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第21話

翌朝、宿屋のロビーでそわそわと落ち着かない様子を見せるカロルとエステルがいた。
昨日ルーを奪還したはよかったが、最後に見た姿は体を震わせユーリにしがみ付いているのがやっとの状態で、その時のことを思い出すと心配でしかたなかったのだ。
それは顔には出さないもののここにいるリタ、ジュディス、レイブンも同様で。
ちなみにフレンは、取り押さえたアルンプルトの聴取と協議に掛けるため、一足早く首都に向かっていたため不在だった。

カロルたちはルーとユーリが来るのを暫し待っていると、足音が聞こえてくる。
そちらの方を見ると、ルーとユーリがいてこちらに向かってきているのが見えた。
それに気づいたカロルとエステルはすぐに二人の元へと駆け寄る。

「大丈夫ですか!?」
「ごめんなさい!!」
「えっ!?」

ほぼ同時に大声で詰め寄り、必死の形相を見せる二人に、ルーは思わず驚きびくつく。
それを見た、レイブンは苦笑いを浮かべる。

「二人とも気持ちはわかるけど、いきなりだとルーちゃんも驚くよ?」
「す、すみません…」「ご、ごめんなさい…」

ハッと我に返った二人はしょぼんと落ち込む。
展開について行けず唖然とルーだったが、皆の顔を見渡すなり、改めて迷惑をかけてしまったのだと眉を下げる。

「皆ごめんな、いろいろ…」
「何言ってんのよ。ルーが謝ることじゃないでしょ」
「ええ、無事でよかったわ」

ルーの姿を見てようやく安心できた、リタとジュディスはホッと胸を撫で下ろしたようすでそう言うと、ルーは初めこそきょとりとした様子だったが、皆の柔らかい表情と自分に擦り寄ってくるラピードを前に、嬉しそうに照れたような笑顔を見せた。

「!ルー、頬腫れていませんか…!?」

ルーの片頬が少しだけ腫れていることに気付いたエステルに、ルーはあー…と呟きながら苦笑いを浮かべる。

「ちょっと叩かれて…でも大したことないよ」
「「!?」」
「やっぱりファイアーボールでもぶつけとくべきだったわね」
「女性の顔を叩くなんて最低ね」
「青年、抑えて抑えて…!」

再び怒りに染まり始めたユーリにレイブンは必死に宥めていると、ルーはふと外を見る。

「雨止んだんだな」

長いこと降っていた雨は止んでいるようで、その厚い雲の隙間からは僅かに光が漏れていた。
それの光はサクラの方に差し込んでいて、少し離れたここからでもとても綺麗に見える。

「ルー、あんなことがあった後だけど折角来たのだし、サクラ見てみる?」
「!うん!」

ジュディスの提案に、ルーはすぐに目を輝かせ頷く。
その姿を見て、皆思わず笑みを浮かべる。そして同時に無事でよかったと安堵した。

「決まりだね!」
「早速行きましょう!」

カロルとエステルに手を取られ引っ張られるような形でルーは歩き出し、その後にユーリ達は続いた。
目的地であるサクラはなだらかな坂の上にある。
そこへ向かう間、今度こそは離れないと言わんばかりにぴったりと寄り添うラピードにルーは笑顔を浮かべながら見ていると、前方を歩いていたカロルが、あ!と大きな声をあげる。
ルーはそちらの方を見ると、既に坂の上に到着していたカロルとエステルが興奮した様子で手招きしているのが見えた。
なにかあったのだろうかと首を傾げつつ、ルーはカロル達の方へ駆け寄る。

「どうしたんだ?」
「ルー!見てください!」
「あそこ!虹だよ!!」

カロルが指さす先には、大きなサクラの背後にあった7色の大きな虹。
そしてそのサクラの花びらにある雨粒は太陽の光に反射されキラキラと輝いていた。
その綺麗で壮観な景色で、ルーは思わず見入る。
すると、徐々に雲の切れ目が大きくなっていき、光り輝く太陽が姿を見せた。

その時だった。

「!」

太陽の陽を一身に浴びたサクラは、これまで固く閉じていた蕾を一斉に咲かせ始める。
そして一瞬で満開にさせたサクラにエステル達は勿論、その場にいた他の人たちからの歓声があがった。

「すげー…!」

初めて見るその姿にルーは口をあんぐり開きながら見つめる。
大きくて、でも柔らかで淡いピンクの色合いとなんとも心が落ち着く雰囲気に、ルーはただ感嘆としたようすで見つめていた。
そんなルーをユーリは優しい眼差しを向けていると、それに気づいた他の面々は、お互いの顔を見合い、そろそろと二人から離れる。

暫し呆然と見ていたルーは、ふと我に返り周囲を見る。

「あれ?皆は?」
「さあな。ま、その内戻ってくるだろ。」

気を利かせて二人きりにさせたのだろうというのは一目瞭然だが、その気遣いにありがたいと素直にユーリは思った。
一方で不思議そうにしているルーだったが、ユーリと二人きりだということを認識すると、少しだけ気恥ずかしくなり、そしてある気持ちが湧き起こる。

「どうした?」
「えっと…」

なんとなくそわそわとし始めたルーに気付いたユーリが問いかけると、ルーは目をさ迷わせながらあーだのうーだの言葉を探し始める。

もしやルーのわがまま第1号か?

そう思うとなんだかとても嬉しく感じる。

「思い切って言ってみろ」
「う、うん…」

ユーリの言葉を受け、ルーは覚悟を決めたのか、ぐっと気合を入れるなり小さく頷いた。
そこまで気合を入れないと言えないこととは一体どんなものだろうかとユーリは考えながらルーを見ていると、ルーはユーリをちらりと見るなり、恐る恐る口を開く。

「あの…、…手、握って欲しいな…なんて…」

か細い声で伝えられたルーにとっての“わがまま”にユーリは目を丸くする。
あんなに言うのを躊躇って気合を入れてまで言った“それ”。
その想定をある意味大きく超えたの内容に、思わずユーリは固まってしまう。
その姿を見たルーは眉を下げ俯くとしょぼんと身を縮める。

調子に乗り過ぎた…やっぱり駄目だよな…

「や、やっぱ、い…」
「お前…可愛過ぎだろ」
「へ?」

ポツリと呟かれた言葉にルーは顔を上げると、そこには口元を手で隠しながら顔を僅かに赤くしたユーリがいた。
その姿を見たルーはぽかんとした様子で目を瞬かせる。
一体どうしたんだろうと顔にはっきりと書いているルーに、ユーリはおいおいまじかとも思ったが、改めて愛おしい気持ちが膨らむのを感じていた。

ユーリはそっとルーの手を取り、そしてそのまま所謂恋人つなぎをした。
ルーはそれに驚き、みるみるうちに顔を真っ赤にする。
手のひらから感じる温かい体温。
そして顔を上げると優しい笑みを浮かべたユーリがいて。
それを再認識したルーは、頬を赤らめながらも本当に嬉しそうな笑顔を見せた。



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