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第25話





科学室の一角、多数の本とノートに囲まれ、ただ静かに何かを思慮しているジェイドがいた。
その姿を見て、たまたま近くを通りかかったハロルドが声を掛ける。

「珍しいわね、そんな考え込んでるなんて」

ジェイドは珍しくハッとした様子で顔を上げ、ハロルドの方を見る。
暫し互いの目を見て探り合いをしていたが、ジェイドは根負けしたようで、ふぅと軽く息をつくなり口を開いた。

「なぜ、彼がこの世界に来たのかを考えていました」
「ルーの事?」
「ええ」

ハロルドは近くの机に寄りかかりながら、手元にあるコーヒーを飲み、話を聞く姿勢になる。
すると、話が耳に入ったのか、それまで機械をいじっていたリタが顔を上げた。
それらを見て、ジェイドは遠くに視線を向ける。

「ルーをこの世界に送ったローレライは、他にも世界はあることを知っていました。そして、それらの世界の情報も知っているようでした。ルーにとって必要な音素がオールドラント以外にないと言い切ったのは、全ての世界の情報を知っていたからでしょう。…その数ある世界の中から、なぜこの世界を選んだのか」
「たまたま…って訳じゃないわよね」

リタがぽつりと呟いたことに、ジェイドは頷く。

「ええ。彼はルーの事を何より大切に、優先にしているように見えました。そんな特別な存在を“なんとなく”等の理由で選んだ世界に送るとは思えません。」
「そうねぇ。でもこのルミナシアとオールドラントの共通点がないわけじゃないし。ほら、あんたのとこの譜術とか。」
「ああ、あれですか。」
「そうね、あれが読めたのは確かに共通点よね」
「そ。その点からも他の世界よりもここの方がまだマシって判断したんじゃない?」

私がいた世界よりはこっちの世界のが話分かるやつ多いしとハロルドが続ける。
それにジェイドはなるほどと頷く。

「まぁ、そうかもしれませんね。」
「けど、それだけじゃない何かがあるってことでしょ?」

ジェイドはハロルドを見ると、さっさと本題を話しなさいよという目を向けられる。
じーっと強い視線を向けられ、ジェイドは眼鏡のブリッジを上げる。
「少し引っかかる点があるんです。」
「なによ」
「ルーがオールドラントからこの世界に来たのはルーを生かすため。それについては理解できますし、既に分かっていることです。ですが、オールドラントからきたのはルーだけではないんですよ。」

ジェイドは手元のカルテを見ながら続ける。

「オールドラントで普通に暮らせるはずのミュウが、なぜこの世界に着たのか。そしてここに来るまでの時系列にも少々疑問が残ります。」
「ミュウがこの世界に着た時の話ね。」
「はい、ミュウは一時的にアッシュ達と別行動をしていた、そして私たちが見たあの映像ではアッシュ達しか認識できなかった。ですが、ミュウはオレンジ色の光を見て気付いたらここにいたのだと。それではミュウの意志がありません。」
「何か意味があって、意図的にミュウだけをこの世界に送り込んで来た…確かにそう考えてもおかしくはないわね。」
「ええ。ミュウをこの世界に送る必要があった、もしくは送ることによって何か…」

ハロルドとの話の途中途端ジェイドはハッとした様子を見せ何かを考え始めた。
そしてあることに気付くとジェイドは二人を見るなり、口を開いた。

「ひとつ協力をお願いできますか?」
























ルーはルーク達と共にルバーブ連山に採掘クエストに来ていた。
クエストと言ってもどちらかというとピクニックに近い位のレベルで、4人は談笑しながら散策をしていた。
ルークは先程とは打って変わって楽しそうに笑っていて、ルーもこの3人とは和気あいあいとした感じが好きで楽しい時間を過ごす。

依頼物も採取は終わった後も時間が許す限りのんびりしようと、持って来ていたお弁当を広げることにした。

「今日いい天気で良かったよなー」
「そうだね」

サンドイッチを食べながらロイドとクレスが笑顔を見せ、それに答えるようにルーも笑顔で頷く。

「こうして4人で出かける機会なんてほとんどなかったけど、結構なんとかなるもんだな!」
「この辺の魔物程度じゃ話になんねぇだろ。」

ルーの言葉にルークが笑みを浮かべながら勝気なセリフを吐いていると、クレスはでもと続けた。

「それもあるかもしれないけど、ルークも前よりすごく強くなったよね」
「あ、俺も思った!」

すぐに同調したロイドはしきりにうんうんと頷く。
それにルークは僅かに驚いた様子を見せたが、すぐに顔を赤くさせ狼狽する。

「いいいいいいきなり何言い出すんだよ!!?」
「え、だってそう思ったから。ね?」
「おお!」
「うん!」

主張する3人にルークはたじろぎながらも、口をもごもごとさせていた。
それがルークの照れ隠しであることを知っている3人はお互いの顔を見合わせ笑みを浮かべる。

「これからも定期的に行こうよ、今度はもう少し難しいクエストに挑戦しよう」
「そうだな!俺たちなら行けるって!」

楽し気にそう話すクレスとロイドに、ルーもそれはいいなと思いながらルークの方をちらりと見ると、ルークは僅かに目を瞬かせ、そして小さく笑みを浮かべていた。

水を汲みに行ってくるとロイドとクレスが席を外し、その間にルーとルークは食事の後片付けをし始める。
その時ふとルーは先程思ったことを口にする。

「俺も治癒術とか使えたらいいんだけどなー。」
「なんでだよ?」

突然何を言い出すんだとルークがルーの方を見ると、ルーはだってと続ける。

「そうしたら、もっとルーク達ともクエスト行けるじゃん。」

こうして4人で出かける機会が少ないのは皆が前衛で、治癒術が使える人間がいないから。
ルークは一国の王子で王位継承権第一位、安全面を考えるとなかなか難しいのだ。
だから一緒に出掛けられてもこうした簡単なものや場所も制限されてしまう。
いくらルーのレベルがあったとしても、どこでもいいというわけにはいかなかった。
なんとかして習得できないかな~と腕を組み眉を寄せているルーに、ルークはポカンとしていたが、少し考える。

「そういや…お前、これからしたいことねぇの?」
「したいこと?」
「ずっとこのギルドにいるのかよ?」

ルークの質問にルーは思わず目を瞬かせえる。
見ればルークはいつもの様子とは異なりどことなく真剣な表情を見せていた。
ルーはそれを受け、んー…と視線を遠くに向ける。

「実はさ、この前行ったガルバンゾで友達が出来たんだけど、その時にも言われて初めてこれから何がしたいのかって考えたんだ。…俺はもっといろんなこと場所に行って、いろんな人と会って、いろんなことを知りたいって、見てみたいって思ったんだ。俺本当に世間知らずで…まだまだ分からないことが沢山あるから」

考えを纏めるようにゆっくりと考えていたことを自分なりの言葉に紡ぐルーに、ルークは静かに聞いていた。
すると、ルーはルークに視線を移す。

「ルークはなんかねぇの?」

そういえばルークから自分はこうしたいとか、こうなりたいとか聞いたことがなかったことに気付いたルーは、疑問を投げる。
その純粋そのものの目を向けられたルークは何度か目を瞬かせる。
そして、ルークは視線をずらすなり、徐に口を開く。

「ねぇよ。俺は特にやりたいとこなんてなんもねぇ」

そうぽつりと呟いたルークは、投げやりな様子ではなくとても落ち着いていて、ルーは素直にそっかと返した。






4人は陽が落ち始めるギリギリまで楽しみ、帰路につく。
無事バンエルティア号に到着したルー達はアンジュに報告を済ませ、その場で解散となった。
各自部屋に戻る面々を見て、ルーも一旦部屋に戻ろうと歩み出す。
すると、突然腕を取られ、そちらの方を見るとそこにはルークがいた。
ルークはルーをじっと見つめたまま動かず、ルーは思わず首を傾げる。

「ルーク?どうし…」

ルーの問いかけを遮るように、突然距離が詰めたルークはルーの額に軽く触れる程度のキスをした。

「え…?」

今一体何が起こったのか分からず、ルーがポカンとしていると、ルークはすっと離れ優し気な笑みを見せた。

「じゃあな。頑張れよ」

そういうなり、ルークはすたすたと自分の部屋の方へ向かい歩き出し、ルーは呆然としたままその後姿を見ていた。

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