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天然と馬鹿の紙一重



「…ごめん、俺全く気付かなかった。そうだったんだな。」


申し訳なさそうに謝罪したルークは持っているスプーンをユーリに手渡そうとする。


「はい、ユーリ」
「あ?何やってんだ?」
「え?だって…、ガイたちはユーリからオムライス食べさせてもらいたいんじゃ・・・
「「「なんでそうなる!!!!」」」」えっ」


バンと机を強くたたきながらその場に思わず立ち上がり、鳥肌を立てゾッとしたように顔を真っ青にした3人にビクッと反応するルーク。


「っんで、そんな気色悪いこと俺がしなきゃいけねぇんだよ!!」
「え、え?だ、だって…」
「こんの屑がっ!!誰がそんなこと言った!!」
「どうしたら今の流れで俺たちがユーリから貰いたいって話になるんだ!?」
「え、だって俺から貰うことが重要ってことは、俺が食わせたらユーリから食わせてもらえなくなって…その、俺に嫉妬、」
「いや意味わかんねぇから。なんでそんな誰も考えもしない斜め上にいくんだ、お前の思考は。深読みとかそんなレベルじゃねぇつーの。どうなってんだよお前のおバカっぷりは!」
「馬鹿だ馬鹿だとは思っていたが、本当にてめぇは馬鹿だな」
「まぁおバカなところも可愛いんだが…なぁ…。」
「なっ!?~っバカバカいうなっ!!」


3人から口々に馬鹿と言われて憤慨するルークはキッと3人を睨みつけるが、全く迫力はない。逆に3人からはルークを射貫くような視線を送る。ユーリ達からしたらこの上なく気持ち悪いし、好きな相手にそう思われるのは心外だ。そんなこととはつゆ知らず、ルークはその強烈な視線に少し怯む。


「な、なんだよ…っ」
「ルーク、お前…マジでわからないのか?」
「~っわかるわけぬぇだろ!!どうせ俺は馬鹿だよ!悪かったな!!」


ぷいっと顔を背け、完全に拗ねモードに入ったルーク。どんだけ天然で鈍感なんだよと呆れそうになるが、このまま臍を曲げられてもそれはそれで困る。小さくため息をついたユーリは至極真面目な顔をルークに向ける。


「ルーク」
「…」
「…俺はお前から食わせて貰いたいって言ってんだ。他の誰でもない、お前から。…いいから、食わせろ。」


いつの間にか距離を縮めていたユーリはぐいっと顔を近づけてルークの耳元で低く甘い声でそう告げると、ルークはボンっと音が出そうな勢いで顔を赤くする。いくら天然なルークといえども流石にイケメンとその声を間近すぎる距離で感じれば反応せざる負えない。思わず飛びのくように身を引こうとしたルークだったが、いつの間にかユーリに肩を抱かれていてそれは叶わなかった。それに驚きバッとユーリを見れば、じっと見つめてくる黒く深い紫の目と合い、思わず息を止め固まる。それに対してユーリはゆっくりと流れるようにルークの顎をくいっと持ち上げて距離を縮めていく。



「…ルー…」


「「…おい」」


あと数センチで唇が重なるくらいの距離まで近づけたユーリに向かい、二つの刃先が向けられる。禍々しいほどの空気を纏わせたそれにユーリはちっと舌打ちをする。


「だから邪魔すんなっつーの、空気読めって。」
「てめぇ…覚悟はできてんだろうな」
「俺がそれを許すと思うのか」


大の大人でさえその場から逃げ出すほどの怒りをむき出しにし抜刀している二人に、ユーリはといえば、折角いいムードと流れができていたところだったのを邪魔され苛立ちつつも腕の中にある存在を見せつけるように不敵な笑みを見せる。


「許すも何も、こいつは俺のだから。」


なあ、ルーク?と呟くと更に肩を引き寄せ、ルークの頬にキスをした。わざとチュッと音を立ててされたそれに、未だ固まっていたままだったルークは我に返る。


「は!?え、え!?いいいい今っなに…っ!」


パニック状態のルークは顔を真っ赤にさせ狼狽するが、突如感じる寒気にそちらを見ると般若の如く怒りに染まっている自分の弟と使用人がいた。思わずびくぅっと体が反応し、青ざめる。ここまで恐怖を感じたのは初めてかもしれない。


「え、え、あ、あっしゅ?が、がい?ど、どうし…」
「ルークを汚すとは…」
「上等だ…表に出ろっ!!」
「ああ、いいぜ。…そっちの方が手っ取り早い。」


不敵な笑みを浮かべユーリは愛剣を手にする。だが、その目はぎらぎらとしており、いつもの冷静さはかけらも見えない。火花が見えてくるほどのにらみ合いに、状況を掴みかねているルークはオロオロと交互に見ている。不穏な空気に宥めようとするが、迫力に押されなんと声をかけていいのか分からず「あぅ…」と弱弱しく言葉を漏らしてた。






一方でここはみんなの食堂。食事はもちろん休憩場所としても使われている場所であり、多数のメンバーがいるわけで。これまでの一部始終を見守っていた多数の仲間たちは小さくため息をつき、今にも泣きだしそうなルークに同情の念を送る。
だが…


「ああ…困っているルークも可愛い…」
「ふふ、ユーリは本当にルークが大好きです。」


うっとりとした表情で見つめるティアと嬉しそうに笑顔を浮かべるエステルのように一部はその光景に目を輝かせている者たちも少なからずいた。







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