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第23話


「そうだなぁ…けど、俺はルー達のようにはいかないんだよ」
「え?なんで?」

思ってもみなかったガイの言葉にルーは思わず首を傾げる。
自分たちのようにはいかないとはどういうことなのか。
ガイはルークの方を見ながら口を開く。

「ルークは親友だけど、俺の主人でもあるし、俺は剣を捧げるならルークがいい、そう思ってる。…だから少し前に忠誠の儀式をしようとしんだ。」
「!」
「まぁ結果的に怒られて中止に終わったんだけどな。『俺達はこのままでいい!』ってな」

苦笑いを浮かべるガイだったが、そのやり取りを聞いたルーは目を瞠る。

それは…。

ルーが言葉をなくしていると、ガイはルーに視線を戻す。

「いつまでもそういうわけにはいかないんだが…。今くらいはルークの自由にさせてやりたいんだ。俺としてもルークの気持ちは嬉しいからな」
「…そっか…」

ルーがぽつりと呟くと、ガイは重い話になっちまったなと申し訳なさそうに謝罪し再び雑談を始めた。
話の合間合間に幼少から今にかけてのルーク自慢が始まったりして、ルーはガイは本当にルーク好きだなぁと思いながらも、何故かどことなく気恥ずかしくて、嬉しかった。

暫く二人でおしゃべりをしていると、コンコンと小さいノックの音が部屋に響く。
今日は来客が多いなと思いながらガイは扉の方へ向かう。
ルーはその間にマグカップに残っていたはちみつレモンを飲み干す。
すっかり冷めていたが、それでもとても美味しかった。
また飲みたいな~と思っていると、ガイが戻ってきた。

「ルー、お迎えが来たぞ」
「へ?」

お迎え?と首を傾げながらもガイについていくとそこにいたのはユーリだった。

「ユーリ!?」

その思いがけない登場にルーは驚きを見せるのに対してユーリは安堵した表情を浮かべる。

「ここにいたのか、探したぞ」
「あれ、でも今日…」

目をぱちくりさせているルーにユーリはああと補足する。

「クエストが予定より早めに終わったから早々に切り上げてきたんだよ。で、部屋に戻ってみればお前いないし。」
「そっか」

ユーリの説明に納得したルーは頷くと、ユーリは部屋に戻るぞと目で促す。
それに同意するようにルーは未だ寝ているミュウを抱き上げて部屋を出る。

「ガイ、ありがとうな。」
「いやこちらこそ楽しかったよ、またな」
「うん、おやすみ」
「ああ、おやすみ」

ガイは笑顔でルー達を見送ると、静かに扉を閉じる。
そして部屋の奥へ入ると、ベッドの上でもぞもぞと動く布団に笑みを浮かべる。
その雰囲気に居た堪れなくなったのか観念したようにもぞりとルークは体を起こす。
見えたルークの顔は僅かに赤みを帯びていた。

「…あんまルーに変な事いうなよ」
「変なこと言ったつもりはないんだがなぁ」

ちょっとルークの事を話しただけだというガイに、ルークは眉を寄せながらも照れたような何とも言えない表情を浮かべ、もごもごと小さく文句を言っていた。
わかりやすいルークの反応にガイは笑顔を浮かべていると、ルークは徐々に目をさ迷わせ始める。

「?どうした、ルーク」
「…ガイ…、……トイレ」

ルークは僅かに躊躇しつつも小さくぼそりと呟く。
その内容にガイは思わず笑ってしまった。
笑うな!とムスッと剥れるルークに、はいはいとガイは笑顔を返した。






ルーはユーリと一緒に部屋へ戻る途中、ぼんやりとあることを考えていた。
そんなルーの様子に気づいたユーリは首を傾げる。

「どうした?」
「あ、うん…。前にガイと賭けをしたこと思い出してたんだ」
「賭け?」
「うん。…えっと、ユーリはローレライからオールドラントのホドの事って聞いたか?」
「ああ」

全ての始まりと言っても過言ではない、ホドという場所であった悲惨な話。
細かな説明はなかったものの、そこであった理不尽な戦争が後に大きな火種となったということはローレライの説明があった。
ルーはそっかと頷くと少し遠くを見ながら話し始めた。

ガイがホドの貴族で、そこに攻め入ったのはファブレ家で、ガイの家族にとっての仇であること。
その後、ガイは素性を隠し復讐の為にファブレ家の使用人としてきたこと。
そしてファブレ家にはそのガイの父親の形見である宝剣が飾られていたこと。
ルーはそれに対して包み隠さず自分のわかる限りを話した。
ユーリはそれに静かに耳を傾けていた。

「ガイはいつもその宝剣を見て、復讐を誓ってたんだってさ。」
「…」
「でもそんなガイの気持ちなんて知らなくて、ガキの頃の俺は『昔のことばかり見ていても前に進めない』って言ったらしいんだ。最低だよな。…で、その時『剣を捧げるに値する大人になれるか』って俺と賭けをしたんだって。」

正直この賭けのこととか全然覚えてなくてガイに悪いことしたと苦笑いを浮かべるルーに、ユーリはそうかと呟く。

「で、その賭けは?」
「ガイは俺が賭けに勝ってくれたって言ってくれたよ。…でも、その後、父上とガイが話をして、ガイが俺に忠誠の儀式をしそうになったからすぐ止めた。ガイは育ての親で、親友だから、そういうのは嫌だったんだ」

だから、ガイの話を聞いたとき、オールドラントでガイと自分であったやり取りと同じことをこちらのガイとルークでもあったということに驚いたし、ルークの気持ちも凄くよくわかった。
けど、こちらのガイとルークと自分たちとでは大きく違う所があるのも感じた。

「…今思い出しても、俺は本当に無知で馬鹿で、いっぱいガイを傷つけてきたんだなって思うよ。」

ガイに沢山のことを教えてもらったし、支えてもらった。
それなのに自分はガイの優しさに甘えるだけで、ガイに対して何も返せていない、それどころかひどいことばかりして…。
ルーは僅かに俯き、顔を暗くする。

「そんなことねぇんじゃねぇか?」
「え?」

ユーリの言葉にルーは思わず顔を上げると、ユーリは真面目な表情で続ける。

「お前がガイに言った言葉、確かに復讐したい相手の息子からそんなこと言われたら腹が立つだろうし、いいもんじゃねぇだろうけど…でも、間違いじゃねぇ。そこからの一歩を踏み込むには必要な言葉だったんじゃねぇか。じゃなきゃ、お前にそんな賭けなんてしねぇだろ」

呆然とするルーにユーリは笑みを見せる。

「ガイはお前に充分助けられたんだと思うぞ。あの時俺達が見たガイはそんな感じだったじゃねぇか」

オールドラントの映像から見たガイからは、ガイにとってルーがいかに大切な存在であるかが手に取るようにわかった。それはあのルークでさえ引くほどで…。
ルーはユーリの言葉を受け、ガイの事を思い出しながら、そうだといいなと思った。
そして同時に、オールドラントのガイに会いたいとも思った。

ガイ、元気にしてるかな…?

少しばかり寂しさを感じ、ルーはしゅんと肩を落とす。
そんなルーの心情を悟ったユーリはその頭をぽんぽんとやさしく撫でた。

「…そういや、なんで坊ちゃん達の部屋にいたんだ?」
「え…?…はっ!!」

ユーリに言われ途端昼間の怪談話を思い出しルーは顔を真っ青にする。
そして反射的にユーリの腕にぴたりとしがみ付くルーに、ユーリは目を瞬かせた。







続く

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