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第19話






「良い天気だなー!」

翌朝、ガルバンゾは雲一つない晴天が広がっていた。
絶好の行楽日和だ。
ルーは窓からの差し込んだ朝日で目を覚ますなり、窓から見えた空を見て元気いっぱいの様子でベッドから飛び降り起床した。
昨夜、ルーは自分のベッドで寝ようとしたのだが、また夢を見る前にと突然添い寝をすると言い出したユーリのベッドの中に引きずり込まれたのだ。
ルーは最初こそは遠慮気味だったが、ユーリに軽く 言いくるめられてその腕に抱きしめられた状態で就寝した。
そのかいもあってか、ぐっすりと眠ることができたルーは、活力に満ち溢れているようだ。

「今日も楽しみだな!」
「そうだな」

元気なルーの姿に笑顔を浮かべながらベッドに寝ころんでいるユーリは至極落ち着いた様子を見せているが、実は若干睡眠不足気味だった。

好きな奴と一緒のベッドにいて手を出さなかった自分を褒めてやりたい。

そうつくづく思いつつ、欠伸を嚙み殺しつつユーリもベッドから出る。








二人は軽く身支度を済ませ、ラピードと共に集合場所である宿屋の受付へと向かうと既にエステル達がその場に集まっていた。

「おはよう!」
「おはようございます!」
「おはよう…あら?ルー、そのネックレスどうしたの?」

ルーの胸元にちらりと見えたと僅かに光るそれを目ざとく見つけたジュディスが問うと、皆もその問いに反応し、ルーの胸元に目を向ける。

「へへ、ユーリから貰ったんだ!」

綺麗だろ?と嬉しそうな笑顔を浮かべるルー。
だが、その答えを聞いたユーリを除くメンバーは驚きの表情を見せる。

「!ゆ、ユーリがプレゼントを…」

今日は槍でも降ってくるんじゃないかとカロルは本気で心配していて、レイブンたちに至っては驚きの表情から、なんとも微笑ましい光景だと生暖かい目でユーリを見ていた。
その反応を受けてユーリはなんとも言い難い顔を浮かべる。
俺をなんだと思ってんだこいつら。

その後、軽く朝食をとっている中、エステルが思い出したようにルーに話しかける。

「ルー、今日なんですけど、サクラを見に行きませんか?」
「サクラ??」
「はい、サクラはサクラの木に咲く淡いピンク色をした花の事で、ここの隣町にとても大きなサクラの木があるんです。」
「へ~!」
「でも一年中咲いてる訳じゃないんだ。ある期間だけしか咲いてないんだけど、丁度今見頃になってるんだって。すっごい綺麗だし、あんまり他では見れないから折角来たなら見てった方がいいんじゃないかと思って!」

エステルとカロルの提案にルーは目を輝かせ頷く。

「いいな!見てみたい!」
「決まりだね!」
「はい、では早速行きましょう!」

楽しそうにしている3人に、ユーリ達は笑みを浮かべる。
そして食事を済ませるなり早速隣町に向かって出発した。


















隣町といってもすぐそこにあるわけではなく、一度フィールドに出なければならない。
フィールドに出れば当然の如く登場する魔物達。
この地域の魔物はさほど強くもないが、今のルーは戦闘力も防御力も以前よりも大分落ちていて、今装備している護身用の剣では太刀打ちできず、その結果、ユーリ達が戦っている姿を離れたところから見ていることしかできなかった。
元々前衛で特攻隊長だったルーはその現実にかなりショックを受けていて、がっくりと項垂れる。

「そこまで落ち込む必要ないと思うけど。」

その様子を見かねたリタがそう声を掛けると、ルーはだってと口を開く。

「これじゃ俺完全にお荷物じゃんか…」
「そんなことないでしょ。あいつがあんな飛ばしてるの初めて見るわ」

リタの視線の先にはユーリがいて、いつもよりかなりのハイペースで魔物をなぎ倒していた。
元々戦闘狂と言われたこともあるユーリだが、ここまで飛ばしているのは見たことがない。これは恐らくルーがいるからだ。
お陰でルーには内緒でひっそりとルーの護衛を引き受けたリタとレイブンの元には魔物1匹近寄ってこない。
また、そんなユーリの絶好調と言わんばかりの動きに、周りも感化されてか、皆動きが良い。

「士気が上がるってこういうことを言うのね。」
「?よくわかんねぇんだけど…」

ぼそりと呟かれたリタの言葉に、ルーは訳が分からず首を傾げる。

「だから、ルーの存在があってこその動きって話よ。」
「俺?」
「そ。あいつにとってルーがここにいるってことが重要なの。」

…どういうことだろう…?

ますますよくわからないとルーは頭上でハテナを飛ばしていると、リタは呆れたような表情を浮かべる。

「あいつも不憫ね」
「まぁ青年もわかっててやってるからいいんでない?」
「…それもそうね」
「?」

二人の会話の意味が分からず、不思議そうに首を傾げるルーはユーリの方を見る。
ユーリの動きは軽やかで、綺麗だ。そしてその剣筋は真っ直ぐぶれる様子はない。
それはまるでユーリ自身を表しているようで、思わず見入ってしまう。
アドリビトムではいくつものチームに編成して多数のクエストを受けているため、力に偏りが出ないようにユーリとルーは一緒のクエストに行く機会がほとんどなく、こうしてユーリの姿を見るのはルーにとって貴重だった。
ルーはぎゅっと手を握りしめ、ただその姿を見ていた。












「見えてきたよ!」

カロルが指をさす先に見えたのは小さな街。
だが、それよりもまず目に入ってくるのはその街を覆わんばかりの想像以上に大きな木とその木に咲くピンク色。
ルーは驚き、そして同時に目に輝きが宿る。

「すげーでかいな!」
「でしょ!?…あれ、でも満開になってないみたい」

カロルが言う通り、遠目から見てもわかるくらいのまだ五分咲きの状態だった。
いつもなら満開の時期のはずだが、今年は遅咲きなのだろうか。
折角なら満開のサクラをルーに見せたかったカロルとエステルは僅かに肩を落とす。

「満開って、もしかしてもっと咲くのか?」
「はい、街全体がピンク色に染まるくらいの花が咲くんです。」
「へ~!」
「ここからだとわからないけれど、もしかしたらもっと咲いているかもしれないよ」
「そうね。とりあえず行ってみましょ」
「うん!」

フレンとジュディスの言葉を受け、ルーは笑顔を浮かべ頷いた。

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