり参加してないから、朝ヒロくんに合わせて早起きするの大変なんだけど?」
「僕がお弁当を二人ぶん作ったり、藍良が僕のぶんを作ってくれたり柔軟に対応すればいけるよ」
一彩は仕事があって不可能な日以外は、空手部の朝練に参加している。朝一緒に登校する日は意外と少ない。
今朝は一緒に弁当を作ろうと約束していたので、一彩は朝練には参加しなかった。
「確かにお弁当を作れば食費も浮くし、何よりゆっくりおしゃべりできるもんねェ」
藍良が少し考える仕草をする。しかし、時間があればアイドルのライブ映像やバラエティ番組の録画を観ている藍良は夜更かししがちで、朝起きるのにはめっぽう弱かった。
「うん。藍良が手作りのお弁当を届けてくれるのを想像したらわくわくしてきたよ」
「甘えるなァ」
藍良が一彩を肘で小突いて笑った。
「でも、悪くないかもねェ」
「でしょ?」
二人で、またはどちらかが二人ぶんのお弁当を作って、昼休みに一緒に食べる。
「そうなったらまるで恋人同士みたいだね」
「そのつもりなんだけど?」
咄嗟に返してから、藍良は一彩が冗談を言ったことに驚いた。そして、自分が「恋人」を肯定したことに思わず赤面する。
「藍良」
突然名前を呼ばれた藍良が顔を上げると、一彩に軽く頬を撫でるようにして振り向かせられ、唇を重ねられた。触れた時間は一瞬で、気づいた時には一彩は離れてしれっと正面に視線を戻していた。後からだんだん顔が熱くなってくる。
「なっ、何すんのォ!」
「誰も見てなかったよ」
一彩が笑顔で答えると、藍良が悔しそうに頬を膨らませる。
「……放課後はおれからする」
「ふふ、楽しみにしているよ」
もうすぐ予鈴の時間。
学年の違う二人が次に会えるのは放課後。大胆な約束を交わして、二人はそれぞれの教室へと向かうことにする。
おわり
昼休みはいつもテラスで学食をとるのだが、今日はガーデンスペースのさらに向こう、運動部のコートがあるエリアまで足を伸ばした。二人は校庭のいたるところに設置されているベンチのひとつに座る。
ここからはテラスの人混みも、バスケットコートで休み時間を満喫する生徒の姿も見えて賑やかだ。
ガーデンスペースで二人と同じようにお弁当を食べたり、お茶を飲んでいる生徒たちがいるが、わざわざテーブルの無いベンチで弁当を食べようという者は少なく、二人きりとは言えないが落ち着くことができた。
今朝は二人で早起きして、星奏館のキッチンでお弁当を作った。一彩の黒い大きな弁当箱にも、藍良の丸い小さなお弁当箱にも、同じ構成でオムライス弁当が入っている。
チキンライスの上に薄く焼いた卵を被せ、ケチャップで味を付ける。前日作っておいた小さなハンバーグを一彩は二個、藍良は一個入れていた。茹でたブロッコリーとレタス、プチトマトで作ったサラダをフタ付きのミニボウルに入れてきたので栄養バランスも満点。
今日は良い天気だ。日の当たる庭のベンチでお弁当を食べる日も悪くないと一彩は思う。
「美味しそうだね」
「うん、最高!」
手を合わせていただきますをして、オムライスを一口すくって食べる。少し濃いめに味付けをしたそれは、口に入れた瞬間一気に満足度を及第点まで引き上げる。ゆっくり味わって食べたいのに、どんどんとスプーンが進んだ。
それほど時間をかけずに、でも美味しく弁当を食べた二人は弁当箱を包み直して鞄にしまい、水筒のお茶で一服する。
「毎日お弁当を作るのは大変だけど、藍良と二人きりでお昼休みを過ごせるのなら頑張りたいな」
一応ここは外だし、周りにもお弁当派の生徒たちが昼食をとっている姿やバスケットコートで自主練をしている生徒の姿があるので「二人きり」ではないのだが。
「おれ朝練はあんまり参加してないから、朝ヒロくんに合わせて早起きするの大変なんだけど?」
「僕がお弁当を二人ぶん作ったり、藍良が僕のぶんを作ってくれたり柔軟に対応すればいけるよ」
一彩は仕事があって不可能な日以外は、空手部の朝練に参加している。朝一緒に登校する日は意外と少ない。
今朝は一緒に弁当を作ろうと約束していたので、一彩は朝練には参加しなかった。
「確かにお弁当を作れば食費も浮くし、何よりゆっくりおしゃべりできるもんねェ」
藍良が少し考える仕草をする。しかし、時間があればアイドルのライブ映像やバラエティ番組の録画を観ている藍良は夜更かししがちで、朝起きるのにはめっぽう弱かった。
「うん。藍良が手作りのお弁当を届けてくれるのを想像したらわくわくしてきたよ」
「甘えるなァ」
藍良が一彩を肘で小突いて笑った。
「でも、悪くないかもねェ」
「でしょ?」
二人で、またはどちらかが二人ぶんのお弁当を作って、昼休みに一緒に食べる。
「そうなったらまるで恋人同士みたいだね」
「そのつもりなんだけど?」
咄嗟に返してから、藍良は一彩が冗談を言ったことに驚いた。そして、自分が「恋人」を肯定したことに思わず赤面する。
「藍良」
突然名前を呼ばれた藍良が顔を上げると、一彩に軽く頬を撫でるようにして振り向かせられ、唇を重ねられた。触れた時間は一瞬で、気づいた時には一彩は離れてしれっと正面に視線を戻していた。後からだんだん顔が熱くなってくる。
「なっ、何すんのォ!」
「誰も見てなかったよ」
一彩が笑顔で答えると、藍良が悔しそうに頬を膨らませる。
「……放課後はおれからする」
「ふふ、楽しみにしているよ」
もうすぐ予鈴の時間。
学年の違う二人が次に会えるのは放課後。大胆な約束を交わして、二人はそれぞれの教室へと向かうことにする。
おわり