天然と甘くて甘い誘惑
書類を無事届けたルーク達はジェイドの言いつけの通り食堂へと向かう。
というかなぜ個室はダメなのだろうか、ゼロスはちらりと隣を歩くルークを見ながら考える。
この船内で食堂以外の飲食が禁止されているわけではない。
むしろ、ルークは仕事の関係で自室で食事をとることもしばしばあるらしいのだ。
まぁチョコレートもキッチンの方に置いてたから丁度いいっちゃいいんだけど。
不思議に思いつつ、歩いていると食堂に到着する。
今は食事時でないため人はまばらだ。
いても本を読んだり、うたた寝をしていたりと各々がリラックスした様子で過ごしていた。
食堂内を見渡すと、奥の方に丁度よさそうな空席があり、ルークはそこに腰を掛ける。
ゼロスはキッチンへ向かい保存していたチョコレートを取り出す。
ついでに手際よくお茶を用意して食堂の方へ戻ると、仕事がひと段落したこととこれからのお菓子タイムに上機嫌な様子のルークが手招きして迎えてくれた。
「お待たせ~♪」
ゼロスは手慣れた手つきで紅茶をいれたティーカップと約束のチョコレートが入った箱を置く。
「ありがとう、ゼロス!それが言ってたやつか??」
ルークは置かれたチョコレートを覗き込む。
綺麗な箱に複数入っている一口サイズのそれは、チョコレート色は勿論、ホワイトチョコやラズベリー味のチョコなど色もとりどりでどれも美味しそうに見えた。
どれにしようか見入っているルークに、ゼロスはにやりと笑みを浮かべる。
「は~い、ハニーどうぞ♪」
「へ?」
ゼロスは一つチョコレートを摘むとルーの口元へともっていく。
所謂“あーん”という食べさせかた。
今この場にはユーリはいないため必要はないが、本人がいる目の前で自然に行うための予行練習だ。
そんなこととは知らないルークはきょとりとする。
「えっと…」
「ん〜?」
自分で食べれるのだけどもとわかりやすく顔に書いてあるのだが、あえて気付いてない様子を装ったゼロスは一向に引かなかった。
ルークは不思議に思いつつも、日々ユーリやガイ達から甘やかされた生活を送っていて感覚が麻痺していることもあり、まぁいいかと口を開けパクリと食べる。
甘いチョコレートを味わうように、もぐもぐと頰を動かし食べるその姿はハムスターのようで、余程美味しかったのか目を輝かせる。
「これ美味いな!」
もう一つくれと笑顔でおねだりをするように上目遣いで見つめてくる。
それを直視したゼロスは一瞬フリーズしてしまった。
よく食堂でユーリがルークに対した食べ物を口に運んでいるのを見る機会がある。
正直いろんな奴が集まる食堂で何やってんだとも、リア充爆発しろとも思ったこともあったのだが、実際に今やってみて不本意だがユーリの心境を知った。
ゼロスはほぼ無意識にもう一つチョコレートを摘み、ルークの口元へと運ぶ。
ルークは嬉しそうにそれを頬張る。そのときゼロスの指にとても柔らかい唇が軽く触れた。
それをダイレクトに感じたゼロスは顔に熱が集まってくる。
ルークは幸せそうにチョコを口の中に転がし、ぺろりと唇を舐める。
これは…落ちるかも…
「何してんだ?」
突如背後に感じた威圧感と疑問形のはずが全くそう聞こえない、低く怒気を含む声にゼロスの体が反射的に揺れる。
振り返ずともわかる存在に、冷や汗が背中を伝う。
「あれ?ユーリ?」
空気に合わない呑気な声を上げたルークに、声の主であるユーリはイラついた表情を浮かべた。
「あれ?じゃねぇよ。お前はもうちっと危機感持て」
「??危機感?チョコ食ってただけだぞ?」
一体何にと全く分かっていない様子のルークに、ユーリの眉がぴくりと動く。
「…なら、体で覚えこませるしかねぇな」
ぼそりと呟かれた言葉が聞き取れなかったルークは首を傾げていると、突然腕を取られ引っ張られた。
「うわっ」
引っ張られた反動で前のめりになりながら腰が浮くと、そのままユーリの胸の中にぽふっと収まる。ユーリは流れるように体を支える手を移動させると、ひょいとルークを横抱き
にし、スタスタと歩き出す。
「え、ちょ!?ど、どうし…つーか降ろせって!」
「却下。…ちっ、少し目を離せば誰彼構わず色目使いやがって…覚悟しとけよ」
「は?!いろめ!?ていうか覚悟って何を!?」
展開についていけずにただ困惑しているルークと不穏な空気を纏うユーリはゼロスの横を通りその場を離れる。
ぽかんとしていたゼロスだったが、ハッと我に返り、2人の方を見ると、ユーリと一瞬目が会う。
その目は殺伐とした身も毛もよお立つ程のもので、冗談ではなく本気の物であることを瞬時に悟ったゼロスは顔を痙攣らせる。
あれはやばい。そう内心ごちつつも、ふと頭をよぎるのは先程の純粋な瞳。
…これは、冗談抜きでやばいかも…
今ならジェイドの忠告の意味が分かる。
いろいろと気付いてはいけないことに首を突っ込んでしまったと、ゼロスは深い深いため息をつきつつも、ルークの保護者達の元へと急いだ。
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