金曜日にキスするひいあい

①共有ルーム


『キスしたい』
 勉強中に突然スマホが鳴ったと思ったら、そんなメッセージを受信していた。
 メッセージの相手は藍良。これが夜中の呼び出しなら『どうしたの』と胸を高鳴らせながら返信しているところなのだが、肝心の藍良本人は僕のすぐ隣にいる。


 ここは星奏館の共有ルーム。藍良が宿題をしたいから終わるまで付き合って欲しいと言うから、僕も自分の勉強をしながら藍良を見守っていた。
 テーブルの一つを借りて横並びに座り、それぞれ自分の勉強をし、たまに藍良が僕に勉強の質問をする。
 他のアイドル達が感心してくれたり、褒めてくれたりしながら通り過ぎていく。
 寮の他の住人たちはそれぞれが一定の間隔を空けて椅子やソファに座り、本を読んだり勉強したり、仕事をしながら過ごしている。そんな静かな中だから、鞄の中のスマホが震えているのがすぐに分かった。


 顔を上げて隣の藍良を見ると、素知らぬ顔で宿題を続けている。その横顔は、少し頬が赤くなっているような気がした。
 僕は藍良に返信をする。
『宿題終わったの?』
 藍良のスマホが震える。
 様子を盗み見ると、数学のノートの方程式は解の途中だった。
 藍良が慣れた手つきでスマホの液晶画面を指で撫でる。
『終わってない』
『じゃあ終わってからね』
『やだ。今したくなった』
『そう言って勉強したくないだけだよね』
『勉強したくないんじゃなくて、キスしたいの』
 屁理屈をこねる藍良が可愛らしく、僕は思わず口角を上げた。根負けということだ。
 最初から我慢比べをするつもりも、勉強が終わるまでおあずけにするつもりもなかったけれど。
 お互い、同時に顔を上げて目を合わせる。一応あたりを見渡して、誰もこちらを見ていないことを確認する。
「藍良」
 小さく名前を呼ぶ。目を閉じる藍良に軽く触れるだけのキスをした。
 たった一瞬だったけれど、柔らかな唇の形を意識するのには充分な時間だった。
 名残惜しさを振り払って二人とももとの体勢に戻る。
 藍良が頬杖を突いて満足そうにこちらを見ていた。
 勝ち誇った顔をしている時の藍良は特に可愛いけれど。それに毎回まんまと乗せられてしまって悔しい。


 宿題が終わったら覚えておいてね、藍良。




おわり
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