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第25話





ルークは僅かに俯きながら廊下を歩いていると、すっと現れた影の方に目を向ける。
そこにいたのは、自分の弟であるアッシュの姿。
アッシュは至極真面目な表情を浮かべ、ルークに近づいてくる。

「おい、例の件だが…」

気の張りつめたような声に、ルークは大きくため息をつく。

「どうせなんとかなるだろ。ほっとけよ」
「…本当にそう思ってんのか」
「お前は神経質過ぎんだよ。他の奴がどうにかすんだろ」

その全くと言っていいほどやる気のない返事を返されたアッシュは眉を寄せる。
それを見たルークはふいっと目線をずらした。

「っ!てめぇっ、これから国を背負うてめぇがそんなんでどうする!!?」
「うっせーよ」
「なんだと!?」

激高したアッシュは怒りのままルークの胸倉を掴み、睨みつける。
それに対してルークはイラっとした様子でアッシュを睨み返す。

「離せよ」
「っいい加減にしろ!!てめぇが呑気にしている間にも…」
「っお前に俺の何が分かるんだよ!!」

突然声を荒げたルークに、アッシュは思わず息を止める。

「やめろ二人とも!」

騒ぎを聞きつけたガイが二人の元に駆け寄ってくると、ルークは力任せにアッシュの腕を振り払い、俯きながらも距離を取る。

「…お前も…いつまでも俺の後ろに隠れてウジウジしてんじゃねぇ!!」
「っ!?」

ルークはそう言い捨てるなり、その場から逃げるように駆け出す。
その後ろ姿を見て、ガイは悲し気な表情を浮かべた。

「ルーク…」






























クエストから戻ってきたユーリは報告を済ませ、自室に向かっていた。
すると、一際鮮やかな朱色が目に入り、そちらを見ると息を切らして壁にもたれかかっているルークがいた。

こんなところで何やってんだ?

そんなことを考えつつ、近づいてみるとルークはその足音にびくりと反応し、バッと顔を向ける。
ユーリの存在に気付いたルークは驚いた様子で目を大きく見開く。

「坊ちゃん?」

声を掛けてもルークは特に返答を返してこない。
いつもなら大声を上げたり、すぐに憎まれ口を叩いてくるのだが、それがなく不自然に静かで、ユーリは眉を寄せる。
すると、ルークは目を伏せる。

「…ルーが選んだんだ。俺はあいつが選んだことを否定しねぇ。」

ユーリに聞こえない程小さい声で呟いたルークは、すっと顔を上げる。
そこには普段見れない、至極真面目な表情でしっかりとした目でユーリを見ていた。

「?おい、どうし…」
「ってめぇを認めてやるっつってんだ!!!」

吐き出すように強く言い放ったルークに、ユーリは目を瞠る。
するとルークは拳をぎゅっと握りながら、ずかずかとユーリに近づき、胸倉をつかんだ。

「ルーはお前を選んだ、だから…認めてやる!けどっ!もし、あいつを泣かせるような真似をしたら、俺はぜってー許さねぇからな!!」

感情が高ぶっているのか目を潤ませながらも、必死に奥歯を噛み、ユーリを強く睨みつける。
それに呆気に取られたユーリだったが、ルークの本気の気持ちを汲み取るなり、しっかりと芯の通った目でルークを見据え、頷く。

「ああ」

その真っ直ぐな目を見たルークは、僅かに視線を下に向け、手放すとバッとその場から駆け出していった。
















ルークはうんと離れた所まで来るとその足を止めた。
全速力で走ったせいか粗い呼吸を繰り返しながら、ふらりと近くにある壁に体を預け、天を仰ぐ。
目を閉じ、呼吸をゆっくりと整わせる。

暫しの静寂が辺りを包み込む中、ルークは深く深呼吸をし、フッと目を開ける。
その目には何かの決意を宿していた。






続く


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