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第19話




ランチタイムのピークも落ち着きが見え始めた頃、それまで忙しなく動いていたルー達は短時間だが順番に少し休憩をとることにした。
先に行ってきていいというフレンやエステルの言葉に甘えて、カロルとルーは店の裏口にあったベンチに腰掛ける。

「は~、結構重労働だったね」
「だなー」

ルーははぁっと息をつきながら店主に貰った冷たい飲み物を飲む。
喉も乾いていたこともあり、とてもありがたい。
こくこくと飲んでいると、隣に座っていたカロルがそういえばと口を開く。

「ルー達がいるアドリビトムって、エステル達から聞いたんだけど、すごい大きい船が拠点なんだってね。」
「うん!俺初めて見たときスゲー驚いたよ。」
「…そっかぁ」

少しばかり声のトーンが落ちたカロルに、ルーは首を傾げる。

「?どうしたんだ?」
「あ、うん…。ほら、僕のいるギルドはそんな凄い船なんて持ってないから。」

カロルはおずおずと言いづらそうに話すと、ルーはきょとんとした表情を浮かべる。

「拠点って大きくないとダメなのか?」
「そういうわけじゃないけど…。…ユーリ達は僕の事首領って言ってくれてるけど、僕自身特にそれらしいことしてるわけじゃないから。なんかちょっと焦っちゃうんだよね…。ユーリ達の方がしっかりしてるし、僕なんかが首領ってことでいいのかな~て。」

あ、でもさっきのユーリは大人げないというか…いやでも、なんかちょっと違う…?

自分の中にあった何とも言えないもやもや感を口に出してみたカロルだったが、上手く考えがまとまらず、うーと小さく唸る。
そんなカロルを見ていたルーは、ふと視線を落とす。

「…人から信頼されるって、とても大変で、とても難しいんだ。」

ぽつりと呟くように零れたルーの言葉。
カロルはハタと思考を止め、ルーの方を見る。
その視線に気づいたルーは、笑みを向ける。

「俺なんかが言ったところで全然説得力なんてないんだろうけど…、きっとユーリ達はカロルを信頼してる、自分たちのリーダーだって。だから皆カロルの事を首領って言うんだ。ユーリ達はそういうの茶化したりするような人達じゃない。だからカロルは皆の首領なんだって胸を張って、自信持っていいんだ」

そう言い切ったルーは優しい微笑みを浮かべた。
そしてその目はとても真っ直ぐで、本心からそう思っているのが伝わってくる。
すとんと何か枷が外れたような感覚とじわじわと自分の中で広がる何かを感じる。
同時になんでユーリがルーの事が好きになったのか、なんとなくわかった気がした。

「…うん、ルー、ありがとう!僕頑張る!頑張って、世界一のギルドにするんだ!」

すくっと立ち上がったカロルは吹っ切れたような顔をして気合を入れて宣言する。

「世界一のギルドか、なんか凄いな。」
「そう!それが僕の夢なんだ!」
「そっか!」
「ルーは何か夢とかないの?」
「夢?」
「うん!将来の夢!」

ルーは目を瞬かせ、夢…とぽつり呟く。
オールドラントの屋敷にいた頃は、早くここから出て自由になりたいと。
旅に出て自分がレプリカだと知ってからは、なんで生まれたのか、何のために存在しているのか。
乖離が起こってからは、いつまで生きることができるのか。明日を向かえることが出来るのか。
そんなことばかり考えていた。
“過去”の自分の過ちや“今”が精一杯で、これからの未来なんて考えたことがなかった。

「…夢なんて考えたことなかったな。それに…俺が夢なんて持っていいものじゃ…。」
「そんなことないよ!」

俯きがちに呟いたルーにカロルは即座に否定する。
ルーはそろそろと顔を上げ、カロルを見る。

「夢持っちゃいけない人なんていないよ!それに今なくたって、これから作ればいいんだよ。もしルーの夢が出来たら、僕すっごい応援するから!ルーは僕の友達だからね!」

きっぱりと言い切ったカロルにルーは目を瞬かせる。

「友達…?」
「そうだよ!」

問いかけに笑顔で力強く肯定したカロルを見て、ルーはポカンとした表情を見せたが、じわじわと頬に熱が集まってくる。

「…そっか、うん、へへ、ありがとうな!」
「お互い頑張ろうね!」
「うん!」

二人は笑顔で顔を見合わせるなり、ハイタッチを交わした。

「あ、いたいた、少年ちょっといい?」
「あ、うん!」

厨房にいたレイブンから声が掛かったカロルはパタパタと向かう。
その後ろ姿を見送ったルーは、軽く背伸びをする。
少しの休憩時間ではあったが、先程よりも大分体が軽くなった気がした。

そろそろ戻ろう。

ルーは椅子から腰を上げ、店内に戻ろうとした。
すると。

「ん?…雨?」

何か冷たいものが頬に当たり空を見上げると、鼠色の雲が広がっていて、ぽつりぽつりと雨粒が降り始めたかと思えば、あっという間に本降り状態になった。
朝はあんなに良い天気だったのに。
ルーは残念だと小さくため息をつきながら空を眺める。

その時だった。

「っ!?」

突然背後から何者かに鼻と口元に布を押し付けられる。
その布からは薬品の匂いがしていて、ルーは必死にジタバタと抵抗する。
だが、その音は雨音にかき消され、薬の効果から視界が歪み、力が抜けていく。

そしてそのまま意識を手放した。











続く
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