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第19話




その後、ほどなくして街の入り口が見えてくる。
近くで見れば見るほど大きな木の存在感に惹かれるようにルー達はそのまま足を進めていった。

するとその途中、街の入り口付近でうろうろとしている一人の男性が目に入る。
その男性は何度もため息をついていて、ちらちらと街の外に視線を送っていた。
ルーはその様子を見るなり男性の元へと駆け寄る。

「困ったな…」
「どうしたんだ?」
「え?」

突然声をかけられた男性は驚いた様子を見せる。

「何かあったのか?」

ルーはお構いなしに首を傾げながら問いかける。
そのとても真剣で真っ直ぐな目を向けられた男性は初めこそポカンとしていたが、徐に実はと話し始めた。

「僕はこの街でレストランを営んでいるんだけど、首都で買い出ししているコックと接客係の到着が遅れていてね。もう開店時間なのに人手が足りないんだ。一部の料理は仕込みも終わっているんだけど…。…はぁ…。」

男性こと店主は大きなため息をつき、心底困ったっ様子を見せる。
ルーはその姿をじっと見るなり、僅かに俯くと何かを考えはじめた。
そんなルーを見たユーリ達は、ああこれはもしかしなくてもとこの後の流れを悟る。
人が困っている状態をルーが放っておくわけがない。それはどんな人でもタイミングでも変わらない。
ユーリはエステル達に目配せをすると皆一様に笑みを浮かべて頷いた。
そんな中ルーは何か決めたようにすっと顔を上げると、今度はそわそわしながらちらりとユーリ達を見る。

「…あの、ユーリ、俺…」
「手伝いたいんだろ?」

ずばりとルーの心を言い当てたユーリに、ルーは目を大きく見開く。
その顔にはなんでわかったんだと書いてあるが、ユーリ達からしたら至極わかりやすい。

「手伝うのは構わねぇが、少しだけだからな」
「え、い、いいのか?」
「お前、一度決めたら頑固だからな。」

もしここで手伝わないという選択肢を選んだとしたら、きっとルーはそれをずっと引きずり続け、折角の休暇が台無しになってしまうのは明白だ。
ユーリは店主の方を見る。

「これだけいりゃあなんとかなるだろ」
「え!お兄さんたち手伝ってくれるのかい!?」
「ああ、1日中はいられねぇが」
「勿論だ!ありがとう、助かるよ!」

先程まで曇っていた店主の顔に明るさが戻り、準備をしなくちゃとすぐ近くにあった店の中へと消えていった。
その中、ルーはキョトンとした様子でユーリ達を見る。

「ユーリ達も手伝ってくれるのか?」
「お前一人に押し付けるわけないだろ。」
「そうだよ!それにこういうのは皆でやった方が効率的だし!」
「一緒に頑張りましょう!」

見れば、フレン達も異論はないと笑顔を浮かべていた。
その様子にルーは嬉しそうに頷いた。







***


「ルー…!とっても可愛いです!」
「そうね、似合っているわ」

目をキラキラとさせ興奮状態のエステルとどこか楽しそうなジュディスのその視線の先には、ゴシック系のメイド服のようなウエイトレスの服を身にまとったルーがいた。

「・・・嬉しくねぇ・・・」

何が楽しくてこんな格好をしているのだろうか。
確かに手伝いたいと言い出したのは自分だけど…とルーは顔を引きつらせる。
店主の言うように接客担当と調理担当ともに人手がないため、ユーリ達は二手に分かれることになり、接客担当は、ルー、エステル、ジュディス、リタ、フレン、カロルに。
そして調理担当は、ユーリ、レイブンに振り分けられ、各々の制服が用意されたのだ。
エステル達女子もルーを同様の服を着用しており、フレンとカロルは同じくクラシカルな執事服を模したウェイターの服を身に着けいていた。

「いいなぁ…フレンとカロル…、俺もあっちがよかった…」
「あきらめなさい」

ぴしゃりと言い切るリタの言葉にルーはがっくりと項垂れる。

「似合ってんだからいいじゃねぇか」
「だから嬉しくないっつーの!」

背後から投げられた言葉に即座に反応したルーはキッと眉を上げ振り向くと、そこにはにやにやと笑みを浮かべたユーリがいた。

ユーリは白いシェフコートを身にまとい、髪はポニーテールのように1つに束ねている。
動きやすいようになのか袖を肘の辺りまで捲りあげており、その状態で腕を組んでいるそれはどこからみても様になっていた。
その姿を見たルーは思わずぽかんと口を半開きにした状態で見入ってしまう。

「ルー?」

突然固まってしまったルーにユーリは不思議そうに問いかけると、ルーはハッとした様子で背筋を伸ばす。

「な、なんでもない!!」

明らか声が裏返っているルーに、どこがだよとユーリがツッコミを入れようとしたが、その絶妙なタイミングで店の奥から店主が現れた。

「もうすぐ開店時間だ、よろしく頼むよ」

店主の言葉にハッとしたルーは頷くなり、頑張らなくちゃ!と気合を入れる。
そんなルーをユーリは笑みを浮かべながら見ていた。













今回手伝うことになったのはランチタイムのみ。
だが、この辺りに食事がとれる店は少なく、お腹を空かせた人たちが押し寄せてきた。
結果ランチタイム=戦場のような忙しさだ。
ルー達接客担当は、席に案内したりオーダーを取ったり食事を運んだりと忙しなく動きまわる。
最初は慣れない接客に緊張気味だったルーも少しずつだが慣れ始めると、ふと気づいたことがあった。
広々としている店内は満席に近い程お客がいたが、その中には若い女子たちが多数いて、その人たちの視線の先には接客を担当しているフレンがいた。
女子たちはフレンを見るなり頬を赤らめてきゃっきゃと黄色い声を上げている。

フレンてやっぱり人気あるんだな。

以前アドリビトムの女子達から「フレンは王子様系」と言われていたのを聞いたことがあっただけに、ルーはこの状況に納得する。
ふと視線をずらすと、その状況ををどことなく機嫌悪そうに見ているエステルが目に入る。なんでだろう?

徐々に忙しさが加速していく中、厨房で腕を振るうユーリは時折できた料理をカウンターに出し、フレンはそれを流れるように手際よく持っていく。
その連携は流石幼馴染というべきか、阿吽の呼吸とも呼べるほど無駄がない。
ルーはそんな二人を見て、俺も頑張らないと改めて気合を入れていると、どこからともなくきゃっきゃとした声が聞こえる。
ちらりとそちらの方を見ると、先ほどまでフレンを見ていた女子達の姿があり、その視線の先にはユーリがいた。
厨房にいるユーリは食事を出す時しか姿を見せず、それに気づいた女子達はイケメン2人の存在にテンションが上がっているようだった。

ユーリも人気だよな…。

しゅん…と俯きがちに凹んでいるルーに、食べ終わった食器を片付けていたカロルが気付き、不思議そうに首を傾げる。

「あれ、ルーどうしたの?」
「あ、うん…ユーリモテるよなって思って…」

それを聞いたカロルは、ルーがユーリの恋人だという話を思い出し、あー、と思いつつ店内を軽く見渡す。


…ルーも大概だと思うけど…。


ルーは気付いていないようだが、この店内にいる男性の多くから視線を集めていた。
それはどうみても好意的なものだ。
はっきりとは言い難いが、エステルやジュディス、リタに対してよりも多い気がする。
恐らくそう思っているのはカロルだけではない。
それを証拠に時折顔を出しフロアを見る時のユーリの視線は鋭く、正直怖い。

ユーリがここまで嫉妬深いと思わなかったよ。
いや、今までそういう人がいなかったからその反動とか…?

そんなことを考えているカロルとは対照的にルーは不安そうに女の子達を見ていた。
別に女になりたいわけではないのだが、おしゃれをして、可愛らしい女の子たちと自分を比較してしまうと明らかに劣ってしまう。

…やっぱり俺なんかより女の子との方がお似合いだよな…。

しょぼんと落ち込むルーに、ジュディスは小さく笑みを浮かべる。

「ルー、その心配をする必要はないわ」
「え?」
「ユーリはあなたしか見ていないし、見ることはないから。」

笑顔できっぱりと言い切ったジュディスに、ルーは目を瞬かせる。
そう、かな…
ユーリやジュディスの言葉を疑っているわけではないのだが、元々卑屈気味のルーにとってはどうしてもネガティブな思考に向かう所があり、抜け出すことができない。
そんな自分も嫌で、どんどん沈んでいく。

「ルー!こっち手伝って!」
「あ、うん!」

リタに大声で呼ばれ、ハッと我に返ったルーは首をふるふると振る。
そうだ、今は仕事中だ!引き受けたんだからしっかりやらないと!
そう気合を入れ直したルーは急いでリタの元へと向かう。
その後姿を見ながらジュディスはふふっと笑う。

「ルーはああ言っていたけれど、私は別の事の方が心配ね」
「別の事?」
「ええ。見ていればわかるわ」

ジュディスの話に首を傾げつつカロルは改めてルーの方を見る。
ルーはリタに頼まれたのか、席に着いたばかりの男性グループの方へ向かっていた。
その手にはオーダー用の紙とペンがあり、笑顔で接客している。
すると、オーダーを取り終えたはずのその男性グループの一人がルーに何やら話しかけている。
男性のデレデレとした様子から見て、遠目から見てもナンパしているようにしか見えない。
それに対してルーはといえば、相手が可哀想に思えるほどそれに気づいておらず、ごく自然に受け答えていた。

まぁルーは元々男だっていうし、気付かなくても仕方ないよね…

そんなことをカロルが考えていると、突如不穏な空気を感じとり、ビクッと体が震える。
これはなんだとカロルが戸惑っている中、男性グループの内一人がルーの背後へと手を伸ばす。
そしてそのままルーに触れようとした。
その時だった。
ルーとその手の間をシュッ!と空気を切るような風と音、そしてほぼ同時になにやらドスッと鈍い音が聞こえる。
それに気づいたルーはなんだろうとその音がした方を見るとその手を伸ばしていた男性とルーの間の床にフォークがぐっさりと深く突き刺さっていた。

「「!?」」

それにぎょっとした男性とルーはバッとそのフォークが飛んできたであろう先を目で追っていくと、そこは厨房だった。

び、びっくりした、なんかの拍子で間違ってこっちに飛んできたのか…?

ルーは目を瞬かせ驚く。
その角度からはそれ以上は見えなかった…が、男性のいる角度からは厨房の中から鋭い視線を向けるユーリの姿が見える。
その極寒の目は「そいつに触んじゃねぇ」といっており、男性達は思わず悲鳴を上げた。

その一部始終を遠目から見ていたカロルは汗をだらだらと掻き、ジュディスはいつもと変わらない笑みを浮かべていた。

「私はこれ以上エスカレートしないかの方が心配ね」
「…ユーリ、いつもあんな感じなの…?」
「そうね、大体あんな感じかしら。ルーは気付いてないみたいだけど」

それ凄くない?ルーはなんで気付かないんだ。普通にフォーク拾ってる場合じゃないよ。
ユーリもその手元にある数本のフォークとナイフを置いて料理に戻って。
ていうかジュディスも止めようよ。なんでそんなに楽しそうなの。
いろいろと思うことがあるカロルではあったが、敢えてそれを口に出すことはしなかった。



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