このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

第22話




正直、自分の親の記憶なんてない。
物心ついた頃にはもう既にいなかったから。
それでも腐れ縁のフレンラピード、下町の奴らがいたから寂しいとか思ったことはない。
それはどんなときでもそうだった。























「…ユーリ、なんか顔赤くないか?」

その日、ルーはクエストが入っていた為、早めに起床し身支度をしていると、先ほどまで寝ていたはずのユーリから覆いかぶさるように背後から抱きしめられた。
突然のことに驚いたルーだったが、目の前にあった鏡越しの見たユーリに思わず首を傾げる。
どことなく頬、というか全体的に顔が赤い気がする。
だがユーリはと言えば、抱きしめている状態のまま特段顔色を変えずに首を振る。

「いや?別に赤くねぇだろ。それより今日のクエスト、気をつけろよ」
「ん?ああ、でもそんなに遠くないし、難しい内容じゃなかったはずだから。それにゼロス達もいるし」
「だからそいつらに気をつけろって言ってんだよ」

昨晩ルーから聞いたクエストの内容は、確かにルーなら特に問題のないレベルのものであったが、ユーリが気にしているのはその同行メンバーだ。
何せ、ゼロスとロニとマオというなんともいえない組み合わせだったからだ。
回復魔法が使えるゼロスがいるから心配ないとルーは言うが、そいつが一番の問題なんだと思う。
ユーリの制裁を何度か受けた今は過度なスキンシップはなくなったものの、口が達者なあいつが何を吹き込むか分からない。
しかもルーはそれを疑うことなく真に受けてしまうのだから尚更だ。
そんなユーリの心配をよそに、ルーは意味がわからず首を傾げる。そしてふと時計を見やるなり、あ、と声を上げる。

「あ、俺そろそろ行かないと。」
「ああ」
「…えっと」
「ん?」
「このままだと行けないんだけど…」

ぎゅっとルーを抱きしめたままのユーリに、ルーは困惑気味に告げるとユーリは今ようやく気づいたようで、わりいと呟きつつ、名残惜しそうにゆっくりと離す。
そのいつものユーリらしくない行動にルーは目を瞬かせた。












ルーの見送りをした後、ユーリは何もする気が起きず、比較的涼しい部屋の窓辺に腰掛け、外の方を眺める。
どうにも体が思う様に動かない。同時に頭も朦朧とする。
先程の事といい、どうしたのだろうかと他人事のようにぼんやりと考えていると突然ぞくりとするものを感じた。
ああ、そういうことか…。
この感覚は、あれかとユーリは悟る。
その時ふとルーの顔が頭を過ったが、軽く首を振るなり、そのままそっと目を閉じた。












クエスト先へ向かう道中、パーティの一番後ろを歩いていたルーはぼんやりとユーリの事を考えていた。
やはりどう考えてもいつもと様子が違う気がする。
けど、それをユーリに言っても気のせいだとかいつもと変わらないとか遅刻するぞと言ってそれ以上は取り合ってくれなかった。
その時は確かにいつもと変わらない様子ではあったが、それにしたって何か引っかかるものがある。
本当に何もないのかな?それとも俺、頼りないのかな…。
僅かに顔を暗くするルーに、ルーの前方を歩いていたゼロスが気付く。

「なになに~?ハニー悩み事?お兄さんに話してみなさいよ」

いつものように軽い調子で問いかけてきたゼロスにルーはきょとりとする。
皆はゼロスの事をいろいろと言っているが、ルーにとっては頭がキレて色々と器用にこなす頼りになるお兄さんという認識だった。
それはロイドも同じような認識で、二人でこういう人の事をなんていうんだっけとうんうん悩んでいると、それを見かねたジーニアスから“能ある鷹は爪を隠す”という単語を教えてもらったのはつい最近だ。
このまま一人で悩むより頭のいい人に聞いた方がいいと思い立ったルーは口を開く。

「うん…、実はさ」

今朝の出来事とユーリがいつもとどこか違うような気がした事などをざっくりと話す。
それに対してゼロスは、僅かに驚いたような表情を浮かべたが、すぐにへ~っと笑みを浮かべる。

「ユーリにどうしたんだ?って聞いたんだけど、別になんでもないって言うし…でもなんか変な気がするんだ」
「ふーん、ユーリの野郎がねぇ。…まー意外っちゃあ意外だな」
「え、ゼロス、何か分かったのか?」

何か納得したようなゼロスにルーは首を傾げる。
それにゼロスはまぁねと呟きつつ、笑みを見せる。

「ハニー、今日は帰ってあいつの様子見てた方がいいかもよ?」
「え?」
「どうせ好きな子に変なところ見せたくねぇってことだろうけど、ハニーから引っ付いて離れないってところからモロバレだって。けど、それもわからないくらいってことでしょー?まぁまぁやばいんじゃない?」
「!や、やばいのか!?」
「俺様の経験から言って、大分やばいと思うぜ?特にああいうタイプはな。」

ゼロスの話を聞いたルーはサッと顔を青ざめさせる。
やばいとは一体何なのかわからないが、それでもゼロスがそう言うということであれば、やはりユーリに何かあるんだということに確信する。
焦り始めるルーに、ゼロスは至って落ち着いた様子で宥める。

「ハニー落ち着いて。それにやばいって言っても今からならまだ大丈夫だろうし。」
「ほ、本当か…っ!?」
「お兄さんを信じなさいって。こっちはなんとかしておくからさ」

そうウインク付で言われたルーは、焦る気持ちをぐっと飲みこみそして頷いた。

「…うん、ありがとうゼロス。あとごめんな」
「いいのいいの~、この埋め合わせはまた今度♪」
「うん!」

ルーは大きく頷くなり、すぐに来た道を駆け出して戻っていった。
その後ろ姿を見送っていたゼロスの元に前を歩いていたはずのロニとマオが来る。

「あれ?ルーは?」
「帰った」
「え、帰ったって、何かあったのか?」

マオとロニが不思議そうにしている中、ゼロスは意味深な笑みを浮かべつつまぁねと呟く。

「これであいつに一つ貸しが出来たってことで」

にんまりとそういうゼロスに、マオとロニは顔を見合わせる。

「?よくわかんないけど、それだけ聞くとゼロスって器ちっさいよね」
「だな」
「・・・・・・。」




1/3ページ
web拍手