第26話
一体何だったんだ…?
薄暗い廊下を歩きながらユーリは先ほどの事を考えていた。
たまたま会ったルークからの言葉。
恋敵と思っていた相手からの言葉に驚きはしたが、ルークの本気が伺える真剣なそれをユーリはしかと受け止めた。
だが、いつもとどこか異なる様子に何か引っかかるものも感じていた。
自室に着くなり、中へ入るとそこにはルーがいて机に向かって何か書き物をしていた。
恐らく日課の日記を書いているのだろうと思いながら、足を進める。
すると音に気付いたルーが顔を上げ、ユーリの方を見るなりパッと笑顔を見せる。
「ユーリおかえり」
「ただいま」
その笑顔にユーリも思わず笑みを浮かべる。そして近づくとあることに気付く。
「ん?あいつがいないな」
「あ、ミュウなら今日はティア達の部屋に行ってるよ」
ティアの可愛いもの好きはこの世界でも同様の様で、ミュウのことをとても可愛がっていることもあり、今日のようにティアの部屋へお泊りに行くことも間々あった。
そういう日はルーを独占できることもあり、ユーリとしても喜ばしいものだ。
ユーリは適当にベッドの上に腰を掛けると、ふと思い出す。
「そういや、今日はクレス達とクエスト行ってたんだよな?」
「うん、すげー楽しかった!」
それを皮切りにルーは本当に嬉しそうに笑顔で今日の出来事を話し始める。
ユーリはその話を相槌をつきながら聞いていた。
だが、順調に話を進めていたルーだったが、帰り間際の話になった途端、突然その笑顔が固まったのが目に入り首を傾げる。
「?どうした」
「あ、な、なんでもないよ」
ルーは自分の額に手を当てながら、僅かに俯く。
本当に楽しい時間だった、それに嘘はない。
けれど、みんなとの別れ際に見せたいつもと違うルークの姿、そして最後のあれに気がかりを覚えたのだ。
…なんだろう…なんか…。
もやもやと心に何かが覆い、不安げな表情を浮かべ口を閉ざしてしまう。
「ルー」
優しい声で呼ばれたルーは、顔を上げると手招きしているユーリが目に入る。
ルーはそれに誘われるようにユーリの方へ向かうと、ユーリはルーの腕を取るなり自らの腕の中に引き寄せた。
ルーはそれに僅かに驚いた表情を浮かべたが、ポンポンとあやす様に頭を撫でられると、徐々に気持ちが落ち着いてきて、その腕に擦り寄る。
明日ルークに会いに行こう。
そんなこと思いながら、ゆっくり目を閉じた。
多数の星が輝く夜空の下、鬱蒼とした森の中を移動する二つの影があった。
その影は急いでいるように足早にいどうしていたが、穏やかな川辺に着くとその足を止めた。
二つの影の内、一つの影…ガイは周囲を見渡し、警戒を解くと背後に視線を移す。
「大丈夫か、ルーク」
ガイの視線の先にはもう一つの影…フードを被ったルークがいて、若干の疲労が顔に浮かんでいた。
「この程度どーってことねぇよ」
強がりを見せるルークに、ガイはやれやれといった表情を浮かべる。
「とはいえ、歩きっぱなしだったからな。少し休むぞ」
「ん」
ルークは頷くなり、川辺にどかりと座ると被っていたフードを取り、重くなってきた足を休ませる。
ガイはルークに水を飲ませつつ、持っていた水筒に水を汲んでいたが、そこでふと手が止まる。
「…本当に良かったのか?」
真剣な顔でガイがルークに問いかけると、それを受けたルークはムッと眉を寄せる。
「ガイいい加減しつけーぞ!!何回言わせんだよ!!」
「だがな、ルークお前…」
「~っ!だーもーっ!つーか前から決めてただろ!!!今更だろうが!!!」
フンッと顔を背けたルークにガイは小さく息をつく。
するとルークは目を伏せ僅かに俯く。
「…ガイこそ…良かったのかよ」
ぽつりと小さく呟かれた言葉に、ガイは何度か目を瞬かせたが、少し頼りなさげなその背中を見て、フッと笑みを浮かべる。
「当たり前だろ。お前こそ何度言わせるんだ?」
「……」
俯いたままのルークの頭にぽんと手を置き、真剣な目で前を見据える。
「お前の後ろには俺がいる。ルークは前だけ見てればいい」
「……おう」
小さい声でそう返答したルークはスッと立ち上がる。
そして、フードを被り直し、しっかりとした足取りで歩き出す。
「行くぞ…時間ねぇ」
***
ここはどこだ…?
ルーは真っ黒な背景の世界にいて、周囲を見渡しても何もないその空間だったが、なぜか至極落ち着いた状態だった。
すると、ふと視界を横切ったものに目が奪われる。
そこにいたのは、鮮やかな焔のように光を帯びた朱色で毛先に向けて黄色みがかった長い髪。
後ろ姿しか見えないが、その特徴的な髪と背格好を見れば、より身近な人物であることを認識できる。
ルーク?
ルーはその存在に引かれるように歩き出す。
ある一定の距離まで来たその時、後ろを向いていたルークはルーの方を見る。
その顔はとても悲し気で、一体何がそんな顔をさせるのか。
ルーは妙な衝動にかられ、足早になる。
だが次の瞬間、ルーの足は止まってしまった。
そこにあった、ルークの涙を見てしまったから。
すると、徐々にルークの体が透けていく。
それはオールドラントの頃、助けたかった、最後まで自分を信じ続けてくれた大切な友達-イオンが自分の腕の中で消えていくときと同じ光景だった。
「っ!ルーク!!?」
バッと起き上がったルーは大声を上げる。
はぁはぁと息を切らしながらも見えたのは先ほどの世界とは違う、自分の部屋。
呆然とした様子で周囲を見渡すと隣のベッドでルーの声で目を覚まし驚いた表情のユーリが目に入る。
「ルー!?どうした!」
「え…?あ、れ…?」
「また、夢でも見たのか?」
「…ゆ…め…?」
ユーリの言葉を受け次第に意識がクリアになってきたルーは目を瞬かせ、そして脱力する。
けれど、夢の中で感じた妙な衝動は消えることがなかった。
呆然と、だがどこか焦りが見えるルーの様子にユーリは首を傾げる。
「ルー?」
「ユーリ、今…ルークが…」
困惑気味に呟いたルーの言葉に、ユーリはピクリと反応する。
ルーは未だ鮮明に覚えている夢と昨日のことを思い返す。
嫌にバクバクと心臓が脈を打ち始める。
ルーは首をぶんぶん振るなり、すぐにベッドから出る。
「お、俺、ルークに会いに行ってくる!!」
ルーの突然の行動にこんな早朝から…とユーリは一瞬思ったが、顔を真っ青にして焦った様子のルーを見て、少し考えた後ベッドから出る。
「俺も行く」
薄暗い廊下を歩きながらユーリは先ほどの事を考えていた。
たまたま会ったルークからの言葉。
恋敵と思っていた相手からの言葉に驚きはしたが、ルークの本気が伺える真剣なそれをユーリはしかと受け止めた。
だが、いつもとどこか異なる様子に何か引っかかるものも感じていた。
自室に着くなり、中へ入るとそこにはルーがいて机に向かって何か書き物をしていた。
恐らく日課の日記を書いているのだろうと思いながら、足を進める。
すると音に気付いたルーが顔を上げ、ユーリの方を見るなりパッと笑顔を見せる。
「ユーリおかえり」
「ただいま」
その笑顔にユーリも思わず笑みを浮かべる。そして近づくとあることに気付く。
「ん?あいつがいないな」
「あ、ミュウなら今日はティア達の部屋に行ってるよ」
ティアの可愛いもの好きはこの世界でも同様の様で、ミュウのことをとても可愛がっていることもあり、今日のようにティアの部屋へお泊りに行くことも間々あった。
そういう日はルーを独占できることもあり、ユーリとしても喜ばしいものだ。
ユーリは適当にベッドの上に腰を掛けると、ふと思い出す。
「そういや、今日はクレス達とクエスト行ってたんだよな?」
「うん、すげー楽しかった!」
それを皮切りにルーは本当に嬉しそうに笑顔で今日の出来事を話し始める。
ユーリはその話を相槌をつきながら聞いていた。
だが、順調に話を進めていたルーだったが、帰り間際の話になった途端、突然その笑顔が固まったのが目に入り首を傾げる。
「?どうした」
「あ、な、なんでもないよ」
ルーは自分の額に手を当てながら、僅かに俯く。
本当に楽しい時間だった、それに嘘はない。
けれど、みんなとの別れ際に見せたいつもと違うルークの姿、そして最後のあれに気がかりを覚えたのだ。
…なんだろう…なんか…。
もやもやと心に何かが覆い、不安げな表情を浮かべ口を閉ざしてしまう。
「ルー」
優しい声で呼ばれたルーは、顔を上げると手招きしているユーリが目に入る。
ルーはそれに誘われるようにユーリの方へ向かうと、ユーリはルーの腕を取るなり自らの腕の中に引き寄せた。
ルーはそれに僅かに驚いた表情を浮かべたが、ポンポンとあやす様に頭を撫でられると、徐々に気持ちが落ち着いてきて、その腕に擦り寄る。
明日ルークに会いに行こう。
そんなこと思いながら、ゆっくり目を閉じた。
多数の星が輝く夜空の下、鬱蒼とした森の中を移動する二つの影があった。
その影は急いでいるように足早にいどうしていたが、穏やかな川辺に着くとその足を止めた。
二つの影の内、一つの影…ガイは周囲を見渡し、警戒を解くと背後に視線を移す。
「大丈夫か、ルーク」
ガイの視線の先にはもう一つの影…フードを被ったルークがいて、若干の疲労が顔に浮かんでいた。
「この程度どーってことねぇよ」
強がりを見せるルークに、ガイはやれやれといった表情を浮かべる。
「とはいえ、歩きっぱなしだったからな。少し休むぞ」
「ん」
ルークは頷くなり、川辺にどかりと座ると被っていたフードを取り、重くなってきた足を休ませる。
ガイはルークに水を飲ませつつ、持っていた水筒に水を汲んでいたが、そこでふと手が止まる。
「…本当に良かったのか?」
真剣な顔でガイがルークに問いかけると、それを受けたルークはムッと眉を寄せる。
「ガイいい加減しつけーぞ!!何回言わせんだよ!!」
「だがな、ルークお前…」
「~っ!だーもーっ!つーか前から決めてただろ!!!今更だろうが!!!」
フンッと顔を背けたルークにガイは小さく息をつく。
するとルークは目を伏せ僅かに俯く。
「…ガイこそ…良かったのかよ」
ぽつりと小さく呟かれた言葉に、ガイは何度か目を瞬かせたが、少し頼りなさげなその背中を見て、フッと笑みを浮かべる。
「当たり前だろ。お前こそ何度言わせるんだ?」
「……」
俯いたままのルークの頭にぽんと手を置き、真剣な目で前を見据える。
「お前の後ろには俺がいる。ルークは前だけ見てればいい」
「……おう」
小さい声でそう返答したルークはスッと立ち上がる。
そして、フードを被り直し、しっかりとした足取りで歩き出す。
「行くぞ…時間ねぇ」
***
ここはどこだ…?
ルーは真っ黒な背景の世界にいて、周囲を見渡しても何もないその空間だったが、なぜか至極落ち着いた状態だった。
すると、ふと視界を横切ったものに目が奪われる。
そこにいたのは、鮮やかな焔のように光を帯びた朱色で毛先に向けて黄色みがかった長い髪。
後ろ姿しか見えないが、その特徴的な髪と背格好を見れば、より身近な人物であることを認識できる。
ルーク?
ルーはその存在に引かれるように歩き出す。
ある一定の距離まで来たその時、後ろを向いていたルークはルーの方を見る。
その顔はとても悲し気で、一体何がそんな顔をさせるのか。
ルーは妙な衝動にかられ、足早になる。
だが次の瞬間、ルーの足は止まってしまった。
そこにあった、ルークの涙を見てしまったから。
すると、徐々にルークの体が透けていく。
それはオールドラントの頃、助けたかった、最後まで自分を信じ続けてくれた大切な友達-イオンが自分の腕の中で消えていくときと同じ光景だった。
「っ!ルーク!!?」
バッと起き上がったルーは大声を上げる。
はぁはぁと息を切らしながらも見えたのは先ほどの世界とは違う、自分の部屋。
呆然とした様子で周囲を見渡すと隣のベッドでルーの声で目を覚まし驚いた表情のユーリが目に入る。
「ルー!?どうした!」
「え…?あ、れ…?」
「また、夢でも見たのか?」
「…ゆ…め…?」
ユーリの言葉を受け次第に意識がクリアになってきたルーは目を瞬かせ、そして脱力する。
けれど、夢の中で感じた妙な衝動は消えることがなかった。
呆然と、だがどこか焦りが見えるルーの様子にユーリは首を傾げる。
「ルー?」
「ユーリ、今…ルークが…」
困惑気味に呟いたルーの言葉に、ユーリはピクリと反応する。
ルーは未だ鮮明に覚えている夢と昨日のことを思い返す。
嫌にバクバクと心臓が脈を打ち始める。
ルーは首をぶんぶん振るなり、すぐにベッドから出る。
「お、俺、ルークに会いに行ってくる!!」
ルーの突然の行動にこんな早朝から…とユーリは一瞬思ったが、顔を真っ青にして焦った様子のルーを見て、少し考えた後ベッドから出る。
「俺も行く」