第3話
「記憶がなくなった…?」
ルークは茫然自失の中、告げられたばかりの事を無意識に繰り返す。
それを告げたのは常日頃天敵と口喧嘩ばかりしているユーリだ。
なんでそんなことにとか、お前がついていたのにとか色々と頭の中には浮かぶが、それをぶつけたい相手であるユーリが目の前にいるのに口にすることは出来なかった。
淡々とした口調で告げたユーリだったが、表情は無理やり自分の感情を抑え込んでいるようにも見え、普段の印象とは大分乖離していたから。
けれど、きっとそれだけが原因ではない。
一番の原因はきっと先ほどあったことだ。
******
それは今朝の事だった。
バンエルティア号のとある廊下。
その窓から差し込む朝日を体に受けながらルークとガイは歩いていた。
「あー…ねみぃ…」
ルークはふあっと欠伸をして、まだ覚め切らない頭で呟く。
元々寝起きの良い方ではないルークとしてはもう少し寝ていたかったと不機嫌さを隠すことなく表情を浮かべている。
その様子を起こした張本人であるガイはルークの隣で軽く笑う。
「昨日は夜中にいきなり雷が落ちたからなあ」
「ばっ!か、雷があったから眠れなかったわけじゃねぇ!」
雷という単語に過敏に反応するルークに、思わず笑いがこみ上げてくるが、それを必死に抑える。
実は昨日の深夜、いきなり天候が悪化し、雷の音が響いた。といってもすぐ近くに落ちたわけではなく、大分遠くの方で起こっていることだということはすぐに分かっていた。
だが、そうだと分かっていつつもルークはベッドの中で身を縮こませながら雷の音に翻弄された。
眠りにつこうとすると雷が落ちてその度に体をびくつかせていたのを、一緒の部屋にいたガイは知っていた。
声をかけても変に意地を張るルークは大丈夫の一点張りで、結局眠りについたのは大分時間が過ぎた頃だった。
「とりあえず、朝食をー…ん?」
「…?」
ふと歩みを止めたガイに気づいたルークも歩みを止める。
見ればガイはある方向を向いていて、その視線の先を追うと、アンジュを始めとしたギルドの面々の姿が目に入った。
同じ屋根の下で暮らしている仲間達の姿を見ることなど当たり前の光景で、普段なら特に気にすることはない。
ただ、どうもその面々の様子がおかしかった。
どこか戸惑ったような、険しいような表情を浮かべ、真剣に何かを議論していたのだ。
なんだろうと一緒にいたガイと顔を見合わせ、アンジュ達の方に向かう。
すると、その人だかりの中心に、リフィル、リタ、ユーリ、ルーの姿があるのが見えた。
ユーリの姿に「ゲッ!」と思わず声を漏らしたルークだったが、ルーを見るなりそれも一瞬で忘れてしまった。
遠くから見てもわかるくらい顔色は悪く、何かに怯えているような表情で、体を縮こませていて、どう見ても異常だった。
ルークは目を見開くと次の瞬間ダッと駆け出す。
「おい!!」
「!ルーク!?」
眉を上げながら突然現れたルークにリフィルやアンジュはハッとした表情からすぐにまずいと焦り出す。それに更にイラッとしたルークは、ルーに何したと口を開こうとした時だった。