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第1話






晴天広がる昼下がり。

ユーリはバンエルティア号の中である人物を探し歩いていた。
その人物はユーリにとって特別で一番甘やかしたいと思っている、恋人のルーだ。
特別な関係で同じ部屋のルーとはよく行動を共にするが、常に一緒にいるかと言われるとそうではなく、お当番やクエストの時や他の仲間達と余暇を過ごす時は傍を離れたりする。

この日はルーとユーリは休暇中で久しぶりにお互い自分の時間を満喫していた。

ユーリは自室の窓辺に腰をかけながらのんびりと過ごしていたのだが、ふと空腹を覚え時計を見ると丁度お昼時になっていた。
もうそんな時間かと思いつつユーリは軽く体を伸ばす。
窓からは温かな日差しと共に心地よい風が吹いており、ふと思いつく。
折角ならルー誘って飯でも食いに行くか。
船内で食べてもいいのだが、偶には気晴らし…もとい、ルーを独占したい。
確かルーは剣の稽古しに行ってくると言っていたのを思い出し、ユーリは剣稽古でよく使っている場所へ向かった。





しばらくして稽古場へ到着したのだが、そこにはクレス達の姿はあったもののルーの姿がなかった。
それに首を傾げているとユーリの存在にロイドが気づく。

「あれ?ユーリ?」

珍しい客にどうしたんだろうと首を傾げるロイドとクレスに、ユーリはあー…と呟き、ルーの事を聞こうした、が。

「知らねぇよ」

そうばっさりと言い切ったのは、不機嫌そうなルーク。
いやまだ何も言ってねえんだけど。
主語のない発言にロイド達は頭上にハテナを飛ばしていると、ルークは呆れたような投げやりの表情を見せる。

「どうせ、ルー探してんだろ」

ビンゴ。よくわかったな。

「あ、そうなのか?」
「ルーならさっきまでここにいたけど、何か用事を思い出したってあっちの方へ行ったよ」
「そうか」

クレスが指差す先を見やり、軽く礼を言いつつ歩み出す。

その後ろ姿を見送ったクレスとロイドはルークの方を見る。

「ルークよくわかったね。ユーリがルー探してるって」
「はぁ?どこからどう見てもわかるだろ。」
「そうか??」
「つーかあいつがわざわざこんなとこ来る理由なんて他にねぇだろ」
「「あ、そうか」」










あそこにいないってことはどこに行ったんだ?

再びルーを探しを始めるが、おおよその想定していた場所にいなかったこともあり、首を傾げる。恐らくこの船内からは出ていないはずではあるが、如何せんこの船内もなかなか広い。

とりあえず他に行く可能性が高いところといえば…。
一つ思い当たる場所があり、そちらの方へ足を向けた。




暫くして、皆がよく使う食堂に来た。
お昼時ということで、多数の仲間達の姿が見える。が、そこには探している朱は視界に入ってこない。
軽く見渡していると、たまたま目に留まったのはエステル、フレン、ジュディス、リタの姿で、向こうも俺の存在に気づいたようだった。
もしルーを見かけているようなら絶対に声をかけるであろう面々だったこともあり、近づくとエステルは軽く会釈するなり、笑顔ではっきりと言った。

「ルーなら見ていませんよ?」

いや、だからまだ何も言ってねぇんだって。
さっきのお坊ちゃんといい、いったい何なんだと怪訝な顔をすると、エステルは首を傾げた。

「違うんです?」
「…いや、まあ合ってんだけどな」

合っているからこその上手く反応できずにいるのだが、どうやらその事に気づいたようで、エステルはそれはもう嬉しそうに笑顔を見せる。

「ユーリを見ていればわかります。」
「…そういや、前にも言ってたな」

深く追求したことはないが、時折言われる言葉だ。
見ていればわかると言われても、よくわからない。

「ユーリは気づいていないかもしれませんが、ルーの事になるととてもわかりやすいですよ?」

ですよね?とエステルはジュディス達を見ると皆一様に頷く。
フレンに至っては、どことなく面白がっているような、微笑ましいものを見ているような表情を浮かべていて正直居心地が悪い。

「わかりやすい、ねぇ…」
「わかりやすいというか、アンタ露骨なのよ」

リタは呆れ顔で言えば、フレンはそうだねと口を開く。

「少し前のユーリを知っている人からすれば驚くほどだよ」
「そうね、ルーがここに来たその日からだったかしら。初めは何か悪いものでも食べたんじゃないかって話してたのよ。おじさまが」

それは本当にあのレイブンが言い出したことなのか疑問に残るジュディスの話だったが、その他の面々はうんうんと頷いている。

「ルーに初めて会った時も、ユーリは誰に言われるでもなく自らルーに話しかけていました。普段のユーリからは考えられません!」
「・・・・・・」

確かにあの時、突然現れたルーに皆が驚いたが、その中で一番先に動いたのも、声をかけたのも、名を名乗ったのもの自分である。
基本的にあまり他の奴に対して興味ないし、自ら名乗りでるような性格でもない。
それを知っている奴からしたら、あの時の自分は相当珍しいものだったのだろう。
現に今言われた自分自身も初めは驚いていた。

「そのあともずっとルーを目で追っていましたし…。あんなユーリを見たのは初めてだったので、これは絶対に一目惚れしたのだと私はあの時確信したんです!」
「ルーを見つめる時と他の人を見る時のあなたは別人よ?」

ジュディスからの援護もあり、エステルは目をキラキラと輝かせながら、ですよね!と息巻いている。

「レイブンも言っていました。あとユーリが人間らしくなったって」
「おい」

なんだそれは。おっさん、あとで覚えておけよ。
ここにはいないあのヘラヘラ顔が脳裏の浮かんだが、すぐに頭を切り替える。
とりあえずここにルーは来ていないということであれば、長居は無用だ。
ここにいると何を言われるかわからない、さっさと離れた方がいいと考えていると、ふとキッチンの方に見えた影にピクリと体が反応する。
それを見たのであろうフレンは感心した表情を浮かべる。
幼馴染の妙に生暖かい目に益々居たたまれなくなり、すぐにその場を離れた。








キッチンに向かうとそこには、探していたルーの姿があった。
何やらゴソゴソと棚を冷蔵庫を漁っており、こちらに気づく様子はない。
一体何をしているのかと、声もかけず足音を殺しながら背後に近づく。

「よし!」
「何がよしなんだ?」
「!!!!?ユユユユーリっ!!?」

背後から覗き込むように耳元で耳打ちすると、体を大きくびくつかせ驚愕した声を上げるルー。
余程驚いたのか、元々パッチリと大きな目は更に大きく見開かれ、その身は弾かれたように引かれる。
が、その反応は見通していたため、腰をがっと掴んで退路を塞ぐ。
漸く見つけたぞという気持ちで見ていると、ルーは徐々にだが落ち着いてきたようで、びっくりした…と吐露する。

「心臓に悪ぃよユーリ…」
「あーわり。で、何してんだ?」
「あ、え、えっと…その…」

ルーはさっと手元にあるものを隠し、目を泳がせる。
…まさかまた誰かから何か貰ったんじゃ…
ルーはこのアドリビトムは勿論のこと、買い出し先やクエスト先でも度々可愛がられる。元々容姿も整っているし、性格も良い。何より甘やかしたくなる。
それはわかる。わかる…が、結果として邪な気持ちでルーに近づいてくるものも多く、それらの排除にここ最近手を焼いている。
事実たまに誰だかわからない奴から送られてきた贈り物を手に困った様子のルーを見る頻度が高くなってきており、その度に俺の嫁に何をしてんだとイライラする。
また誰かがルーを餌付けしようとしているのかと一瞬考えたのだが、ルーは目を泳がせつつ顔を赤くしている。くそ可愛いな。

「ルー?」
「うう…本当はちょっと味見してからと思ったんだけど…」

何やらブツブツと独り言を呟いていたルーは、意を決したように隠していたものをおずおずと差し出してきた。
見ると、そこには小さなトレイの上に二つの小さめなカップがあり、よく見るとそれは少しすがはいったプリン。
これはもしやと思い、ルーを見ると顔を赤くし少し上目遣いでこちらを見ていた。

「…い、いつもユーリにお菓子作ってもらってばかりだったから、たまには俺もユーリに食べてもらおう…って思って、作ったんだ」

恥ずかしさと不安からか少し声が震えながらの告白に、一瞬思考が止まってしまった。

「…俺に?」
「う、うん。剣稽古に思いついて急いで作ったから、ついさっきまで冷やしてたんだ。」

しんと静まり返る中ルーは、あ、でもと必死に弁明を始めた。

「み、見た目はあれだけど、これはちゃんとアニスに教えてもらって作ったから、味は大丈夫だと思…」

思うと言い切る前に、その唇を己のそれとで塞いだ。
突然のことに驚き固まるルーを尻目に俺はお構いなしに、そのまま深くキスをする。
本当、こいつはどこまで人と落とせば気が済むのか。
息苦しさと恥ずかしさで必死に俺の胸を叩き抵抗を見せるが、そんな小さな抵抗は全く効くことはなかった。



一方、その様子をプリンの指南役であるアニスが死んだ魚のような目で見ていた。




その後、エステル筆頭に剣稽古していた3人組を含む野次馬が集まり始めた辺りでルーから強烈な一発を受け強制的に中断。
その時のルーは首まで真っ赤にして涙目で睨んでくるものだから、思わず試されているのではという気分になり、これは部屋に帰ったら…といろいろと思案を巡らしながら、ルーの作ったプリンを口にする。

なんてことのない一日だが、それでも穏やかで幸せを感じる日々。


だが、その数日後、とんでもない事件が起き、状況が一変した。

続く

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