時をこえた願いを(後編)
<side カミュ>
仲間達(イレブンを除く)からの視線が痛い。
つーか見れない。
見なくても分かる殺気にも近い怒気を肌でヒシヒシと感じる。
その理由も原因も痛いくらい分かってる。
俺自身もあれはないだろうと仲間たち側の立場だったら呆れてたくらいヘタレだった。
だけど、一つだけ言わせてくれ。
あいつの破壊力が半端じゃなかったんだ。
普段から可愛いあいつが、もじもじ恥ずかしがりながら顔を真っ赤にさせて今にも泣き出しそうな顔で俺を選ぼうとしてたんだぞ。しかも蚊の飛んでるような小さい声で名前呼ばれて上目遣いだぞ。会心の一撃を間髪入れずに連発されたんだぞ。あれに耐えられる奴がもしいたら教えて欲しい。
理性なんて軽くぶっ飛んでしまうくらいめちゃくちゃ可愛い過ぎたんだ。
これがただの練習だって言い聞かせても無理がある。こっちはあいつに出会ってから長い間片思いしてんだから戸惑うのは仕方ないだろ。
花嫁っつーから、…セーニャやマルティナ辺りを選ぶんじゃねえかって気が気じゃなかったんだ。
だから俺の前に来たときは驚いたし、めちゃくちゃ嬉しかった。
けど、花嫁っつーなら俺じゃなくてお前だろとか、告白するなら俺からがいいとか今思えばくだらないプライドが沸き上がって、結果としてあんなヘタレな対応しかできなかった。
もう一回やり直せるなら今度はこんなヘマはせず正々堂々とプロポーズする。
ちらりとイレブンを見れば、いつもと変わらない様子でヨッチ達と話していた。
…イレブンが俺を選んでくれたんだよな。
改めて思い返すが、リハーサルだと分かっていつつも、この仲間たちの中から自分を選んでくれたことに変わりはない。それがどうしようもなく嬉しい。あの時のイレブンの姿は暫く頭の中を広く占拠すると思う。
ただ、それと同時に昨晩のことも思い出し、何とも言えないもどかしさを感じた。
その後も何度かイレブンにあの夜の事を聞き出そうかとしたが、それが叶うことがなく、最後の戦いに挑んだ。
*****
邪神ニズゼルファを倒し、崩壊する闇の空間から逃げ切ることが出来た。
邪神討伐が成功したことを裏付けるようにキラキラとしたものが僕達に降り注ぐ。
それを見て、ようやく皆の緊張が緩み、喜びに心が満たされていく。
「先代勇者ローシュ様の時代から続く、時を超えた戦い……。本当に長い……冒険の物語でしたわね。」
感極まったセーニャの言葉に僕も同じ気持ちでこれまでの事を思い出す。
いろんなことがあって、いろんな人の思いが今につながったのを感じる。
その時ふと“彼女”の事を思い出した。
ロトゼタシアを救うことはできた。けれど、彼女は…。
そこでふと一つの可能性が脳裏に浮かび、自分の右手にあるアザを見つめた。
「こんなおめでたい時に思いつめた顔して何考えてるのよ。その手のアザがどうかしたの?」
不満げなベロニカの問いかけに、顔を上げ、今の自分の考えを伝えた。
するとベロニカはふっと優しい笑みを見せた。
「…そっか。助けてあげたいんだね。あの人のこと……。行きましょ。彼女のもとへ」
皆も同じように賛同してくれ、僕達はそのまま忘れられた塔へと向かった。