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時をこえた願いを(後編)



忘れられた塔に到着し、中枢へと向かうと時のオーブの前に佇む時の番人がいた。

「またあいましたね。ふしぎなたびびとたちよ……。ロトゼタシアにかげをおとすじゃあくなけはいはきえ せかいはすくわれました。もうここにはようはないはず。いったいなにをしにきたのですか?」

時の番人は淡々とした様子で言葉を紡ぐが、それでも不思議そうにしているのは見ていてわかる。
確かに世界は救えた。
今度は、あなたを救いたい。
僕は左手を翳すと勇者のアザが光り出し、光が時の番人を覆う。
そして光が消えそこに現れたのは賢者セニカだった。
皆が驚き言葉を失っている中、目を閉じていたセニカはすっとその瞼を上げた。

「あなたは……」

困惑気味のセニカに勇者の剣を差し出す。その時に見えた勇者の証にセニカは僕の正体に気づいたようで、それに触れようとしたとき勇者の証がセニカへと移った。

「まさか私をあの時へ……?」
「はい」

過去、セニカ様は僕と同じ様に過ぎ去りし時を求めてここへ来た。そして同じ様に時のオーブを壊そうとした…けれど、その時セニカ様には勇者の剣と勇者の証がなく、壊すことが出来ず、長い長い間、時の番人となった。
それならば、この勇者の剣と僕の持つ勇者の証があれば、きっと…。

セニカ様は僕の思いが伝わったようで、小さく頷くと時のオーブへと歩み寄り、その手にある勇者の剣で時のオーブを壊した。

強い光が辺りを覆い、その光が晴れた頃、そこに残されたいたのは、壊れた時のオーブの破片と勇者の剣だけだった。
勇者の剣を手にすると、どこからともなく声が聞こえてきた。


ありがとう
勇気ある者たちよ

「愛する人に……会えるといいわね。」
「消えた……。」
「不思議だな。こういうことがかつてあったような気がする。」

僕はカミュの言葉に胸が締め付けられる。
そう、僕は彼女と同じ方法でここに来たから。
不思議そうに考え込むカミュを見て、期待しそうになってしまうけれど…。

今、僕が思うのはただひとつだけ。
…どうか、大切な人とまた出会えますように…
そう願いを込めて、天を仰いだ。




*******


<side カミュ>


ローシュをあの日から救い出すためにセニカは時のオーブを壊し、姿を消した。
残ったのは、壊れた時のオーブの破片と勇者の剣。

ありがとう
勇気ある者たちよ

「愛する人に……会えるといいわね。」
「消えた……。」
「不思議だな。こういうことがかつてあったような気がする。」

前にも似たような事があったような…
そう思った途端どこからともなく、俺の中で息が詰まるような悲しみと胸の苦しさが広がる感じる。
マヤが呪いで黄金になってしまって、その場を立ち去ったあの時と同じ…いや、それ以上かもしれない。
なんなんだ、この今すぐ駆け出して大声を上げたくなるような激しい衝動は。
ふとイレブンの方に目をやりその後ろ姿を見て、それは更に強くなった。
強い焦燥感を感じ、衝動的に行かないでくれ!と口から出てしまいそうになり、すぐに口を押える。
…?どういうことだ…?イレブンはここにいる。手を伸ばせばいる場所に。
じっとイレブンの方を見ていたせいか、イレブンは俺の方を見ると目を瞬かせ近づいてくる。

「カミュ、大丈夫?顔色悪いよ」
「あ、ああ大丈夫だ、ちょっといろいろあったから頭がついていかねえだけだ」

あまり言い訳にもならないものだったが一応本当の事を伝えると、イレブンは納得したのかホッと安堵した表情を見せた。
そんなイレブンを無性に抱きしめたい衝動に襲われる。
もう離してはいけないと本能が訴えてくる。

…“もう”…?

自分の中で沸き起こる様々な感情に内心戸惑っていたが、他の仲間達も今日ばかりはいろいろあったと何か思うところがあるようで、うんうんと頷いていた。
その後、無事邪神を討伐したことをこれまでお世話になった人たちや家族たちへ伝えるべくその場を後にした。



妙な不安が広がるのはなんでだ。
邪神を倒し、セニカの手助けもできた。全てが良い方向にいったはずだ。
そう自分に言い聞かせるが、ふとセニカの後ろ姿とイレブンの後ろ姿が頭の中で重なる。
目の前から消えたセニカ。…彼女はどこへ行ったんだ?
ローシュに会いに行ったはず、だがローシュは既に亡くなっている…どうやって会いに行くつもりなんだ。
けれど最後に見たセニカの決意に満ちた目、あれは方法を知っていて覚悟を決めた目だった。
そしてそのセニカにエールを送るように優しく後押ししたイレブン。

…あとすこし、あとすこしで何かを掴める、点と点が結びつきそうなんだ…!


柄でもなく必死に頭の中で考える。
ここで諦めてはいけないと、なんとしてでも答えを探し出せと自分の中の何かが訴えてくる。
そこでふとある言葉を思い出した。

“時をさかのぼってきたのはお前だけだと思うなよ”

それはウルノーガが最後にイレブンに向かって放った言葉。
負け惜しみの言葉として奇妙な言い回しだが、それを受けたイレブンは至極驚いた表情を見せていた。

時をさかのぼって……

どくりと脈を打つ。

まさか…

けれど考えれば考えるほど、つじつまが合ってくる。
じとりと手に汗を感じ、気づかれないように握りしめる。


ちらりと時のオーブを見る。
既に壊れたそれは近くに沢山の欠片が散らばっていた。
きらきらとしたそれをじっと見ていると、その欠片の一つが一瞬きらりと光った。
すると今度は共鳴したようにイレブンの手にある勇者の剣がぼんやりと光を帯びているのが目に入る。
それは他の皆が気付かないささやかな光。
けれど、それを見たカミュは、思わず息を飲み目を見開いた。
突然目の前が真っ白になったと思えばそれを掻き消す勢いで頭の中に何かが刻まれていったからだ。
見たことがない景色と会話。それが走馬灯のように頭の中を駆け巡る。

なんだこれ…!!!?

ぐっと手を握りしめ耐える。
それはとても長かったように感じたが、どうやら数秒の出来事だったようだ。
妙に頭がくらくらするが、表に出さないように努めた。

セニカを見送ったイレブンや仲間達は、ふっと息をつき帰ろうと踵を返す。
その中、俺はさっき光っていた時のオーブの破片をさっと手に取り懐にしまった。






その後、各々故郷に戻った。
大切な人たちへに世界が救われたことを報告するために。
そしてようやく手に入れた穏やかな日々を過ごすために。




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