第24話
「…よし、こんなもんかね~」
しいなは真剣な顔つきから満足そうに笑顔を見せる。
しいなの目線の先には、淡い黄色の浴衣を身に着けたルーがいた。
所々に大きいひまわりのような模様が描かれているが、あまり誇張するようなものでもなく、子どもっぽさはない。
が、ルーは不服そうな表情を浮かべる。
何故なら、しいなの後ろの方で楽し気にこちらを見ているユーリが落ち着いた黒に近いグレーの浴衣を着ていたからだ。
絶対あっちの方がかっこいいし大人っぽく見える。
それにジーニアスの方を見れば、あちらも落ち着いた水色の浴衣で。
そもそもなぜ浴衣をきているのかというと、あの後ジーニアスはルーを盾にプレセアを誘い向かった。
そして、がちがちに緊張しながらもなんとかOKを貰ったのだが、その時話を聞いていたしいなが折角お祭りに行くならと浴衣を着たらどうだと提案があったのだ。
しいなの故郷ではお祭りに欠かせないものだという話を聞いたルー達は、折角ならとその提案を受け入れた。
とはいえ、ルー達は浴衣を持っておらず、着方もわからないということで、しいなに準備をしてもらった上、着つけてもらった。
が、その結果がこれだ。
僅かにむーっと眉を寄せるルーに、やり遂げた感で満たされているしいなはうんうんと頷く。
「ルーは何色でも合うから悩んだけど、予想以上にいい仕上がりになったよ。」
「…そうか?」
「もちろんさ!一応男物なんだけど、なかなかこれが似合う人いないからねぇ。」
「うん、なんかルーっぽいよね」
「そうだな」
ジーニアスとユーリの素直な肯定に、ルーは何とも複雑だが、二人の反応を見てまぁいいかと受け入れることにした。
「賑わってるなー!」
ルーは目的地に到着するなり、すぐに感嘆とした声をあげる。
昨日きたのんびりとした長閑な村とは思えない程、村の至る所に出店が出ており、村人や観光客など沢山の人たちがいて、楽し気な雰囲気に溢れていた。
「お店もいっぱいあるな!」
食べ物の出店からはおいしそうな匂いがし、またリンゴ飴などルーの見たことのないものもあったりと、好奇心が刺激され今にも飛び出して行きそうな様子だ。
あ、あれはなんだろう?
ルーはいつものように気になったものに向かってバッと走り出そうとした。
その時、突然手を掴まれるとそのままぐいっと手を引かれ、ルーは反動に逆らえず後ろに倒れそうになる。
だが、その衝撃は軽く、ぽふっと音を立てて体を預けた先にはユーリがいた。
「こら。気持ちはわかるが、迷子になるぞ」
店は逃げねぇんだからと背後からルーの耳元で言うユーリにルーはポカンとしたが、手を取られユーリに後ろから抱きしめられているように密着している状況にルーは顔を一気に真っ赤にする。
思わずバッと離れようとするが、それを見越したようにユーリはガッとルーの腰に腕を回し動けないように固定する。
「ルー」
「っ!わ、わかった!!わかったからっ!!」
もう飛び出さないから!と赤面しながら必死に反省したと訴えるルーに、ユーリはそれならいいとゆっくり腕を解き解放する。
し、心臓に悪い…!
バクバクと心臓が鳴り続けるルーは、ついじとっとした目でユーリを見ると、ユーリは余裕の笑みを見せる。
そんな二人を前に、ジーニアスは真似できないとユーリに尊敬の念を送り、プレセアは仲がいいですねと微笑ましく二人を見ていた。
その後、4人は散策を開始した。
口数は少ないがどこか楽し気なプレセアとガチガチになりながらもエスコートするジーニアス。
そして先程言われたばかりなのにやはり好奇心が上回って今にも飛び出して行きそうなルーの手綱を引くユーリの姿はギルドの仲間達がみたらとても面白いものに見えるだろう。
「あ、あれなんだ?」
大きな桶の中に色とりどりのまん丸いものが沢山浮かんでいるのをルーは見つけ首を傾げる。
それに対してああとユーリが説明する。
「あれは水風船だな。あれを紙のついた針金でつるゲームで、取ったものは持って帰っていいんだ」
「へ~」
よくよく見ると、水風船を釣り上げた人達は嬉しそうにそれを手にし、持ち帰っているのが見えた。
「なんならやってみるか?」
「うん!」
「ぷ、プレセアもど、どうかな?」
「はい、やってみたいです」
微笑みながら頷くプレセアに、ジーニアスが内心ガッツポーズをする。
4人は早速お店に向かい、お金を渡すと人数分の釣り紙のついた釣り針が渡される。
ユーリに軽くレクチャーを受けたルーは、やり方を知るなり頑張るぞ!と張り切って腕まくりをし、気合を入れた。
そんな真剣な姿を見て、ユーリだけではなく店主も思わず笑顔を見せる。
ルーはいろんな水風船の中からどれにするのか悩みながらも真っ赤なものを選び、その中の一つを標的にすると教えてもらったようにゴムの輪っかに向けて針金を水の中に入れた。
水の中で針金を動かし、輪っかにひっかけようとするが、簡単そうに見えて意外と難しくなかなかうまくいかない。
暫く奮闘し、なんとか針金がゴムの輪っかに引っかかったところで、今だ!と持ち上げた。
が。
「あ!…あー、切れちゃった」
これすげー難しくねぇか?
想像以上に重い水風船とその難易度に不器用なルーはむーっと眉を寄せながら唸る。
ちらりと隣を見ると、ジーニアスがなんとか一つゲットしたようで、プレセアに渡そうと奮闘しているのが見えた。
すると、何の前触れもなくスッと横からルーが取ろうとしていた真っ赤な水風船が目の前に現れ、ルーは思わず手を出しそれを受け取る。
それに目を瞬かせその先を見るとユーリが笑みを浮かべていた。
「やるよ」
「へ?」
なんてことない様子で言われ、ルーはパチパチと瞬きをする。
そしてどうやらユーリは器用に取ることが出来たらしいことに気付く。
それ自体に驚きつつも、申し訳ない気持ちが生まれる。
「え、でも…これユーリが取ったんだろ?」
「ああ」
「流石に悪い…」
「2個取れたから気にすんな」
「え」
2個も取れたのか!!?とルーは衝撃を受ける。
確かによくよく見ればユーリの手元にもう一つ同じのがあった。
その事実に軽くショックを受けていると、ユーリから綺麗な笑みが零れる。
「ま、そういうことだからとっとけ」
そう言いながらユーリはルーの頭を優しくぽんぽんと撫でる。
それにルーは子ども扱いされたような気分になったが、同時に嬉しくもあって。
何とも複雑そうに撫でられたところを押さえながら、口をもごもごとし、小さく頷いた。