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第22話


砂糖粥が功を奏したのか、しっかり完食したユーリは薬を飲み、ルーに言われるがまま再び横になった。
ルーはユーリを看病する気満々で、定期的にユーリの額に乗せているタオルを変えたり、仰いだりと一生懸命だった。
その献身的な姿にユーリは笑みを浮かべながら、なんとも言えないじわじわとしたものを感じた。
柄じゃないと思いつつも、まんざらでもない気持ちだ。

が、リンゴを片手にナイフで皮を切り始めるルーを目の当たりにすると思わず凍り付く。
本当に危なっかしい手つきで、豪快に切っては指ぎりぎりに刃を立てるルーに、ユーリは反射的に直ぐにストップをかけた。

「?どうしたんだ?」
「ルー、それはいいから…心臓に悪い」

頼むからそれ以上はと食い止めるユーリに、ルーは首を傾げ僅かに戸惑いながらもわかったと手を止める。
それにユーリが思わず安堵の息をついていると、今度はタオルの水を変えてくると言い出したルーは水の入った桶を手に歩き出す。
が、部屋の扉を開けようとした時、片手で持っていた桶を誤って落としてしまい、床に水を盛大にぶちまけた。

「っ!?」
「!」

ルーは反射的に水から逃げられたものの入口一面をびしょびしょに水浸しにしてしまい、そしてそれに思わず肘を立て起き上がってしまったユーリの姿を見て、焦る。

「ご、ごめん!今拭くから…わっ!?」

急いで床を拭こうと動いたものの、今度はその床でつるりと足を滑らせ、盛大な尻餅をつく。

「!大丈夫か?」
「いたた…」

ルーはお尻をさすりながらゆっくりと体を起こす。
強くぶつけてしまった所は確かに痛いが、それ以上に自分が本当に情けない。
顔を上げれば、心配そうにしているユーリがいて、尚更凹む。

「…具合悪いのに、ごめんな…」

心配ばかりかけて、これじゃあユーリの頼りになんてなれやしない。
本当に何をやってもダメな自分にルーはしょぼんと身を縮める。
そんなルーを見て、ユーリは思う。
確かにまだ体は怠いし、熱もあるが、これはただの風邪でそこまで重症ではないことを認識しているユーリにとって、ルーを落ち込ませることを望んでなどいない。
むしろここまで心配して看病してくれていることだけで満たされているのだが、ルーは気付いていない。


ルーらしいっちゃ、らしいんだけどな。

ユーリはゆっくりと体を起こしその場に座ると、それに気づいたルーはハッとした様子を見せ、おろおろとし始めた。

「ゆ、ユーリ、寝てないと…!」
「大丈夫だよ、これはただの風邪だろ」
「で、でも…」

困惑しながらも心配してくるルーに、ユーリは微笑む。
すると、その姿を見たルーはしょぼんと肩を落とす。

「…ごめんな、俺、ユーリに何もしてあげられない…。心配させてばっかりだ…」
「そんなことないだろ」

すぐに否定したユーリにルーはぶんぶんと首を振る。

「…今日だって、ちゃんと気付けていれば…」

完全に自分に負い目を感じているのであろう、ルーの発言を受けこのまま行くと得意の卑屈モードに入ると悟ったユーリは、やれやれと思いつつ、それほどまでに自分のことを思ってくれている裏返しだということも感じていた。

「確かに体調がいつもと違う気がしてたけど、俺自身はっきりと風邪だってわかったのはお前が出かけてからだ。普段から病気とは無縁だから気付かなかったんだよ」
「そ、うなのか…?」
「ああ、だからお前がそこまで気負う必要はねぇよ」

しっかりと頷いたユーリにルーは少しだけ持ち直した。
が、人の事ばかり優先にするルーにはあともうひと押しする必要がある。

「…そうだな、じゃあ俺の頼み事聞いてくれるか?」
「!勿論だ!」

すぐにこくこくと頷くルーに、ユーリは笑みを浮かべる。

「ここに座ってくれないか?俺の方を向いた状態でな」
「!?」

ユーリは、自分の太腿を指す。ルーはそれに目を瞠り、そして戸惑いを見せる。
それは病人の上に座れと言っているのと同じだ。
ただでさえ辛そうなユーリに…、とルーがそれに躊躇していると、ユーリは笑顔で催促をする。

「頼み事、聞いてくれるんだろ?」
「う…」

そう言われてしまえばルーは頷くことしかできない。
戸惑いつつルーはベッドの上に乗りあげ、恐る恐るユーリの太腿の上に腰を下ろす。
言われた通り、ユーリの方に体を向けると跨った状態でユーリを見下ろすような態勢になる。
それに対してユーリは不敵な笑みを浮かべているが、その顔は熱からか赤く汗も掻いていて、ルーは心配そうに眉を下げる。

「や、やっぱり…」

降りた方が…と焦りながらそう言おうとしたルーだったが、それを遮るようにルーの肩に額を当てるように寄りかかってきたユーリに思わず止まる。
ルーは驚き、目を瞠ったが、ぐったりとルーに体を預けているユーリに、苦し気ではあるがこの体制がいいと言われているような気がして、その態勢のままそっとユーリの頭を抱きしめる。
そしてルーがユーリにいつもしてもらっているように、ぽんぽんと一定のリズムで撫でる。
それを感じたユーリはそっと目を閉じ、本格的に体をルーに預けた。
ルーはそれに不謹慎だと思いながらも、嬉しくて小さく笑みを浮かべる。
それは、ユーリもで。
暫く寄り添っていた二人だったが、ふとユーリが体を起こし、顔を上げると翡翠色の瞳と目が合う。
そしてその目にひかれあう様に口づけを交わした。









次の日。

「…まぁ、お約束ってやつ?」

念のためルー達の様子を見に来たゼロスが目にしたのは、すっかり体調が良くなったユーリが風邪で寝込んでしまったルーを看病する姿。

ま、この図の方がまだいいかと思いつつも、甘ったるい空気を発している今の状態を見て、やっぱりこのままでは面白くないとギルドの仲間達にルーが風邪ひいたと報告しに向かう。
結果、ルーの部屋には多数のギルドの面々が次々と押し寄せた。




続く



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