金曜日にキスするひいあい
④放課後
くるくるの髪を撫でても、肩を軽くつっついても、ヒロくんは起きない。
ここまでぐっすり眠っているなんて、よっぽど疲れていたんだろう。
夕陽でオレンジ色に染まった空き教室で、おれはヒロくんの寝顔を眺めながら数学の宿題を解いていた。
腕を枕にして机に伏せて寝ているヒロくん。伏せた頭と腕の隙間から見える長いまつ毛と、すーすーと聞こえる寝息。
ヒロくんはここ数日ソロの仕事で遠征していて、昨日の夜遅くに帰ってきたばかり。
今日まで休めばよかったのに、久しぶりに学校に行けるからと張り切っていた。
でもさすがに夕方になって疲れがどっと来たのか、放課後おれを迎えに来てくれた時は少しぼーっとしていた。
家に帰って部屋で一人になるとそのままベッドに倒れてしまいそうだからと、気が抜ける前にやるべきことをやってしまおうと考えたみたい。さっきまで一緒に宿題をしていたんだけど、たった今電池が切れて眠ってしまった。
簡単な問題を一問、二問と解いて、応用問題はちんぷんかんぷんだったから、使う公式を予想して途中式を書いておいた。いつもならヒロくんに教えてもらうんだけど、起こしてしまうのは可哀想だ。
おれは教科書とノートを片付けて、頬杖をついてヒロくんを眺めた。
こんな無防備なヒロくんは珍しい。よっぽど安心してくれてるんだなァって、ちょっと嬉しくなる。
おれもヒロくんの顔みるの数日ぶりだし、もう少し付き合ってやるか。
スマホをいじっていたらあっという間にニ十分ほど過ぎた。
途中、廊下を他の生徒が通りかかり、中におれたちが居るのを見てそそくさと通り過ぎて行ったのがなんとなく分かった。でも、気づかないふりをしてスマホでSNSをチェックしていた。
「おーい、暗くなる前に帰ろ」
もう一度、ヒロくんの肩をつんつんしてみる。すると今度は反応があった。
腕の隙間から見えていた目が開いて、長いまつ毛がぱちっと開いた。
顔を上げてふわっとあくびをする。腕に頭を乗せていた痕がついていた。そんなレアなヒロくんをおれはスマホで撮影する。
「んー、撮ったの?」
そう言ってヒロくんがおれのスマホを持っている方の腕を軽く掴む。写真を見せてあげようとしたら、ヒロくんはスマホじゃなくておれの顔を見ていた。
そしてそのまま、ヒロくんの顔が近づいてきて唇に柔らかいものが触れるのをそのまま許してしまった。
「えっ、ちょっと何すんのヒロくん!」
おれは思いきり仰け反って離れる。咄嗟に廊下を見たけれど、幸いだれも居なかった。
「つい……夕陽の中の藍良が綺麗だったから」
「も、もォ油断しすぎ! さっき人通ったんだからね!」
寝顔を眺めたり髪を触ってたおれも人のこと言えないけど、キスは言い逃れできないでしょ。
「ふふ、ごめんね。僕どれくらい寝てた?」
「……ニ十分くらい」
「付き合ってくれてありがとう。帰ろうか」
そう言って、ヒロくんがスクールバッグを持って立ち上がる。
さっきまで背中を丸めて小さくなって眠っていたのに、もういつものヒロくんだ。
「宿題、終わらなかったな」
「昨日までお仕事頑張ってたんだから免除免除」
おれがそう言うと、ヒロくんは笑った。どうせ提出期限までには終わらせるんだろうから、今日くらいは帰ったらすぐ休んでほしい。
トレーニングだとか言って寮を飛び出さないように、今日はおれがヒロくんを見ていてあげようと思う。
おわり
くるくるの髪を撫でても、肩を軽くつっついても、ヒロくんは起きない。
ここまでぐっすり眠っているなんて、よっぽど疲れていたんだろう。
夕陽でオレンジ色に染まった空き教室で、おれはヒロくんの寝顔を眺めながら数学の宿題を解いていた。
腕を枕にして机に伏せて寝ているヒロくん。伏せた頭と腕の隙間から見える長いまつ毛と、すーすーと聞こえる寝息。
ヒロくんはここ数日ソロの仕事で遠征していて、昨日の夜遅くに帰ってきたばかり。
今日まで休めばよかったのに、久しぶりに学校に行けるからと張り切っていた。
でもさすがに夕方になって疲れがどっと来たのか、放課後おれを迎えに来てくれた時は少しぼーっとしていた。
家に帰って部屋で一人になるとそのままベッドに倒れてしまいそうだからと、気が抜ける前にやるべきことをやってしまおうと考えたみたい。さっきまで一緒に宿題をしていたんだけど、たった今電池が切れて眠ってしまった。
簡単な問題を一問、二問と解いて、応用問題はちんぷんかんぷんだったから、使う公式を予想して途中式を書いておいた。いつもならヒロくんに教えてもらうんだけど、起こしてしまうのは可哀想だ。
おれは教科書とノートを片付けて、頬杖をついてヒロくんを眺めた。
こんな無防備なヒロくんは珍しい。よっぽど安心してくれてるんだなァって、ちょっと嬉しくなる。
おれもヒロくんの顔みるの数日ぶりだし、もう少し付き合ってやるか。
スマホをいじっていたらあっという間にニ十分ほど過ぎた。
途中、廊下を他の生徒が通りかかり、中におれたちが居るのを見てそそくさと通り過ぎて行ったのがなんとなく分かった。でも、気づかないふりをしてスマホでSNSをチェックしていた。
「おーい、暗くなる前に帰ろ」
もう一度、ヒロくんの肩をつんつんしてみる。すると今度は反応があった。
腕の隙間から見えていた目が開いて、長いまつ毛がぱちっと開いた。
顔を上げてふわっとあくびをする。腕に頭を乗せていた痕がついていた。そんなレアなヒロくんをおれはスマホで撮影する。
「んー、撮ったの?」
そう言ってヒロくんがおれのスマホを持っている方の腕を軽く掴む。写真を見せてあげようとしたら、ヒロくんはスマホじゃなくておれの顔を見ていた。
そしてそのまま、ヒロくんの顔が近づいてきて唇に柔らかいものが触れるのをそのまま許してしまった。
「えっ、ちょっと何すんのヒロくん!」
おれは思いきり仰け反って離れる。咄嗟に廊下を見たけれど、幸いだれも居なかった。
「つい……夕陽の中の藍良が綺麗だったから」
「も、もォ油断しすぎ! さっき人通ったんだからね!」
寝顔を眺めたり髪を触ってたおれも人のこと言えないけど、キスは言い逃れできないでしょ。
「ふふ、ごめんね。僕どれくらい寝てた?」
「……ニ十分くらい」
「付き合ってくれてありがとう。帰ろうか」
そう言って、ヒロくんがスクールバッグを持って立ち上がる。
さっきまで背中を丸めて小さくなって眠っていたのに、もういつものヒロくんだ。
「宿題、終わらなかったな」
「昨日までお仕事頑張ってたんだから免除免除」
おれがそう言うと、ヒロくんは笑った。どうせ提出期限までには終わらせるんだろうから、今日くらいは帰ったらすぐ休んでほしい。
トレーニングだとか言って寮を飛び出さないように、今日はおれがヒロくんを見ていてあげようと思う。
おわり