拍手小話ログ 18
◆ユリルク
◆「やさしさで溢れるように」設定
◆時系列は「やさしさで溢れるように」第2話と第3話の間頃のお話。
ユーリは片想い中、ルーはユーリを意識し始めるキッカケの話のひとつです。
鬱蒼とする森の中にルーとユーリはいた。
大きな木の下、ルーは眉を下げその木に寄り掛かるように座っていて、その視線の先には自分の左の足首に器用に包帯を巻くユーリ。
暫し沈黙が続いていたが、包帯を巻き終えたユーリはよしと顔を上げる。
「とりあえず今はこれで我慢だな」
「…ごめん…」
俯きがちにぽつりとつぶやくルーに、ユーリは軽く息をついた。
今日は採掘クエストの依頼があり、そのメンバーにルー、ユーリ、ロイド、コレットが選ばれ、この森に来ていたのだ。
採掘内容は木の上に実る果実ということで難易度はそこまで高くないが、この森を通りかかった人の情報でここ最近レベルの高い魔物の目撃があったという。
その情報を元にギルドの中で上位の実力があるルーとユーリが選ばれ、木の上ということでコレットとロイドが選ばれた。
その採掘クエストもコレットのミラクルなドジっ子を披露しつつも無事に目的物を手に入れることができた。
ここまではとんとん拍子で物事が進んでいき、そろそろ帰るかという話になったころ、問題が起きた。
それはたまたまコレットが何でもない場所でコケてしまったその時だった。
突如コレットが先ほどまでいた場所に大きな鷲のような魔物が現れたのだ。
間一髪というところで避けた状態であったコレットだったのだが、その大きな鷲と同じ魔物がもう一匹が死角から現れ、鋭い爪が襲い掛かった。
それにいち早く反応したルーは、飛び出し自分の身を盾にしてコレットを庇った。
その時攻撃をまともに食らってしまい、吹き飛ばされてしまう。
すぐにユーリが反応し、奥義でその魔物たちを追い払ったのだが、飛ばされたルーの元へ急いで向かうと、傷だらけのルーが倒れていて、ユーリは血の気が引いた。
すぐに用意していたグミやアイテムを使い、怪我を処置したのが幸いしてか大分回復したのだが、着地時の足首の捻挫までは直すことが出来ず、ルーは歩くことが出来なくなってしまったのだ。
受け身に失敗したと落ち込みつつ、大丈夫だというルーに対して、今にも泣き出しそうなコレットとロイドは、リフィルを呼んでくると急いでバンエルティア号へと駆け出していった。
その後、少しでも楽になるようにとユーリが包帯を使いテーピングをしていたのだ。
テーピング中もずっと落ち込んでいたルーはユーリと目を合わすことが出来なかった。
迷惑掛けちゃった…。
コレットが無事だったのはよかったが、自分があの時ちゃんと受け身を取れていれば、こんなことにならなかったのにと自分を責め続けていた。
その様子を見ていたユーリは僅かに眉を寄せる。
「ルー、どうした?」
「…ごめんな…俺、足手纏いで…」
「は?」
ルーの口からでた言葉にユーリは思わず目を瞬かせる。
言っている意味が分からない。
何を言い出すのかと思えば、足手纏い…?
「何言ってんだ?お前」
「……俺があの時ちゃんと受け身が取れてれば…」
そこまで聞いてユーリは大きく脱力し、溜息をつく。
それにルーはびくりと体を震わせる。
「あのなぁ…受け身とかそれ以前の話だろ。」
ユーリのトーンはいつもより低く、怒っているように聞こえたルーは、これからくるであろう非難の声に構えるように身を縮める。
だが、次に来たのは頭の上にポンと置かれた温かな手だった。
「お前が一番早く反応出来たから、コレットが助かったのは事実だ。…けどな、咄嗟とはいえ捨て身で庇うのはちげーと思うぞ。」
「…?」
「他の奴が助かっても、お前が助かんねぇなら意味ねぇだろ。…頑張りすぎんのもいいが、ほどほどにな」
ぽんぽんと頭を撫でながらそう告げるとルーはぽかんとした表情を浮かべていた。
まるで言葉の意味が分からないと言っているように見え、ユーリは不思議そうに首を傾げる。
「ルー?」
「!あ、え、えっと…その…」
呼びかけにハッと我に返ったルーはしどろもどろになりながら、目を彷徨わせる。
その様子にこいつ全然わかってねぇなとユーリは小さく息をつく。
時々見せるルーの無茶にどんだけヤキモキさせられているのかそろそろ理解して欲しいのだが。
そんなことを考えながら、ユーリはルーに背を向けるなり、そのままルーを背負うように立ち上がる。
「よっと」
「!?うわっ!?」
突然のことにルーは大声を上げ咄嗟にユーリの首元に抱き着く。
それに不謹慎ながら役得だなとユーリは思う。
「落ちねぇように掴まってろよ」
困惑するルーを他所にユーリはルーをおぶさった状態ですたすたと歩き始める。
ルーの足の状態を見て、向こうからくるのを待っているよりこっちからも向かった方がいいと判断したのだ。
幸いにもここは一本道で、行き違いになることはないだろう。
「ゆ、ユーリ、自分で歩け…」
「今歩けても後で悪化したらどうすんだ」
「う…」
確かに今無理をして歩けば腫れが酷くなる可能性がある。
そうすれば今以上に迷惑をかけてしまうことになりかねない。
迷惑掛けたくないのに…本当に俺はどうしようもない…
申し訳ない気持ちでいっぱいになりしゅんと落ち込む。
「なぁ」
「…?」
「お前はもっと肩の力を抜け、気ぃ使い過ぎだ。」
ユーリは立ち止まるとルーの方を見て、笑みを見せた。
「俺としてはもう少し頼ってほしいところだけどな、お前には」
「へ?」
思ってもみなかった言葉にルーは目を瞬かせる。
それにユーリは軽く笑いかけるなり、何事もなかったかのように前に向き直る。
ぽかんとしていたルーだったが、歩き始めたユーリに慌ててつかまる。
来た道を戻っていくユーリにおぶられながらその背を見つめる。
…本当に、いいのかな…
これまで頼ってほしいなんて言われたことがなかった。
だからこそ、戸惑いを感じた。
所謂社交辞令的なものだろうかとも考えだが、ユーリがそういう言葉を簡単に言う人ではないということは、まだ出会って間もないルーでもわかる。
「…」
ルーは恐る恐るその背中に体を預ける。
するとふわっとユーリの香りがして、なんとなく気恥ずかしさを覚えた。
だが、それ以上にすぐ傍にある暖かい背中に、先ほどまで沈んでいた気持ちが嘘のように軽くなっていくのを感じ、代わりにトクンと自分の中で何かが音した気がした。
end
◆「やさしさで溢れるように」設定
◆時系列は「やさしさで溢れるように」第2話と第3話の間頃のお話。
ユーリは片想い中、ルーはユーリを意識し始めるキッカケの話のひとつです。
鬱蒼とする森の中にルーとユーリはいた。
大きな木の下、ルーは眉を下げその木に寄り掛かるように座っていて、その視線の先には自分の左の足首に器用に包帯を巻くユーリ。
暫し沈黙が続いていたが、包帯を巻き終えたユーリはよしと顔を上げる。
「とりあえず今はこれで我慢だな」
「…ごめん…」
俯きがちにぽつりとつぶやくルーに、ユーリは軽く息をついた。
今日は採掘クエストの依頼があり、そのメンバーにルー、ユーリ、ロイド、コレットが選ばれ、この森に来ていたのだ。
採掘内容は木の上に実る果実ということで難易度はそこまで高くないが、この森を通りかかった人の情報でここ最近レベルの高い魔物の目撃があったという。
その情報を元にギルドの中で上位の実力があるルーとユーリが選ばれ、木の上ということでコレットとロイドが選ばれた。
その採掘クエストもコレットのミラクルなドジっ子を披露しつつも無事に目的物を手に入れることができた。
ここまではとんとん拍子で物事が進んでいき、そろそろ帰るかという話になったころ、問題が起きた。
それはたまたまコレットが何でもない場所でコケてしまったその時だった。
突如コレットが先ほどまでいた場所に大きな鷲のような魔物が現れたのだ。
間一髪というところで避けた状態であったコレットだったのだが、その大きな鷲と同じ魔物がもう一匹が死角から現れ、鋭い爪が襲い掛かった。
それにいち早く反応したルーは、飛び出し自分の身を盾にしてコレットを庇った。
その時攻撃をまともに食らってしまい、吹き飛ばされてしまう。
すぐにユーリが反応し、奥義でその魔物たちを追い払ったのだが、飛ばされたルーの元へ急いで向かうと、傷だらけのルーが倒れていて、ユーリは血の気が引いた。
すぐに用意していたグミやアイテムを使い、怪我を処置したのが幸いしてか大分回復したのだが、着地時の足首の捻挫までは直すことが出来ず、ルーは歩くことが出来なくなってしまったのだ。
受け身に失敗したと落ち込みつつ、大丈夫だというルーに対して、今にも泣き出しそうなコレットとロイドは、リフィルを呼んでくると急いでバンエルティア号へと駆け出していった。
その後、少しでも楽になるようにとユーリが包帯を使いテーピングをしていたのだ。
テーピング中もずっと落ち込んでいたルーはユーリと目を合わすことが出来なかった。
迷惑掛けちゃった…。
コレットが無事だったのはよかったが、自分があの時ちゃんと受け身を取れていれば、こんなことにならなかったのにと自分を責め続けていた。
その様子を見ていたユーリは僅かに眉を寄せる。
「ルー、どうした?」
「…ごめんな…俺、足手纏いで…」
「は?」
ルーの口からでた言葉にユーリは思わず目を瞬かせる。
言っている意味が分からない。
何を言い出すのかと思えば、足手纏い…?
「何言ってんだ?お前」
「……俺があの時ちゃんと受け身が取れてれば…」
そこまで聞いてユーリは大きく脱力し、溜息をつく。
それにルーはびくりと体を震わせる。
「あのなぁ…受け身とかそれ以前の話だろ。」
ユーリのトーンはいつもより低く、怒っているように聞こえたルーは、これからくるであろう非難の声に構えるように身を縮める。
だが、次に来たのは頭の上にポンと置かれた温かな手だった。
「お前が一番早く反応出来たから、コレットが助かったのは事実だ。…けどな、咄嗟とはいえ捨て身で庇うのはちげーと思うぞ。」
「…?」
「他の奴が助かっても、お前が助かんねぇなら意味ねぇだろ。…頑張りすぎんのもいいが、ほどほどにな」
ぽんぽんと頭を撫でながらそう告げるとルーはぽかんとした表情を浮かべていた。
まるで言葉の意味が分からないと言っているように見え、ユーリは不思議そうに首を傾げる。
「ルー?」
「!あ、え、えっと…その…」
呼びかけにハッと我に返ったルーはしどろもどろになりながら、目を彷徨わせる。
その様子にこいつ全然わかってねぇなとユーリは小さく息をつく。
時々見せるルーの無茶にどんだけヤキモキさせられているのかそろそろ理解して欲しいのだが。
そんなことを考えながら、ユーリはルーに背を向けるなり、そのままルーを背負うように立ち上がる。
「よっと」
「!?うわっ!?」
突然のことにルーは大声を上げ咄嗟にユーリの首元に抱き着く。
それに不謹慎ながら役得だなとユーリは思う。
「落ちねぇように掴まってろよ」
困惑するルーを他所にユーリはルーをおぶさった状態ですたすたと歩き始める。
ルーの足の状態を見て、向こうからくるのを待っているよりこっちからも向かった方がいいと判断したのだ。
幸いにもここは一本道で、行き違いになることはないだろう。
「ゆ、ユーリ、自分で歩け…」
「今歩けても後で悪化したらどうすんだ」
「う…」
確かに今無理をして歩けば腫れが酷くなる可能性がある。
そうすれば今以上に迷惑をかけてしまうことになりかねない。
迷惑掛けたくないのに…本当に俺はどうしようもない…
申し訳ない気持ちでいっぱいになりしゅんと落ち込む。
「なぁ」
「…?」
「お前はもっと肩の力を抜け、気ぃ使い過ぎだ。」
ユーリは立ち止まるとルーの方を見て、笑みを見せた。
「俺としてはもう少し頼ってほしいところだけどな、お前には」
「へ?」
思ってもみなかった言葉にルーは目を瞬かせる。
それにユーリは軽く笑いかけるなり、何事もなかったかのように前に向き直る。
ぽかんとしていたルーだったが、歩き始めたユーリに慌ててつかまる。
来た道を戻っていくユーリにおぶられながらその背を見つめる。
…本当に、いいのかな…
これまで頼ってほしいなんて言われたことがなかった。
だからこそ、戸惑いを感じた。
所謂社交辞令的なものだろうかとも考えだが、ユーリがそういう言葉を簡単に言う人ではないということは、まだ出会って間もないルーでもわかる。
「…」
ルーは恐る恐るその背中に体を預ける。
するとふわっとユーリの香りがして、なんとなく気恥ずかしさを覚えた。
だが、それ以上にすぐ傍にある暖かい背中に、先ほどまで沈んでいた気持ちが嘘のように軽くなっていくのを感じ、代わりにトクンと自分の中で何かが音した気がした。
end