第27話
神聖な空間と独特な空気、そして大きなステンドグラスとそれに似合う広間が広がる場所。
そこに複数の人影があり、その内朱い髪の少年が、ある3人の男の前に立つ。
僅かに震える手をぎゅっと握りしめ、何かに必死に耐えるように口を開いた。
……俺。俺……やります。俺が命と引き替えに障気を中和します
…決心は変わらないのか?
……はい
生き残る可能性があるんだろう?
……いえ。ほとんどないと思います
……では、我々は……死ねと告げねばならぬのか
このままでは……どのみちみんな死んでしまう。新生ローレライ教団のレプリカ大地にかけるという話も出たが……。このオールドラントの民全員を等しく受け入れてくれるとも思えぬ
恨んでくれてもいい。人でなしと思われても結構。だが俺たちは、俺たちの国民を守らなけりゃならない
わしは……正直なところ今でも反対なのだ。しかし他に方法が見つからない。頼んでもいいだろうか……。ルークよ
重々しい紫色の広がる空にそびえるように建つ一つの塔。
その塔の最上階には数多くの影があった。
影は皆目に光は宿っておらず、まっすぐだが何も見えていないようにも見える。
その影達の前に現れたのは朱い髪の少年で、その手にある剣を振りかぶった。
……残すならレプリカより被験者だ
……みんな。俺に命を下さい。俺も……俺も消えるからっ!
「やめろっ!!!!」
ガバッ!と体を起こしたルークは、先程まで見えていた景色から一転し、沢山の藁が視界いっぱいに広がり、呆然とする。
すると、背後からばさっと布が開かれる音がするなり、驚いた表情のガイが姿を見せる。
「どうしたルーク!?」
ルークはガイを認識するなり、周囲を見渡すと、そこは移動中の布で覆われた馬車の中。
ガイが開けて出来た布の隙間からは朝日の光が差し込んでいた。
その事実にルークは何度か目を瞬かせたが、すぐにはぁっと息をつきながら項垂れる。
そして自分の手のひらを見るなり、力を込めて握りしめた。
「……やらせるかよ」
****
「クーデターの首謀者が音素に気付いて…?」
ルーはジェイドから告げられた言葉をオウム返しのように呟く。
その顔には困惑がありありと浮かんでおり、それに対してジェイドは至極冷静な視線を送る。
「…正確には、“音素”というそのものまでは気付いていないはずですがね。」
「え?それって…」
「一度は沈静化したクーデター。それを再び動かすには相当な力が必要です。それ程の事が可能な首謀者を洗い出すのはそこまで難しいことではありません。動かせる人間は恐らく貴族などの権力者。」
そこまで聞いてユーリの手がピクリと反応する。
ルーがこの世界に来たのはまだ間もない。
そんな中貴族のような人間との接触をしたのはこのギルドの貴族とそして。
「…お気づきの様ですね」
ジェイドの問いかける先をルーが見ると、そこにはスッと目を細めたユーリがいた。
その纏う空気は先程とは異なり、思わず声を掛けるのを躊躇うほどとげとげしかった。
ルーはそれに目を瞠りながらも、戸惑い気味にジェイドを見るとそれに答えるように口を開く。
「…今回のクーデターの首謀者、それはライマの人間ではありません。」
「え?」
「『聖なる焔の光に似ているライマの王族の女を探せ、その力を手に入れろ』そう指示を出しているようです。ですがライマにはそのような王族は存在しない。ライマの権力者であればそんなことは知っています。それを知らないのは他国の人間。…そして私達が調べていく内に一人、極めて可能性が高い人間を洗い出しました。それが大国ガルバンゾの貴族の一人、アルンプルトです」
「!」
ルーはその名を聞くなり大きく目を見開く。
それは、この前ルーが女性になってしまった際に行ったガルバンゾでルーが攫われ、ライマの…ルークの事をしきりに言っていたあの男だ。
そして、あの男に叩かれそうになったあの時のことを思い出し、ルーの顔色が真っ青になる。
「…まさか、あの時…」
「心当たりがあるんですね」
「…俺、ガルバンゾに行ったとき、そいつの屋敷に連れていかれて…殴られそうになって…。…そん時いきなり音素が溢れ出てきて、あいつを弾いたんだ。その後なんとか音素をコントロールして消したんだけど…」
「なるほど、恐らくそれですね。その“見たこともない力”を見て、“使える”と相手は感じたのでしょう。」
ふむと顎に手を当てるジェイドにルーは真っ青になりながら詰め寄る。
「お、俺が悪いんだ!俺がちゃんと隠せなかったっだから…っ!」
「ルーは悪くねぇよ。」
泣きそうになりながら自分を責めるルーにユーリはきっぱりと否定する。
だが、ルーはそれにぶんぶんと首を振り、俯くと何かに耐えるようにぎゅっと手を握りしめる。
すると、ジェイドはぽつりと呟く。
「確かにこの事実を知ったルークは、クーデターを止めるためとは別に…いえ、こちらの方が本命かもしれませんが、音素の存在が広まるのを防ぐために帰国しました。ですが、それはあなたの為ではありませんよ、ルー。」
「…?」
首を傾げるルーに、ジェイドは思い出すように話し始めた。
****
それはルーク達がライマに向けて出発する直前の話。
この日に出るということを決めたのは、数日前ジにェイドの元に協力者たちから合図があって急遽決まったことだった。
ルークとガイは帰国する準備を終え、一度ジェイドの部屋へときていた。
ルーやアッシュ達がこのことに気付いて追いかけてこようとしないよう、ジェイドに足止めしてもらうためだ。
ルーク達が部屋に入ると、その場にいたのはジェイド、そしてヴァンもいた。
まさかヴァンまでいるとは思っていなかったルークは驚いた表情を見せると、ヴァンは顔を僅かに険しくさせルークへと近づく。
「…ルーク、今戻ればお前の命の保証はない。それでも行くのか?」
ヴァンからの思ってもみなかった言葉にルークはぴくりと反応する。
それを見て、ヴァンは続ける。
「私がお前にライマでクーデターが再発しかけていること、そしてその者達があの子を探している事を教えた。だが、こうなることは望んでなどいない。…私は、お前とアッシュ、二人であのライマを牽引して欲しいと思ってしたことだ。」
初めて聞いたヴァンの望みにルークは驚き目を瞬かせる。
それまでヴァンはアッシュを選ぶと思っていたから。
けれど…。
そこに複数の人影があり、その内朱い髪の少年が、ある3人の男の前に立つ。
僅かに震える手をぎゅっと握りしめ、何かに必死に耐えるように口を開いた。
……俺。俺……やります。俺が命と引き替えに障気を中和します
…決心は変わらないのか?
……はい
生き残る可能性があるんだろう?
……いえ。ほとんどないと思います
……では、我々は……死ねと告げねばならぬのか
このままでは……どのみちみんな死んでしまう。新生ローレライ教団のレプリカ大地にかけるという話も出たが……。このオールドラントの民全員を等しく受け入れてくれるとも思えぬ
恨んでくれてもいい。人でなしと思われても結構。だが俺たちは、俺たちの国民を守らなけりゃならない
わしは……正直なところ今でも反対なのだ。しかし他に方法が見つからない。頼んでもいいだろうか……。ルークよ
重々しい紫色の広がる空にそびえるように建つ一つの塔。
その塔の最上階には数多くの影があった。
影は皆目に光は宿っておらず、まっすぐだが何も見えていないようにも見える。
その影達の前に現れたのは朱い髪の少年で、その手にある剣を振りかぶった。
……残すならレプリカより被験者だ
……みんな。俺に命を下さい。俺も……俺も消えるからっ!
「やめろっ!!!!」
ガバッ!と体を起こしたルークは、先程まで見えていた景色から一転し、沢山の藁が視界いっぱいに広がり、呆然とする。
すると、背後からばさっと布が開かれる音がするなり、驚いた表情のガイが姿を見せる。
「どうしたルーク!?」
ルークはガイを認識するなり、周囲を見渡すと、そこは移動中の布で覆われた馬車の中。
ガイが開けて出来た布の隙間からは朝日の光が差し込んでいた。
その事実にルークは何度か目を瞬かせたが、すぐにはぁっと息をつきながら項垂れる。
そして自分の手のひらを見るなり、力を込めて握りしめた。
「……やらせるかよ」
****
「クーデターの首謀者が音素に気付いて…?」
ルーはジェイドから告げられた言葉をオウム返しのように呟く。
その顔には困惑がありありと浮かんでおり、それに対してジェイドは至極冷静な視線を送る。
「…正確には、“音素”というそのものまでは気付いていないはずですがね。」
「え?それって…」
「一度は沈静化したクーデター。それを再び動かすには相当な力が必要です。それ程の事が可能な首謀者を洗い出すのはそこまで難しいことではありません。動かせる人間は恐らく貴族などの権力者。」
そこまで聞いてユーリの手がピクリと反応する。
ルーがこの世界に来たのはまだ間もない。
そんな中貴族のような人間との接触をしたのはこのギルドの貴族とそして。
「…お気づきの様ですね」
ジェイドの問いかける先をルーが見ると、そこにはスッと目を細めたユーリがいた。
その纏う空気は先程とは異なり、思わず声を掛けるのを躊躇うほどとげとげしかった。
ルーはそれに目を瞠りながらも、戸惑い気味にジェイドを見るとそれに答えるように口を開く。
「…今回のクーデターの首謀者、それはライマの人間ではありません。」
「え?」
「『聖なる焔の光に似ているライマの王族の女を探せ、その力を手に入れろ』そう指示を出しているようです。ですがライマにはそのような王族は存在しない。ライマの権力者であればそんなことは知っています。それを知らないのは他国の人間。…そして私達が調べていく内に一人、極めて可能性が高い人間を洗い出しました。それが大国ガルバンゾの貴族の一人、アルンプルトです」
「!」
ルーはその名を聞くなり大きく目を見開く。
それは、この前ルーが女性になってしまった際に行ったガルバンゾでルーが攫われ、ライマの…ルークの事をしきりに言っていたあの男だ。
そして、あの男に叩かれそうになったあの時のことを思い出し、ルーの顔色が真っ青になる。
「…まさか、あの時…」
「心当たりがあるんですね」
「…俺、ガルバンゾに行ったとき、そいつの屋敷に連れていかれて…殴られそうになって…。…そん時いきなり音素が溢れ出てきて、あいつを弾いたんだ。その後なんとか音素をコントロールして消したんだけど…」
「なるほど、恐らくそれですね。その“見たこともない力”を見て、“使える”と相手は感じたのでしょう。」
ふむと顎に手を当てるジェイドにルーは真っ青になりながら詰め寄る。
「お、俺が悪いんだ!俺がちゃんと隠せなかったっだから…っ!」
「ルーは悪くねぇよ。」
泣きそうになりながら自分を責めるルーにユーリはきっぱりと否定する。
だが、ルーはそれにぶんぶんと首を振り、俯くと何かに耐えるようにぎゅっと手を握りしめる。
すると、ジェイドはぽつりと呟く。
「確かにこの事実を知ったルークは、クーデターを止めるためとは別に…いえ、こちらの方が本命かもしれませんが、音素の存在が広まるのを防ぐために帰国しました。ですが、それはあなたの為ではありませんよ、ルー。」
「…?」
首を傾げるルーに、ジェイドは思い出すように話し始めた。
****
それはルーク達がライマに向けて出発する直前の話。
この日に出るということを決めたのは、数日前ジにェイドの元に協力者たちから合図があって急遽決まったことだった。
ルークとガイは帰国する準備を終え、一度ジェイドの部屋へときていた。
ルーやアッシュ達がこのことに気付いて追いかけてこようとしないよう、ジェイドに足止めしてもらうためだ。
ルーク達が部屋に入ると、その場にいたのはジェイド、そしてヴァンもいた。
まさかヴァンまでいるとは思っていなかったルークは驚いた表情を見せると、ヴァンは顔を僅かに険しくさせルークへと近づく。
「…ルーク、今戻ればお前の命の保証はない。それでも行くのか?」
ヴァンからの思ってもみなかった言葉にルークはぴくりと反応する。
それを見て、ヴァンは続ける。
「私がお前にライマでクーデターが再発しかけていること、そしてその者達があの子を探している事を教えた。だが、こうなることは望んでなどいない。…私は、お前とアッシュ、二人であのライマを牽引して欲しいと思ってしたことだ。」
初めて聞いたヴァンの望みにルークは驚き目を瞬かせる。
それまでヴァンはアッシュを選ぶと思っていたから。
けれど…。