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第23話



「暑いな~…」
「だりぃ…」

ぽつりとつぶやいたロイドとルークはぐったりと項垂れていた。

その日、雲一つない快晴で太陽がさんさんと輝いていて、普段ならいい天気だと思う所だが、今日の気温は異常に高く、風も吹いていなかった。
そんな熱中の晴天の中、いつものように剣の稽古をしていたルーク達だったが、その暑さに耐えられず日陰に隠れたのはいいが、体は完全にバテていた。
それはルーク達と一緒にいたルーも同じで、手を使いパタパタと仰ぐが全く効果はない。
怠そうにする3人を前に同じく暑さにやられていたクレスだったが、ピンと閃いた様子を見せる。

「あ、じゃあ何か寒くなる話とかしようよ!」
「オヤジギャグはいらねぇぞ…」

そういう寒さはいらねぇと項垂れながら言うルークに、クレスは自分の事だと気付かず、頭上にハテナを飛ばしていた。
それを見た3人は何か言いたげな表情を浮かべたが、今はそれに構う気力はなかった。

「でも寒くなる話って?」

気になって不思議そうにルーがそう問うと、クレスは笑顔を見せた。























固唾を飲んでじっと耳を傾けているロイドとルーク、ルーの視線の先には無表情のクレスがいた。
そしてクレスは無表情のまま重々しく話し始めた。




昔、ある旅人がいた。
旅人は一日中歩き続けていてとても疲れていた。
どこか休める場所はないだろうかと森の中を歩いていると、一軒の宿屋を見つけた。
旅人はすぐに宿屋に入るなり部屋を取ろうとしたが、あいにく部屋は満室だった。
落胆する旅人に宿屋の店主は可哀想に思い、条件付きだが一つ部屋を用意することができると提案した。
部屋にある鏡は絶対に見てはいけないと、それを守ることができるなら部屋を貸すと。
旅人はそれを承諾し、なんとか部屋にありつくことができた。
部屋に入るとそこはどこか空気がひんやりとしていた。
旅人はへとへとになった体をベッドに沈めると、ふと目に着いたのは部屋の片隅にあった大きな布で覆われている何か。
あれは一体何だろうと立ち上がり、近づく。
そしてその布を取ると、そこにあったのは大きな鏡。
その鏡に映っていたのは旅人の姿…その背後に刃物を手にし薄ら笑い浮かべた透けた女性の姿だった。



「「「~~~~!!!!!!!!」」」




「…おしまい!どうだった?」
「こ、こええ…」

話し終えるなりパッと笑顔を見せるクレスに、顔を青ざめながら本気でビビっているルーは、ルークに引っ付きながら呟く。
ルークはと言えば普段であればルーにくっつかれるだけで顔を真っ赤にさせるのだが、こちらもこちらでビビっておりそれどころではなく、冷や汗を搔きながら顔を引きつらせていた。

「こ、怖くなんかぬぇえだろ…、そんなつ、作り話!」

ルークがそう強がりをいうと、クレスは僅かに肩を落とし残念そうに呟く。

「うーん…そうか…結構怖いって言われるんだけどな」
「充分怖いよ…」
「クレス話し方上手いよな…」
「うん…」

うんうんとルーとロイドが頷いていると、クレスはそうかなと嬉しそうな笑顔を見せる。
内容はありきたりなものではあるが、何よりクレスの話し方、演出が怖さを何倍も倍増させる。
クレスの意外な一面というか特技に、3人は先程まで感じていた暑さを忘れていた。
が、その笑顔だったクレスが突如ぴたりと止まり、それに3人はびくりと反応する。
何せクレスの顔からは笑顔は消えていて、真顔でルークの方を見つめ始めたのだ。

「・・・・」
「・・・な、なんだよ・・・!?」

ルークはビビりながらもそう噛みつくように問うと、クレスはゆっくりと腕を上げ、ルークの背後を指差す。

「・・・・後ろ」
「「~~~~~~~~っ!!?」」

ルークとルーが声にならない悲鳴を上げると、それまで無表情だったクレスはパッと笑顔を見せる。

「…なんてね!ってルー大丈夫?!」

クレスとしては先程の延長でちょっと驚かせてみただけだったのだが、気付くとルーはルークにしがみ付き、目には涙を溜めてがたぶる震えていた。
ルークもよくよく見ると完全にビビっているのだが、それよりもルーの方が重症のようで、顔は真っ青だった。
クレスはおろおろとしながらも、なんとか必死にごめんね、大丈夫だよと宥めていた。
























***





「・・・・・・・眠れない・・・・・・・」

その夜、ルーは昼間クレスから聞いた怪談話が忘れられず、全く寝付けずにいた。
ルーが寝付けない時は必ずと言ってもいいほどユーリが傍にいてくれたのだが、そのユーリはといえば、今日に限って珍しい深夜の採掘クエストで不在。
結果、部屋にはルーとミュウだけがいる状態だった。
その唯一の味方であるミュウだが今はすやすやと夢の中だ。
幸せそうな顔で眠るミュウに、ルーは恨めしそうに見やるなり首をぶんぶん振る。

いやいや幽霊なんていない、いないはずだ!
そうあれは作り話であって…

がたがたっと音がし、ルーは声にならない悲鳴を上げて布団の中に潜り込む。
びくびくしながら、そっと音のする方を見ると、それは窓で強風を受けて音を立てていた。
音の犯人を認識するなり安堵し息を吐くが、心臓はバクバクと忙しなく立てていた。

「う~…」

ユーリ早く帰ってきてくれと思わず口にしそうになるが、ぐっと飲み込む。
仕事中のユーリに助けを求めようとする自分が情けない。
でもこのままでは寝ることは不可能に近い。心臓がもたない気がする。
どうしようどうしようと若干パニック状態だったが、その時ふとこういう時いつも助けてくれた人の事を思い出す。

…でもこんな時間に行ったら迷惑がかかる…。

そう考えるが、それでも天秤にかけた時に今の恐怖心をどうにかしたい気持ちのが上回ってしまった。
ルーは藁をもすがる思いでベッドを出た。


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