金曜日にキスするひいあい
③ベッドとソファ
風呂上りの、肌のしっとりした藍良を抱きしめる瞬間が好きだ。
照れたように身じろぎするのもかわいいし、耳が少し赤くなっているのもかわいい。
うなじから石鹸の匂いがする。顔を埋めると、藍良の匂いもする。
今日は藍良の同室の先輩が二人とも不在。藍良が泊まりに来ていいと誘ってくれた。
期待して来てみたけれど、シャワーから上がった藍良に言われるまま髪を乾かしてあげた後は、藍良はずっとスマホを構っている。
僕はベッドに腰掛けて、藍良を膝に座らせて、後ろからしっかり抱きしめて体温を共有している。温かくて、柔らかくて気持ちいい。
「もォ、ヒロくんいい加減放して」
「どうして?」
嫌がる猫のように身体を捩って逃げようとする藍良。
でも、力では僕に叶わないと思ったのか、すぐにまた僕の腕の中におさまる。
「もうすぐ気になってるアイドルの配信が始まるのォ」
藍良の肩越しにスマホの画面をのぞいてみる。僕も知っている動画サイトが表示されていた。
「こんな深夜に?」
「深夜だからだよォ」
それは動画投稿サイトで行われる、とあるアイドルグループのトーク番組らしい。配信用のスタジオにメンバーが集まって、ファンから寄せられたお便りを読んだり、ゲームをしたりするそうだ。
僕たちALKALOIDも、何度か似たような配信をしたことがあるから、なんとなく概要は分かった。
「ふぅん」
「だからね、放して」
藍良が車のシートベルトを外すみたいに、お腹にある僕の腕を引っ張る。そしてまた諦めたように力を抜いて、今度はこう言ってきた。
「ねェ、キスしていいから」
「え?」
突然の提案に思わず腕の力を緩めると、その隙に藍良が身体の方向を換えて僕と向かい合う。鼻と鼻が触れそうな距離で、藍良が甘く囁く。
「キスしていいから、言うこときいて?」
体勢が崩れたのを立て直す前に唇が重なる。瞬間、身体の芯に熱が灯るのを感じる。藍良に先手を打たれたことに少しだけ悔しくなって、こちらに傾いた体重を押し返した。
片手を背中に回して、もう片方の手でうなじを撫でると、藍良の声が鳴る。
ちゅっとわざと音を立ててから見つめたら、藍良がぷいっと横を向いた。これでいいでしょ、と書いてある頬を撫でながらもう一度目を合わせる。
「……だめ」
「え?」
そんなかわいいキスじゃ、いうこときかないよ。
藍良もいい加減気づいてると思うけど、僕もそれくらいにはわがままなんだよ。
「やだ、放さない」
「ええー……」
ぎゅっと力を込めて抱きしめたら、藍良が間延びした声を出した。
「僕も一緒にその配信を見る」
「も、もう分かったからァ。じゃあソファで一緒に観よ」
僕はさっきみたいに、藍良を腕の中に捕まえたまま一緒にスマホの画面を覗き込むのでも良かったんだけど。
あんまり要求しすぎるて藍良の機嫌を損ねたらせっかくの泊まりが台無しだ。夜はまだまだ長いしね。
そう頭の中を整理しながら、僕は言われた通りソファに座った。
藍良がスマホの画面をテレビに映して、僕の隣に座る。
「あとでちゃんと相手してあげるから、大人しくしててよねェ」
膝に座ってよって言おうとしたところで、藍良が僕の肩に頭を乗せて甘えてくれた。
今のところは、それでよしとする。
おわり
風呂上りの、肌のしっとりした藍良を抱きしめる瞬間が好きだ。
照れたように身じろぎするのもかわいいし、耳が少し赤くなっているのもかわいい。
うなじから石鹸の匂いがする。顔を埋めると、藍良の匂いもする。
今日は藍良の同室の先輩が二人とも不在。藍良が泊まりに来ていいと誘ってくれた。
期待して来てみたけれど、シャワーから上がった藍良に言われるまま髪を乾かしてあげた後は、藍良はずっとスマホを構っている。
僕はベッドに腰掛けて、藍良を膝に座らせて、後ろからしっかり抱きしめて体温を共有している。温かくて、柔らかくて気持ちいい。
「もォ、ヒロくんいい加減放して」
「どうして?」
嫌がる猫のように身体を捩って逃げようとする藍良。
でも、力では僕に叶わないと思ったのか、すぐにまた僕の腕の中におさまる。
「もうすぐ気になってるアイドルの配信が始まるのォ」
藍良の肩越しにスマホの画面をのぞいてみる。僕も知っている動画サイトが表示されていた。
「こんな深夜に?」
「深夜だからだよォ」
それは動画投稿サイトで行われる、とあるアイドルグループのトーク番組らしい。配信用のスタジオにメンバーが集まって、ファンから寄せられたお便りを読んだり、ゲームをしたりするそうだ。
僕たちALKALOIDも、何度か似たような配信をしたことがあるから、なんとなく概要は分かった。
「ふぅん」
「だからね、放して」
藍良が車のシートベルトを外すみたいに、お腹にある僕の腕を引っ張る。そしてまた諦めたように力を抜いて、今度はこう言ってきた。
「ねェ、キスしていいから」
「え?」
突然の提案に思わず腕の力を緩めると、その隙に藍良が身体の方向を換えて僕と向かい合う。鼻と鼻が触れそうな距離で、藍良が甘く囁く。
「キスしていいから、言うこときいて?」
体勢が崩れたのを立て直す前に唇が重なる。瞬間、身体の芯に熱が灯るのを感じる。藍良に先手を打たれたことに少しだけ悔しくなって、こちらに傾いた体重を押し返した。
片手を背中に回して、もう片方の手でうなじを撫でると、藍良の声が鳴る。
ちゅっとわざと音を立ててから見つめたら、藍良がぷいっと横を向いた。これでいいでしょ、と書いてある頬を撫でながらもう一度目を合わせる。
「……だめ」
「え?」
そんなかわいいキスじゃ、いうこときかないよ。
藍良もいい加減気づいてると思うけど、僕もそれくらいにはわがままなんだよ。
「やだ、放さない」
「ええー……」
ぎゅっと力を込めて抱きしめたら、藍良が間延びした声を出した。
「僕も一緒にその配信を見る」
「も、もう分かったからァ。じゃあソファで一緒に観よ」
僕はさっきみたいに、藍良を腕の中に捕まえたまま一緒にスマホの画面を覗き込むのでも良かったんだけど。
あんまり要求しすぎるて藍良の機嫌を損ねたらせっかくの泊まりが台無しだ。夜はまだまだ長いしね。
そう頭の中を整理しながら、僕は言われた通りソファに座った。
藍良がスマホの画面をテレビに映して、僕の隣に座る。
「あとでちゃんと相手してあげるから、大人しくしててよねェ」
膝に座ってよって言おうとしたところで、藍良が僕の肩に頭を乗せて甘えてくれた。
今のところは、それでよしとする。
おわり