第24話
その後も、4人はお店を見て回った。
お店には先程のようなゲームが出来る所も多数あった。
その中でも一際人だかりができている店があり、一体何だろうと近づいてみるとその人だかりの中心にいたのは筋肉隆々でいかにも強そうな風貌の男、そして一つの台が置いてあった。
「何の店だ??」
「よお、坊主!俺と腕相撲で力勝負をしてみねぇか?坊主が勝てたらここにある景品くれてやるよ」
その男は腕っぷしに自信があるようで、豪快な笑いと共にルーに声をかけてきた。
景品?とルー達が男の指さす先を見ると、そこにはいろんな品物が置いてあった。
その中でも一際異彩を放っていたのは1m位の大きさの猫のぬいぐるみ。
ティアとか喜びそうなやつだ…、つーかでけー。
これを欲しがりそうな人は直ぐに浮かんだが、如何せんでかすぎる。
そんなことを考えていると、プレセアがすっと手を挙げた。
「やりたいです」
「!お嬢ちゃんがやるのか?」
「はい」
男にとって予想外の挙手に思わず戸惑いを見せる。
プレセアは小さいし、華奢な女の子だったから尚更だ。
一方でルー達はプレセアの実力を知っていたので特に気にならなかったが、その大きい猫のぬいぐるみに目を僅かに輝かせているその姿の方を珍しく見ていた。
ジーニアスは覚えておこうと心に刻む。
大柄の男と対峙するように座る小さな女の子。
そのなんとも異様な光景だけで、わらわらと人が集まってくる。
ルー達も最初はプレセアなら…という思いもあったが、とわいえ徐々に心配になってきた。
ジーニアスに至っては怪我をしないだろうかとハラハラした様子で忙しない。
「ぷ、プレセア、本当に大丈夫…?!」
「はい、大丈夫です」
不安げなジーニアスに、ハッキリとした口調で返答し頷く。
「ははっ随分肝の据わったお嬢ちゃんだ。けど手加減はしねぇぜ?」
「はい」
男の言葉にも全く動じないプレセア、だがその目には闘志がみなぎっているのが見えた。
二人の間に店の判定員が立ち、プレセアと男は手を握る。
ドキドキとした空気が辺りに立ち込める。
「肉球…」
ぽつりと呟いたプレセアの言葉の直後、スタートの合図が出た。
するとそれと同時にバコン!!!と大きな音が辺りに響く。
そしてその時には既に、男の腕が机を壊す勢いで沈んでいた。
「・・・・・・・・・え」
ルー達は勿論、周りの観客そして対戦相手でさえ、思わず目を見開き固まる。
一体何が起きたのか。あまりの速さに全く目が負えなかった。
けれど、どう見てもこの勝負はプレセアに軍配が上がっていて。
唖然とした空気の中、プレセアだけがスッと手を放し、判定員を見る。
「私の勝ちです。あのねこさんをいただきたいです」
「え・・・あ・・・はい」
呆然としていた判定員は、ハッとした様子でその大きな猫のぬいぐるみをプレセアに渡す。
それを軽々受け取るなり、ぬいぐるみの肉球をふにふにと嬉しそうに握るプレセアをみて、ルー達はプレセアを怒らせてはいけないと思った。
その後散策をしていく中、周囲に立ち込めるおいしそうな香りやジュージューという音に空腹が刺激される。
ルーは見たことのない食べ物に興味津々で、ユーリにどんな食べ物か教えてもらいながら、買い食いをし始めた。が。
「…ユーリ、ちょっと食い過ぎじゃね?」
「ん?そうか?」
ルーは焼きそばを片手に、隣にいるユーリを見て思わず眉を寄せる。
そのユーリの手元には綿あめ、チョコバナナ、あんず飴など見てるだけで口の中が甘くなるくらい甘いもので溢れていた。
これは流石に体に悪い、と偏食家のルーでさえ思う。
フレンから「ルーからユーリに偶にでいいから注意してほしい」と言われていたのだが、その理由が分かった気がする。
ユーリはと言えばベビーカステラを頬張りながらケロッとしたようすで。むしろいつもより甘いものが食べられて機嫌が良い様にも思える。
どうしたものかとルーが考えていると、ユーリが何かに気付いたような表情を見せる。
「?どうし…」
ルーがどうしたと言い終えるその前に、スッとユーリが動き、ルーの口端をぺろりと舐める。
あまりにも自然に、そして大胆な人目も気にしないその行動に近くにいたジーニアス、プレセアは勿論、その場にいた皆が驚いた表情を見せる。
ルーはと言えば、完全に固まっていて未だ近くにあるユーリの顔をじっと見る。
それに対してユーリは余裕のある笑みを見せる。
「ソース、ついてんぞ」
「~~~~~~~~~~~っっ!!!!?????」
いい声で言われたルーはボンッと顔を真っ赤にしながら、声にならない悲鳴を上げる。
そして否応にも集まっている周囲の視線に気づくなり、再び悲鳴を上げた。
そんなこんなで時間が過ぎていき、時間が立てば立つほど賑やかさを増していく。
その時たまたま前を歩いていた1組の若い男女のカップルが目に入る。
二人は手を繋ぎ、頬を赤らめ見つめ合っていた。
そんな幸せそうな二人を見て、ふと昨日コレットと話していたことを思い出す。
『ユーリ、いつもルーの事見てるもん。』
いつも?
ルーは自然とユーリの方に目を向けると、ユーリはルーを見ていたのか、すぐに目が合った。
それにきょとんとしていると、ユーリに微笑み返される。
その笑顔はとても優しくて、そしてその目は愛おしいものを見るように甘いもので、一体いつからとか、たまたま?とか思う余裕もなく、ルーはかあああっと顔を赤くする。
「どうしたんですか?」
「ふえ!?な、な、なんでもない!!」
いきなり顔を真っ赤にさせたルーにプレセアが気付き不思議そうに問うと、ルーはそれに思わず、びくぅ!!と体をビクつかせ思わず狼狽する。
その様子を見て、ユーリは思わず吹き出し笑いをした。
「んー、ジーニアス達どこ行ったんだろ?」
時刻も夕方から夜になり、空には星空が浮かぶ頃。
それまで4人で散策を続けていたのだが、ルーがいろんなものに目移りしている間にも徐々に人が増え、気付けばジーニアス、プレセアとはぐれてしまったのだ。
ルー達は周囲を見渡すが、沢山の人たちがいて、この中から探すのは難しそうに思えた。
「一度待ち合わせ場所に戻るか」
「うん」
こういう時のため、ここに来た時に予め何かあったら落ち合う場所を決めておいたのだ。
念のために決めておいて良かったと思いつつ、二人はそこに向かうことにした。
落ち合う場に決めていた場所は村の外れにある大きな木の下。
二人は談笑しながらその場所に到着する。
そこには人の気配はなく、まだジーニアス達はいなかった。
だが、ルーはそこで見た景色に思わず息を飲む。
「うわー…!」
そこに広がっていたのは真っ暗な夜空に輝く数多の星々。
バンエルティア号でも星空は見ることが出来るが、ここは空気が澄んでいてまた辺りの明かりも少ないからか別格とも言えるくらい輝いていた。
「すげー星いっぱいでキレイだな!」
「そうだな」
感嘆とした声を上げるルーに、ユーリも空を仰ぎながら素直に頷く。
圧巻ともいえるその風景に、二人は暫し見入る。
そして無心ともいえる境地で星々を見上げていたルーはふと思った。
空を見るのは昔からの癖で、屋敷にいたころはそのどこまでも広がる空が、自由に空を飛んでいく鳥がただただうらやましかった。
でも、実際に外の世界に出て空を眺めるようになると、親善大使としてしっかりやりきらないととか、犯してしまった大罪のこととか、自分が何のために生まれてしまったのかとか、これからやらなければならないこととか、明日自分が死ぬかもしれないとか、沢山の事が気になって、不安だけが募った。
でも今は…
ちらりと隣を見ると、ユーリの姿が目に入り、ルーは小さく笑みを浮かべた。
それに気づいたユーリは、星空からルーに視線を移す。
「ルー?」
「…なんか、嬉しくてさ。」
不思議そうにユーリが問いかけると、ルーはぽつりと呟く。
そしてユーリに向かい合うように前に立ち、その目をしっかりと見つめ、口を開く。
「こんなに綺麗な星空を、ユーリと一緒に見れてすげー嬉しい」
言葉の通り本当に嬉しそうな笑顔を見せたルー。
ユーリはつられるようにふっと優しい笑みを浮かべ、その距離を縮めた。
***
「…以上です」
バンエルティア号の一室、ジェイドは持っていた資料を読み上げ言い終えると、しんとした静けさが部屋に広がる。
そしてその場にいた者達は思い思いに何か考え更けるように視線を伏せる、が、その中ですっと立ち上がる影があった。
ジェイドはその方に視線だけを向けると、そこには眠たげな様子のルークがいた。
「話は終わったな、もう寝る」
ルークは普段と変わった様子を見せず、欠伸をしながら部屋を出る。
それを見たその場の一部からはため息が漏れた。
僅かに灯りが灯る薄暗い廊下をルークが自室へ向かい歩いていたが、途中でぴたりと足を止める。
「ガイ」
ルークはまっすぐ前だけを見て、後ろについていたガイの名を呼ぶと、ガイはそれに答えるように同じく立ち止まる。
ルークは前を向いたままガイの方を振り向かず、おもむろに口を開く。
「言うなよ」
それだけ言うなり、ルークは再び歩き出す。
特にそれに対して口を開かず、その後ろ姿を暫し見ていたガイも、その背を追う様に歩き出した。
続く。
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