第26話
その存在を目にしたルーはさっと顔を青ざめさせる。
アッシュはジェイドを離し、ヴァンの方に向くなり強く睨みつけた。
それに対してヴァンはルー達を一瞥するなり、口を開く。
「国を守るためなら、多少の犠牲は仕方がない。」
その言葉にアッシュとルーは目を見開き、ユーリはスッと目を鋭くさせる。
「多少…?坊ちゃんがお前にとって“多少”程度だっていいたのか」
「…ルークとアッシュ、二人の世継ぎがある。もしルークがいなくなっても…アッシュ、お前がいる。お前がいる限り、ライマは続くのだ」
ヴァンの言葉にユーリはぎりっと奥歯を噛む。
ルーはショックからか顔を真っ青にさせる。
今のヴァンの言葉はまるでアッシュがいるならルークでなくても良いのだと言わんばかりのもので、それはオールドラントの頃に言われた言葉を連想させるものだったから。
「っそんなのおかしいっ!!」
ルーは顔を歪め、叫ぶように否定する。
すぐにルークの後を追おうと駆け出そうとした。
だがそれを遮るように、ヴァンとジェイドが進行方向に立ちふさがる。
すると次の瞬間、各々の武器を手にするなり、それをルー達に向けた。
「!?」
「何の真似だ」
怒気を含ませた声でアッシュが問うと、ジェイドは武器を構えたままルーを見る。
「私たちは、ルークから指示をされています。」
「!ルークから…?」
「邪魔をする者がいれば許すな、排除しろ…その為ならどんな手を使っても構わないと。そしてそれはルー、あなただったとしてもと。」
「な…っ!?」
思わず耳を疑いたくなる話に、ルーはどくりと脈を打つ。
ルークはなんだかんだいいながらも、いつも温かい手を差し伸べてくれる優しい人だ。
どんなに小さな不安でも大きな不安でも、馬鹿にせず、必ず最後まで聞いてくれた。
時に叱ってくれて、後押しをしてくれた。
ルーにとって、ルークは兄のようなとても大切な唯一無二の存在。
その人からの指示ということにルーにとって呼吸を忘れるほどのショックなことだった。
あまりのことに言葉を失ってしまったルーはその場で俯く。
だが、アッシュは至極落ち着いた表情でジェイドたちを見据えていた。
「…そう言えと、あいつに言われたんだろう」
「!」
その言葉に弾かれたように顔を上げたルーはアッシュを見る。
「あいつは馬鹿だ。だが、誰かに危害を加えるようなことをあいつは指示しねぇ。それは昔も今もだ」
「……」
「…そうでなくてもあいつにとって、こいつは特別だ。」
アッシュはちらりとルーを見ると、ルーは目を瞬かせていた。
ルークにとって特別…?
ルーは困惑しながらジェイドの方を見る。
すると、ジェイドははぁ…とため息をつき、ヴァンと共に武器を降ろした。
「…だから言ったんです、この程度では何の時間稼ぎにもならないと。」
「!じゃあ!」
「確かにルークからは“もし追ってこようとしたら、そういう風に言え、足を止めさせろ”そう指示をされました。…ですが、ここで日頃の行いが裏目に出ましたね」
「悠長なことを言ってる場合か!お前、本当にあいつを犠牲にする気か!!」
アッシュはこめかみに青筋を立てながら怒鳴り散らすと、声が大きいですとジェイドは真顔でアッシュを制止する。
「私たちも何も対策なしにあの子を野放しにしているわけではありません。ライマの…いえ、ルークの協力者も今回は動いていますし、ルークの近くにはガイも付いています。」
「だとしても…!」
「本当に、クーデターを止める、その囮のためだけに帰ったのか?」
静かに、だが一際強い視線を向け続けているユーリの問いかけに、皆視線が集まる。
「他に何かあるんじゃないのか。じゃなきゃ、あんたが承諾しねぇだろ。いくらクーデターを止めるためって言ってもあんたは軍人だ、王族を守る義務がある。元々はそれが目的でここに来たんじゃねぇのか。それに、一緒にいるガイが“その程度”の話なら許さねぇはずだ」
ユーリの指摘を受けたジェイドは暫し無言になる。
その顔色からは何を考えているのかを読むことが出来ない。
するとジェイドの視線がルーへと移された。
「以前、私はあなたとミュウから髪をいただいたことがありました。あのあと、検査のために一部使いました。ですが…その後異変に気付きました。」
「異変…?」
「残しておいたはずの…あなたの髪だけがその場から“消えて”いました、一本も残さずに」
ジェイドの話にルーは思わず息を飲む。
だが、その現象をルーは知っていた。
「それは…、…。」
「何かご存知の様ですね」
「…レプリカの体を構成するものは…レプリカの本体から離れたら、音素に還って、消えちまうんだ。だから…俺は髪も血も涙も…残すことは出来ないんだ…。」
ルーは俯きながら話をすると、ジェイドはやはりそうですかと呟く。
一方でその初めて聞いた話にユーリは僅かに驚いた表情を見せたが、だがふと疑問が残る。
「けど、この前ルーが切った後の髪は俺も片付けたぞ?」
「うん、俺も初めて普通に自分の切った髪を見れたから…もしかしたら世界が違うと何か違うのかなって思って…」
「確かにあなたのその考えは当たっています。ですが、それが問題なんです」
「え?どういうことだ?」
ルーは思わず目を瞬かせると、ジェイドは思い出すように話し始めた。
アッシュはジェイドを離し、ヴァンの方に向くなり強く睨みつけた。
それに対してヴァンはルー達を一瞥するなり、口を開く。
「国を守るためなら、多少の犠牲は仕方がない。」
その言葉にアッシュとルーは目を見開き、ユーリはスッと目を鋭くさせる。
「多少…?坊ちゃんがお前にとって“多少”程度だっていいたのか」
「…ルークとアッシュ、二人の世継ぎがある。もしルークがいなくなっても…アッシュ、お前がいる。お前がいる限り、ライマは続くのだ」
ヴァンの言葉にユーリはぎりっと奥歯を噛む。
ルーはショックからか顔を真っ青にさせる。
今のヴァンの言葉はまるでアッシュがいるならルークでなくても良いのだと言わんばかりのもので、それはオールドラントの頃に言われた言葉を連想させるものだったから。
「っそんなのおかしいっ!!」
ルーは顔を歪め、叫ぶように否定する。
すぐにルークの後を追おうと駆け出そうとした。
だがそれを遮るように、ヴァンとジェイドが進行方向に立ちふさがる。
すると次の瞬間、各々の武器を手にするなり、それをルー達に向けた。
「!?」
「何の真似だ」
怒気を含ませた声でアッシュが問うと、ジェイドは武器を構えたままルーを見る。
「私たちは、ルークから指示をされています。」
「!ルークから…?」
「邪魔をする者がいれば許すな、排除しろ…その為ならどんな手を使っても構わないと。そしてそれはルー、あなただったとしてもと。」
「な…っ!?」
思わず耳を疑いたくなる話に、ルーはどくりと脈を打つ。
ルークはなんだかんだいいながらも、いつも温かい手を差し伸べてくれる優しい人だ。
どんなに小さな不安でも大きな不安でも、馬鹿にせず、必ず最後まで聞いてくれた。
時に叱ってくれて、後押しをしてくれた。
ルーにとって、ルークは兄のようなとても大切な唯一無二の存在。
その人からの指示ということにルーにとって呼吸を忘れるほどのショックなことだった。
あまりのことに言葉を失ってしまったルーはその場で俯く。
だが、アッシュは至極落ち着いた表情でジェイドたちを見据えていた。
「…そう言えと、あいつに言われたんだろう」
「!」
その言葉に弾かれたように顔を上げたルーはアッシュを見る。
「あいつは馬鹿だ。だが、誰かに危害を加えるようなことをあいつは指示しねぇ。それは昔も今もだ」
「……」
「…そうでなくてもあいつにとって、こいつは特別だ。」
アッシュはちらりとルーを見ると、ルーは目を瞬かせていた。
ルークにとって特別…?
ルーは困惑しながらジェイドの方を見る。
すると、ジェイドははぁ…とため息をつき、ヴァンと共に武器を降ろした。
「…だから言ったんです、この程度では何の時間稼ぎにもならないと。」
「!じゃあ!」
「確かにルークからは“もし追ってこようとしたら、そういう風に言え、足を止めさせろ”そう指示をされました。…ですが、ここで日頃の行いが裏目に出ましたね」
「悠長なことを言ってる場合か!お前、本当にあいつを犠牲にする気か!!」
アッシュはこめかみに青筋を立てながら怒鳴り散らすと、声が大きいですとジェイドは真顔でアッシュを制止する。
「私たちも何も対策なしにあの子を野放しにしているわけではありません。ライマの…いえ、ルークの協力者も今回は動いていますし、ルークの近くにはガイも付いています。」
「だとしても…!」
「本当に、クーデターを止める、その囮のためだけに帰ったのか?」
静かに、だが一際強い視線を向け続けているユーリの問いかけに、皆視線が集まる。
「他に何かあるんじゃないのか。じゃなきゃ、あんたが承諾しねぇだろ。いくらクーデターを止めるためって言ってもあんたは軍人だ、王族を守る義務がある。元々はそれが目的でここに来たんじゃねぇのか。それに、一緒にいるガイが“その程度”の話なら許さねぇはずだ」
ユーリの指摘を受けたジェイドは暫し無言になる。
その顔色からは何を考えているのかを読むことが出来ない。
するとジェイドの視線がルーへと移された。
「以前、私はあなたとミュウから髪をいただいたことがありました。あのあと、検査のために一部使いました。ですが…その後異変に気付きました。」
「異変…?」
「残しておいたはずの…あなたの髪だけがその場から“消えて”いました、一本も残さずに」
ジェイドの話にルーは思わず息を飲む。
だが、その現象をルーは知っていた。
「それは…、…。」
「何かご存知の様ですね」
「…レプリカの体を構成するものは…レプリカの本体から離れたら、音素に還って、消えちまうんだ。だから…俺は髪も血も涙も…残すことは出来ないんだ…。」
ルーは俯きながら話をすると、ジェイドはやはりそうですかと呟く。
一方でその初めて聞いた話にユーリは僅かに驚いた表情を見せたが、だがふと疑問が残る。
「けど、この前ルーが切った後の髪は俺も片付けたぞ?」
「うん、俺も初めて普通に自分の切った髪を見れたから…もしかしたら世界が違うと何か違うのかなって思って…」
「確かにあなたのその考えは当たっています。ですが、それが問題なんです」
「え?どういうことだ?」
ルーは思わず目を瞬かせると、ジェイドは思い出すように話し始めた。