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第20話




「朱い髪で翡翠色の目をした女の子ねぇ…見ていないなあ」
「そうですか…ありがとうございます。」

街の人からの返答を受け、エステルは浮かない表情で頭を下げた。
あの後、ユーリ達は総出でルーの行方を捜していた。
本来であればルーの私物からラピードの鼻で場所を突き止めたいところだったが、未だに降り続けている雨が邪魔をしていて匂いを辿ることが難しく、しかもあのネックレスが落ちていた場所から匂いの痕跡がなくなっているようで追うことが出来ずにいた。
街中にいる人たち片っ端から聞いても、あの誰の目にも止まるような容姿をしているのにも関わらず、誰一人ルーの姿を見ていない。
あまりにも不自然過ぎる状況に、ユーリはぎりっと奥歯を噛みしめる。
まさか乖離でも起きたのかとも考えたが、今のルーはローレライの鍵がある。
そして体調が悪そうにも見えなかった。
どう考えてもルーが自ら姿を消したとは考えられない。
一体どこに行ってしまったのか。
昼から時間も大分経ち、もうすぐ夜が来る。
糸口の見えない現実に焦りは積もるばかりだった。
そんなユーリ達の元に、別の場所で捜索していたフレンが駆けて寄ってくる。
それに気づいたユーリ達が見ると、フレンは神妙な面持ちで口を開く。

「ルーの居場所がわかったかもしれない」
「!どこにいんだ!?」
「ユーリ、落ち着いて」

食い気味に詰め寄るユーリにフレンは咎めるように制止する。
それに対してユーリは拳を握り、苛立ちを露わにする。

「っあのルーが俺達に何も言わずにいなくなるはずがねぇだろうが!!時間も経ってる、悠長なこと言ってる場合じゃねぇだろ!」
「…気持ちはわかる。けど、とにかく落ち着くんだ。感情的に動くのは危険だ」

冷静に告げるフレンに、ユーリはぐっと堪える。

「…さっき休暇中だった僕直属の騎士から聞いた話なんだけど、今日の昼頃ローブを来た3人の騎士達の姿を見たらしい。そして、そのうち1人は何かを布に包まれた大きなものを運んでいたと。」
「布に包まれた大きなもの…です?」
「はい。そのとき布の僅かな隙間から朱いようなものが見えたらしいんです。」
「!」
「その騎士達はフレンちゃんの所の騎士じゃないのね」
「ええ、その騎士達はここに別荘を構えているアルンプルトという貴族に仕えている者達。…ユーリ、この前下町であったあの方だよ」

それを聞いたユーリは目を見開く。
下町であった貴族。
テッドを護るために身を盾にし、抗議したルーに剣を向けた男だ。
それを認識したユーリは、すっと目を鋭くし、剣吞な空気を纏う。

「…その別荘はどこにあんだ」

今にも飛び出して行きそうなユーリに、フレンは首を振る。

「まだそうと決まったわけじゃない。それに行くとしても正面から向かうのは得策じゃない。いくら別荘とはいえ、多数の騎士たちが警備している。」
「もしルーちゃんがそこにいるなら、確かに相手方をあまり刺激しない方が良いかもね。」
「ええ、隙をついて乗り込むしかないわ」

レイブンとジュディスの言葉を受けたユーリは拳を強く握りしめ小さく頷いた。















アルンプルトの別荘は街の中心から少しばかり離れたところにあった。
その別荘は街にある建物とは異なり豪華で、大きな壁が建物を囲う様に四方にあり、辺りは何人かの騎士達が警備をしていた。
観光地のようなこの街に似つかわしくないという印象を受けざる負えないほどの重々しい雰囲気だ。
そのなんとも物々しい別荘の少し離れた所にユーリ達はいた。

「正面は僕が行く。僕が騎士達と話をしている間にユーリ達は裏手へ回ってくれ。」

フレンの案に皆一様に頷く。

「ユーリ、わかっていると思うけど冷静に」
「…ああ」

僅かに頷いたユーリだったが、別荘を見る目はここにいる誰よりも鋭い眼光を宿していて、纏う空気は息が詰まるようなピリピリとしたものだった。
いつものユーリとは全く違うその雰囲気に、カロルは心配そうに別荘の方を見る。

あのとき僕が一緒にいれば…。

ぎゅっと手を握りしめ悔やんでいると、そのカロルの頭をポンとレイブンが軽く叩く。

「少年のせいじゃないし、きっと大丈夫。それに…今は落ち込んでる暇はないんじゃないの?」
「…うん」

カロルはふるふると頭を振るい、自分の両頬をパンと叩き、気合を入れた。











フレンが目で合図をし、別荘の正面へと向かう。
すると、突然現れたフレンの存在に僅かに動揺をみせる騎士達。
そしてあちこち警備にあたっていた騎士達はフレンの方に意識が向く。
その隙を狙ってユーリ達はなるべく物音を立てないようにさっと裏口の方へまわった。

裏口には扉の近くに騎士が一人いたが、その騎士はこっくりこっくりと居眠りをしていたため、意外と呆気なくユーリ達は中に入ることができた。

「…ここの騎士って馬鹿なの?」
「雇い主に似るんじゃないかしら」

思わず呆れたように呟いたリタに、ジュディスがそう答えていると、突然ピクリと何かに反応したラピードがダッと走り出す。
それにいち早く気づいたユーリは、すぐさまラピードの後を追いかける。

「!ユーリ、ラピード!?」

突然駆け出したユーリとラピードに思わず、カロルが大声を上げるとそれを聞きつけた騎士達が現れる。

「!?何者だ!!」
「うわっ!?」
「も~っ!何やってんのよガキんちょ!!!」
「ご、ごめん!!」
「まぁ遅かれ早かれこうなってただろうし、丁度良かったんじゃない?ビンゴだったようだし」
「そうね、なるべくこちらに気をひき付けましょ」

エステルは心配そうにユーリ達の向かった方を見ていたが、ぐっと気合を入れて戦闘態勢に入った。

「はい!」

ルー、無事でいてください…!





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