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第21話


暫くその状態でサクラを堪能していた二人だったが、ふと賑やかな声が近づいてくるのに気付く。
しかもそれはどこかで聞いたことのあるようなもので、不審に思った二人は顔を見合わせる。
その時だった。

「ルー!」
「おわっ!?えっメルディ!?」
「♪」

突如ルーの背後からタックルの如く抱き着いてきたのは、ここにいるはずのないアドリビトムの仲間の一人、メルディだった。
突然の登場にルー達は驚くが、更に賑やかな声が耳に入り、そちらの方に目を向ける。

「なー、まだつかねぇの?ここでよくねぇ?」
「折角来たんだし、もっと近くに行ってみようよ!きっとそっちの方がお弁当もおいしいよ!」

坂の下からこちらに向かってきているのは、大きなバスケットのようなものを持ったリッドとファラ。
更にその背後に見えたのは興奮状態のしいなとすず。

「やっぱりサクラ見ると血が騒ぐね!」
「はい!」

目を輝かせ、結束を高めている2人の更に後ろにはロイドやゼロス達の姿も。
それをみたルーは唖然とし、ユーリは顔を引きつらせる。

「な、なんで皆…?」

困惑気味にぽつりと呟くと、今度はダダダダッと物凄い速さで駆ける音が聞こえてくる。
ルーはそちらの方を見ると、そこにはルークの姿があり、その勢いのままルーを思いっきり抱きしめた。

「!」
「ルーク!?」

ルーをかっさらうように突然登場したルークに、ユーリは驚くと同時にぴくりと眉を上げた。
ぎゅうぎゅうと抱きしめられているルーは展開について行けず、目を白黒させる。
すると、ルークに遅れてぱたぱたと小走りでこちらへ向かってくるガイの姿が見えた。

「!ガイ!」
「ルー、いきなり驚かせて悪いな」

申し訳なさそうにそう言うガイに、ユーリは本当だよと内心ツッコむ。
折角の二人の時間を邪魔され、かつユーリにとって一番の恋敵であるルークにルーをとられた今の状態。
不機嫌全開のユーリと目をぱちくりさせているルーの視線を受けガイは、苦笑いを浮かべたまま説明し始める。

「実は昨日突然ルークが何が何でもルーに会いに行くって言い出してな。もうすぐ帰ってくるからって説得したんだが、全然聞かなくてさ。で、その話を聞きつけた他の皆もルークが行くなら自分たちもって言い出してさ。結局ほとんどの奴がここに来てると思うぞ」

ガイの話を聞いて、その光景が容易に想像が出来たユーリは顔を引きつらせる。
そしてほとんど、という言葉の通りなのか賑やかな声がこちらに近付いてきているのが分かる。


その中、ルークは昨日からルーの事で妙な焦燥感を感じていたのだが、ルーの無事を肌で感じられた今、小さく安堵の息をつく。
ゆっくり体を離しルーの顔を見るなり、すぐにルークは眉を寄せた。

「…?おい、お前なんか頬腫れて…」

ないかと言おうとしたルークだったが、ルーはルークをじっと見つめたまま微動だにしない。
そんなルーにルークはん?と首を傾げていると、ルーはルークを見つめたまま突然ポロリと涙を流した。

「「!?」」

あまりの突然の出来事に、ユーリとルークは目を見開き驚く。

えっ俺何かしたか!?

訳が分からずただ焦り出すルークに対して、ルーは静かにぽろぽろ涙を流し続ける。
そして…。

「ルークだぁ」
「!!」

ぐすぐすと泣きながら安堵したようにそう呟くとそのままルークに抱き着いた。
想定外過ぎることにルークは目を見開いて驚き、次の瞬間顔をボンッと顔を真っ赤に染める。

いいいいい一体何事だ!?

パニック状態に近いルークだったが、いつものルーとは違う行動、そして昨日感じた不穏な何かを思い出し、まさかとすぐにキッとユーリを睨みつける。

「てめぇっ!やっぱりルーに何か…」

あったんだろ!?とルークが言い切る前に、ユーリは素早くルーをルークから引き剥がす。
そしてそのままルーを自分の腕の中に引きずり込むと、ぎゅっと後ろから抱きしめる体勢でその耳元に囁く。

「そういうのは俺にしろ、ルー」
「へっ!?」「なっ!?」

物凄い至近距離過ぎるユーリとその声に、今度はルーがボンッと顔を真っ赤にする。
突然のことに驚愕したルークだったが、ルーを取られ、しかも自分の天敵に抱きしめられている状態を前に頭に一気に血が上る。

「~っざけんな!この黒ロン毛野郎!!ルーから離れろっ!!」
「やなこった。ルーは俺のだ、誰にもやらねぇ」
「なんだとっ!?」

二人は剣吞な空気を漂わせ、その間には巨大な火花がバチバチと音を立てながら散る。

「あーまた始まったわね」

少し離れた場所でその成り行きを見ていたリタは呆れながら呟く。

「…一応聞くけど、いつもああなの…?」
「はい、あんな感じです。」

冷や汗を流しながら恐る恐る問うカロルに、にこにこと笑顔を浮かべながらエステルは頷く。
それはとても楽しそうで、女の子って…と口には出さないもののカロルは思った。

なんとかユーリからルーを引き剥がそうとするルークだったが、がっちりと自分の腕の中から離そうとしないユーリ。
しかも先程言い放った通り、自分のものだと言わんばかりの態度に憤慨したルークはキッと眉を上げる。

ルーが何も言わねえからってベタベタベタベタベタベタ触りやがって…!ぜってーうざいだろ!!いい加減に離せよこの野郎!!俺はまだ認めてぬぇぞ!!

「ルーク、声に出てるぞ~」

苦笑いを浮かべながら小声で指摘したガイだったが、憤慨しているルークには聞こえていないようで強く睨みつけながら唸り声をあげる。
対してユーリはと言えば、1ミリも譲る気はないようで、更にカチンとくる。

「くっそ!こいつ調子に乗りやがって…っ!!ルー!お前もちゃんと言いたいこと言わねぇとダメだぞ!!?」
「う…うん。わ、わかった」

ルークの勢いに押され、ぎこちなくも、こくりとしっかりと頷いたルー。
それにユーリとルークははたと止まる。
いつもならこういう時、ルーは苦笑いか濁した返事しかしない。
けれど今は小さいながらもしっかりと返答を返したのだ。
ほんの少しではあるが感じたルーの変化に、二人は思わずルーの頭をかき混ぜるように撫でる。

「うわっ!?ちょっ何!?」

いきなりの事にルーは驚き声を上げる。
すると、突然ビュウッと音を立てながら突風が吹かれ、その風に乗るようにサクラの花びらが舞いあがる。
空一面を舞う花吹雪。

「うわぁ…!」

それは見る者を全てを魅了するくらいのとても美しい光景でルーは感嘆とした声を上げた。
目を輝かせ花吹雪に夢中なルーに、ユーリとルークは笑みを浮かべる。
が、それも一瞬ですぐに二人はお互いを睨みつけ、無言の攻防戦を繰り広げ始めた。
そんな二人を苦笑いを浮かべながら見守っていたガイは、ふとあることを思い出す。

「ルー、ジェイドの旦那から言伝があるんだ」
「ジェイドから?」
「ああ、お待ちかねの薬は明日くらいには完成するってさ」
「!!本当か!?」
「ああ」

よかったなと笑顔のガイに、ルーは嬉しさのあまり思わずガイに抱き着く。
そして辺り一面にガイの悲鳴が響き渡った。
















「じゃあ、また暫く留守にするんだね」
「ああ」

アドリビトムのメンバーほぼ全員がきて突如始まった花見の翌日、ユーリとルーは下町の皆に挨拶をするために首都に戻っていた。
下町の面々はユーリ達がバンエルティア号に戻ることを知るなり、残念そうな表情を見せる。
女将さんも同様に残念そうではあったが、やることがあるなら頑張っておいでと背中を押してくれた。

「ルーちゃん、ユーリをよろしく頼むよ」
「え、は、は、はい!」
「声裏返ってんぞ」
「う…だって…」

にやにやと笑みを浮かべるユーリを恨めしそうに見つつ、ルーはあることが気になっていた。
きっと女将さんは自分が女の子であるから、そう言ってくれているのだろう。
でも実は自分は男なんですと言ったら…。
そうでなくても、自分の正体を偽っているような気がしていてルーは気を揉んでいたのだ。
言うなら今しかないと、何とも言えない緊張がピークに達そうとしていた。
そんなルーに、女将さんはにっこりと笑みを見せる。

「ルーちゃん、今度は男の子の姿で遊びにおいで」
「・・・・へ?」

ルーは訳が分からず気の抜けた声を返す。
今なんて言った?男の子の姿って…。

「い、いま…」
「ルー、お前が実は男だってことはここの連中全員知ってんぞ」
「・・・・へ?」
「ここに来た初日にその辺は話しといたからな」

さらっととんでもないことを言い出したユーリに、ルーは固まる。
しょ、初日って…

「い、いつの間に…!?」
「お前が俺にキスされてるのを見られて、大騒ぎして不貞腐れてる間だな」
「!?」

確かにそんなことあったけど…あったけど…!!
いろいろと思い出し、ボンッと顔を真っ赤に染める。
あまりの恥ずかしさに頭を抱えていると、背後の方から子供たちの賑やかな声が聞こえてくる。
それに気づいたルーはそちらの方に顔を向けると、そこには缶蹴りで遊んだテッドや下町の人たちの姿。

「ルー!絶対また遊びに来てね!」
「今度は負けないよ!」
「ユーリもちゃんとルーを連れてきてよね!」
「わかってるよ」

あっという間にルーの周りに人が囲むように集まり、口々にまた来てほしいという言葉が飛び交う。
それに呆然としていたルーだったが、その温かい言葉と笑顔にじわじわと感じる。

「皆、ルー達のこと待ってるからね!」
「…うん、また来るよ!」

嬉しそうに頷くルー。
すると、人垣をするりと抜けてルーの元に来たラピードは、お行儀よくその場でお座りをする。
ルーはラピードに気付くと、優しくその頭を撫でた。

「ラピード、また会いに来るからな!」
「ワン!」

元気よく返事をしたラピードに、ルーは嬉しそうに笑みを浮かべる。

「また暫くここのこと頼んだぞ、ラピード」
「ワフ!」

力強く頷く相棒の姿をみて、ユーリはルーを見る。

「ルー、そろそろ行くぞ」
「うん」

ルーは頷き、改めて下町の人達の顔を一人一人見渡し、そしてとびっきりの笑顔を見せた。

「またな!」

その笑顔を見た下町の皆も、つられるように笑顔を見せる。

「またね!」
「気を付けてね~!」

一層賑わいそして温かく見送る皆に、ルーは大きく手を振りながらユーリと共に歩き出した。




首都の出入口付近に到着すると、そこには待ちわびた様子のカロルがいた。

「あ、ルー!ユーリ!」
「!カロル!あれ、仕事入ってたんじゃ…?」
「うん。そろそろ行かないとだけど、まだ大丈夫だよ!それにあのままお別れはなんか寂しいしさ!」

ちゃんと見送りしたかったんだというカロルに、ルーはとても嬉しく思った。

「皆にも言ったけど、ユーリももうちょっと顔見せにきてよね!」
「わかったわかった」
「その時はルーも来てね!待ってるから!あ、あとルー、この間話した話、お互いに頑張ろうね!」
「!うんっ!」
「なんのことだ?」

首を傾げるユーリに、カロルとルーはお互いの顔を見合わせ、にっと笑顔を見せた。

「「内緒!」」

見事にはもった二人にユーリは僅かに目を瞠ったが、楽しそうにしている2人を見て、すぐに笑みを浮かべた。
すると、カロルは近くにある時計を見て声を上げる。

「あ!僕もう行かないと!じゃあね、二人とも!」
「ああ」
「またな!」

笑顔で挨拶を交わし、カロルは大きく手を振りながら駆け出し、街の中へ消えていった。
それを見送ったユーリとルーもその場を後にした。












第2章おわり



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