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第18話






「すげー!店も人もいっぱいだな!」

ルーが感嘆とした声を上げ、輝かせた視線の先にあるのは、この街で一番大きい市場だ。
建物に構えている常設店は勿論のこと、広場や道には露天商たちが店を出していて、人と活気に溢れていた。

「この街じゃここが一番物が集まるからな。」
「へ~そうなんだ!…あれ?エステル達は…あ、いた」

お店の中には多数女性たちが喜ぶような洋服の店や雑貨のお店も沢山あって、エステル達女性陣は早速近くのお店で服を物色していた。

「やっぱりエステル達も服とか好きなんだな」
「女性はおしゃれと買い物が好きだからねぇ」
「ルー、お前逃げた方がいいんじゃないか?あいつらに着せ替え人形にされるぞ」

ユーリの言葉にピシリと固まるルー。
そして先日着せ替え人形にされたことを思い出す。

「う…それ嫌だ…」
「ルーちゃんこの間も大変そうだったもんね~写真とか」
「…写真?」
「そういえばあの時ユーリ買い出し行っていたから、知らないんじゃないかな」
「…あ。」

まずい。
青年からの視線が痛い。何があったんだと言ってる目がとても怖い。
実はルーちゃんが女の子になったあの日にいろんな女装をさせられてて、写真まで撮られてるなんて言えない。
冷汗をだらだら流しながらどうこの場を切り抜けるかを考えるレイブンだったが、それを見かねたフレンが助け舟を出す。

「僕はここにいるから、折角ならルー達もお店見に行っていいよ。ラピードもついているし、後で合流できるはずだから」
「うん!」
「あ!じゃああっちの方に行ってみようよ!ほらユーリも行くよ!」

まだ何か言いたげのユーリだったが、カロルに急かされ、ルーにキラキラした期待の籠った目を向けられ、渋々その場から離れる。
なんとかこの場を凌いだレイブンは安堵の息をついた。


ルーは早速目を輝かせながら沢山ある露天商を見て回る。
見たことのあるものから初めて見る貴重なものまで様々な品物が店先に置かれていて、その目を楽しませる。
あっちいったり、こっちいったりと忙しないルーにラピードはぴたりと傍についていて、まるで番犬の様だ。
それを目の当たりにしたユーリは本当に懐いてんなと感心する。

「あの、すみません」
「ん?」

突然声を掛けられたユーリとカロルが振り返ると老夫婦がいて、手には地図があり、困った顔をしていた。

「ここに行きたいんですけど、知りませんか?」

どうやら道に迷っているようで、ユーリとカロルはその地図で指をさされた所を覗き込む。
そして二人はその目的地までの行き方を説明すると老夫婦は納得した様子で礼をいうなりその場を離れていった。
その後ろ姿を見送っていたユーリだったが、ハッとし辺りを見渡す。
だが、先程まであったルーとラピードが忽然と姿を消していた。








ルーはお店を見るのに夢中でキョロキョロ忙しなく見渡しながら歩き回っていると、ぴくりと反応しその足を止めた。
そこは色とりどりの綺麗な石を使ったネックレスが並んでいる露天商。

「うわー、綺麗だな」
「だろう?お嬢ちゃん」
「お、お嬢ちゃん…」

この店主であろう体格の良いおばさんからのお嬢ちゃん発言に、ルーは顔を僅かに引きつらせる。
・・・・今は見た目が女なんだからそれは仕方ない。・・・仕方ない。
なんとも複雑だがそう自分に言い聞かせたルーは改めて品物を見る。
宝石や装飾品はオールドラントの屋敷にいたときに何度か見たことがあった。
が、如何せんそういうものに全く興味もなかったので、その時は気にも留めなかったのだが、ここにある色とりどりの石は太陽の光を浴び、一際キラキラと輝いていて純粋に綺麗だなと思わず見入ってしまう。
その沢山ある石達の中で、ルーはふと手を伸ばす。

「これが一番綺麗だ」

それは小さく丸い石で深い緑色にも見えるが、光に当てると翡翠色にも見えた。
すると店主はそうでしょうと続ける。

「綺麗でしょ?でもまぁ偽物なんだけどね」
「え?偽物…?」
「そう。それはある宝石の偽物、造りもんさ。本物は高価でこんなところじゃ売りに出せないんだよ。」

ルーはふと手元にある石を見る。
偽物…。
静かになったルーに女主人は気付くことなく、並べていた他の商品を手に取る。

「本物と見間違うくらいよく出来てるんだけど、まぁ所詮偽物だからね、本物と比べたら価値はないんだよ。お嬢ちゃんくらいかわいい子が買うなら、これなんていいんじゃないかい?こっちは正真正銘の本物の代物だから。あとは…これもそうだね」

これも綺麗だろう?と笑顔で問いかけられたが、ルーは顔を暗くし、俯く。

「?お嬢ちゃん?」
「…」
「ルー、ここにいたのか。」
「!ユーリ…」

ルーが言葉を探しながら目をさ迷わせていると、突如背後からユーリが現れた。
それに驚いたルーだったが、すぐにハッとして持っていた石を元の場所に戻す。

「ご、ごめん!」
「いや、別に謝ることねぇけどよ。何見てたんだ?」
「あ、えっと…その…、あっ俺何か飲み物買ってくる!」

慌てた様子のルーは店主にぺこりと頭を下げると、逃げるようにその場を後にする。
その後ろ姿を見てユーリは不思議そうに首を傾げた。






ルーは少しだけ離れたところで足を止める。

「…」

本物の方が良いに決まってる。
わかってるはずなのに、もやもやと暗いもので締め付けられる感覚。
ルーは目を伏せ俯いていると、すりっと自分の手に擦り寄ってくるものを感じる。
そちらの方を見ると、そこにはラピードがいて心配そうにじっとルーを見上げていた。

「ラピード…」
「くぅん」
「…大丈夫だよ、ありがとな」

ルーは眉を下げながら微笑みを浮かべ、ラピードの頭を撫でた。


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