第20話
バンエルティア号の一角。
そこにはルーク、ロイド、クレスがいた。
つい先ほどまで3人で剣の稽古をしていたのだが、突然降ってきた雨に強制的に中断となってしまったのだ。
仕方ないので屋根のある場所に避難するなり腰を下ろし、降り続ける雨をぼんやり眺めていると、そういえばとロイドが口を開く。
「ルー達今頃何してるんだろうな~」
「きっと楽しんでるんじゃないかな。今度僕たちもルーとどこか遊びに行こうよ」
「それいいな!」
ロイドとクレスがにこやかに話している中、ルークはぼんやりと空を眺めていた。
それに気づいたクレスは首を傾げる。
「ルーク?どうしたの?」
「んー…別になんでもねぇよ」
気だるそうに答えつつ、ルークは自分の中で広がる妙な胸騒ぎを感じていた。
なんなんだ…?
何とも言えないモヤモヤとしたものにルークは眉を寄せると、背後の方からかつりと足音が聞こえる。
「ルーク」
「!」
ルーク達がバッと振り向くとそこにいたのはヴァン。
ルークはその姿を見るなり反射的に立ち上がり、ヴァンの方に体を向ける。
「ヴァン師匠、えっと、なんですか?」
わざわざこんなところに来るとは、何かあったのだろうか。
恐る恐るそう問うとヴァンは小さく頷き口を開く。
「少し話がある。後で私の部屋に来なさい。」
「わ、わかりました…」
ルークが頷き承諾すると、ヴァンはそれ以上何も言わず、来た道を戻っていった。
そんな二人を見ていたロイドとクレスはお互いの顔を見合わせる。
少しばかり険しい表情をしていたヴァンに、ルークは首を傾げつつ妙な不安を感じる。
そしてその時脳裏にちらついたのルーの笑顔。
「…ルー…?」
「…?」
ユーリはカウンター越しに店内を見渡す。
賑やかな店内だが、先ほどまで目に入っていた鮮やかな朱が見当たらない。
それに眉を寄せていると、料理を取りにきたフレンが気付く。
「ユーリ?」
「…ルーの姿が見えねぇんだが」
「ルーならさっきカロルと一緒に裏口で休憩してたはずなんだけど…」
店内を再び見渡すとカロルは既に接客に戻っているのが見えたが、やはりいない。
人の事を優先にし過ぎる所があるルーだ。
戻ってきていないことに違和感を感じる。
「…」
嫌な予感がする。
直感的にそう感じたユーリはすぐさま手にしていたボールを置き、足早に歩き出す。
「おっさん、ここ頼むわ」
ユーリは口早に言い捨てると厨房から駆け出す。
そしてすぐにルーが休んでいるという裏口へと向かうと真っ先に目に入ったのは本降りの雨。
「いねぇ…」
いるはずのルーの姿はない。それどこか人の気配さえそこにはなく、聞こえてくるのは雨音だけで。
なんともいえない焦燥感に駆られるユーリは辺りを見渡す。
すると少し離れた道端の方で僅かにキラリと光る物が目に入った。
反射的にそれに目を向けたユーリだったが、それを見た瞬間、目を見開き雨も気にせず駆け寄る。
そこにあったのはルーに昨夜渡したはずの翡翠色を宿す石のネックレス。
昨日、そして今日もルーは嬉しそうに大切そうに身に着けていたものがここにある。
その事実にどくりと脈を打った。
雨で視界が悪い中、街外れのある場所に3人の人影があった。
一列に連なり足早に歩くその者達はローブのような物を被っていたが、その内の一番後ろにいた男は自分たちが歩いてきた背後に目をやる。
「なんとかうまくいったな。なかなか隙が無くて焦ったが…これで咎められることはない」
安堵したようにいう男に、その真ん中にいた男は笑みを浮かべて頷く。
「ああ。…だが、朱い髪に翡翠の色の目…どこかで聞いたことがあるような気がするんだが…。」
その男はなんとなく腑に落ちないと首を傾げていると、それに対して先頭を歩いていた男はくるりと振り向く。
「珍しい色をしているからだろう。…まぁそれにしても」
その男はにやりと笑みを浮かべ、その真ん中の男の腕の中にいるものに手を伸ばす。
そこにはあったのは全身を布を巻かれた状態で気を失っているルー。
男は雨でしっとりと濡れている綺麗な朱髪に指を通す。
「かなりの上玉だな。」
ルーは真っ黒な世界にいた。
その視線の先にはユーリの後ろ姿。
ルーはユーリへと手を伸ばそうとした。
だが、その手はピクリと反応し、すぐに引っ込める。
真っ直ぐ、芯のぶれないユーリ。
その姿を見ているだけで、輝いて見えて。
一緒にればいるほど、傍にいたいと思う。
けど…
ルーは自分の手に視線を落とし、悲しげな表情を浮かべる。
その手をぎゅっと握りしめ、顔を上げるとその後ろ姿をただ焦がれるようを見つめていた。