第24話
その日、ルーはある村に来ていた。
それは、ロイド、コレット、ジーニアスと共に受けた落とし物の捜索というクエストで、無事目的の物を見つけ、それをクエストの依頼主に引き渡すためだ。
それも先程渡し終え、本来ならバンエルティア号に帰るところなのだが、初めて訪れたこの村にルーが目を輝かせている様子を見て、お人好しの仲良し3人組は折角来たのだし少し見て回ろうということになった。
「ルミナシアにはたくさん街とか村があるんだな」
「そうだなー俺もギルド入るまでこんなにいろんな場所があるとかあんまり知らなかったし!」
「ロイドの場合、ちゃんと地理の勉強とかしてなかったからじゃない?」
「う…痛いところつくなぁ…」
ジーニアスの苦言にロイドがぐっと反応を見せていると、にこにこと笑みを浮かべたコレットがでもと続ける。
「こうやっていろんなところ行けて、いろんな人に会えたのはギルドのお陰だね」
「うん、確かにな!」
コレットのいうように、こうしていろんな事を知ることができたのは、ギルドのお陰だ。
ルーはそれを改めて感じ、うんうんと頷く。
そしてそのまま村を散策していると、開けた広場のような場所に出る。
そこには噴水があり、それを囲むように談笑している村の人や子供たちの姿があった。
和やかなその空気の中、少し休憩しようということになり、ロイドとジーニアスは近くのお店へ飲み物を買いに向かい、ルーとコレットは木陰に腰を下ろした。
なんだかのんびりしてていいな
ルーは背伸びをしてくつろいでいると、ふとルーの視界に入った和やかに話す一組の家族が目に留まる。
母親と思われる女性は赤ちゃんを腕にしっかりと抱きあやしていて、その様子を優しく見守る父親と思われる男性の姿。
なんとも微笑ましく暖かな光景で、ルーは思わず笑みを零した。
それを見たコレットは小首を傾げる。
「どうしたの?」
「あ、うん、あの人たち幸せそうだなって思ってさ。あの男の人…父親かな、すごい優しそうな目で二人を見てるからさ。なんかいいなって」
思ったことを素直に口にしたルーに、同調するようにコレットは笑みを浮かべる。
「本当だね」
「うん、なんか二人の事大好きなんだろうな~って思うよ」
「そうだね、ユーリもそうだもんね」
「え?」
コレットの口から突然のユーリの名前が現れ、ルーは思わず目を瞬かせる。
ユーリもそう、というのは一体どういう…?とルーが考えていると、コレットは笑顔を見せる。
「ユーリ、いつもルーの事見てるもん。ルーの事が大好きなんだね」
にこにこと笑顔のコレットの言葉を受け、ルーはきょとんとしていたが、徐々に顔が赤くなっていく。
「え!?あ、えっと、それはその…」
動揺と驚きと恥ずかしさから軽くパニックの状態のルーはしどろもどろになりながら、なんとか返答を返そうと言葉を探す。
そんなルーにコレットは頭に疑問符を飛ばしながら、ただにこにこと笑顔を浮かべていた。
その一方で、飲み物を買いに行ったジーニアスはそのお店であるチラシを見つけ、それを手に取るなりその内容に釘付けになる。
!これ!!
翌日。
「お願いルー!!!」
手をパンと音を立てながら合わせ懇願するジーニアスを前に、ルーはきょとんとする。
それまでルーは自室でユーリのお手製苺のショートケーキを頬張りながら、ユーリと一緒にのんびりとしたおやつタイムを過ごしていたのだが、突然部屋にジーニアスが飛び込んで来て、いきなり懇願されたのだ。
ケーキをつつきながら落ち着いた様子で傍観しているユーリとは対称的にルーは目をぱちくりさせる。
「え、な、何だ??」
困惑気味に問うと、それまで頭を下げていたジーニアスは顔を上げ、手に握りしめていた紙を二人に見せた。
「こ、これなんだけど…」
「ん?」
ルーとユーリはその紙をまじまじと見る。
それは昨日、ルーと一緒に行った村のお店でジーニアスが貰ったチラシだった。
チラシにはその村で出店がでるような数年に1度の大きな祭りがおこなわれるということと、そしてそれが今日おこなわれるということが書かれていた。
日頃の勉強とルークの指導の成果の甲斐あって何と書かれているかがわかったルーは読めたことにも感動しつつ、その内容に目を輝かせる。
「!面白そうだな!」
「でしょ!?で、そ、その…えっと、だから…」
「ん?」
「ぼ、僕…その、あの…ぷ、ぷ、プレ、プレセアと…」
「ん?プレセア?」
「うっ!!えっと、まだ決まったわけじゃなくてっ!あ、…だから、その…あの…」
顔を真っ赤にして口をもごもごしながらどもるジーニアスを見て、ユーリはすぐに察する。
一方でルーは全くわかっていないようで首を傾げている。
それをみたジーニアスは必死に言葉を探し、口を開くが本質的なところには触れることが出来ず、ルーも変わらずハテナを飛ばしまくっていて一向に会話が進まない。
そんな二人の様子を若干呆れながら見ていたユーリだったが、さすがにこのままではジーニアスが不憫に思え、少し助け舟をだすことにした。
「要は、プレセアとその祭りに行きたいから手伝ってくれって話だろ?」
ユーリにハッキリと言い当てられてしまったジーニアスはドキーッとしながら、目を泳がせるが、観念したのか小さくこくりと頷く。
「え?手伝うって、何するんだ?一緒に行ってくればいいんじゃないか?」
「!?い、一緒に行けたら最初っから行ってるよ!それが出来ないからお願いしてるんじゃないかーっ!」
不思議そうにさらっと言うルーに、ジーニアスは目を見開き、そして抗議する。
ぽこぽこ怒り始めたジーニアスにルーは困惑したじろぐ。
それまで静観を決め込んでいたユーリだったが、内心ため息をつく。
そもそも、ユーリ自身も大変苦労したくらい元から恋愛の類に驚くほど疎いルーだ、ジーニアスには悪いが頼む相手が悪すぎる。
とはいえ、このまま何もしないのは気が引けるのも事実で。
「…で、お前はルーに何を手伝ってもらいたいんだ?プレセアを誘うことか?」
「あ、え、えっと…その、ルーも一緒にお祭り来てくれないかなと思って…」
「へ?俺も?」
「で、できたらユーリも!」
ジーニアスの頼みごとにユーリはああなるほどと納得する。
二人きりは誘い辛いが他にもいれば誘いやすいとかそういうことだろう。
ユーリはルーを見ると、ルーは未だよく分かっていないようで、頭上に疑問符を飛ばしていたが、なにかにハッとしたような表情を浮かべ、バッとユーリの方を見る。
その目は今度はきらきらしたもので、ユーリはそれの意味をすぐに察し笑みを浮かべる。
「わかったわかった、ダブルデートがしたいってことだろ」
「「!?」」
デートという単語に即座に反応した二人は顔を真っ赤に染め、そのわかりやすい反応にユーリは思わず吹きだし笑いする。
それを見た二人は今度は馬鹿にされたと思い、憤慨してぽこぽこと怒り始めた。
とはいえ、ユーリにとっては特に怖いものでもなく、抗議を続けている二人を面白れぇと思いながら大人の貫禄で適当に宥めていた。