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第18話



「おはよう!」

翌朝、元気よく登場したカロルにエステル達は笑顔を見せる。

「おはようございます、カロル」
「朝から元気ねーガキんちょ」

ふあっと欠伸をしながら眠たげにしているリタに、あれ?とカロルは首を傾げる。

「あれ?ルーとユーリいないね。寝坊?」

てっきりこの場にいると思っていたルーとユーリの姿が見えない。
不思議そうにしているカロルに、フレンが代わりに答える。

「洗濯物をお願いしに行ってくるって言ってたから、もう時期来ると思うよ」
「そうなんだ」
「お、噂をすれば」

レイブンの視線の先に、こちらへ向かってくるルーとユーリ、そしてラピードの姿が見える。
ルーは傍に寄り添って歩くラピードにニコニコと笑顔を浮かべていて、そんなルーを見てるユーリは優しい笑みを浮かべていた。
カロルはそれを目の当たりにし、ふと昨日から思っていた疑問を口にする。

「ねぇねぇ、昨日も思ったんだけど、ルーっていったい何者なの?ユーリとどんな関係?」
「お、少年、気になる?」
「うん。だって、ラピードがあんなに人に懐いてる所なんて僕見たことないよ。ユーリもなんかいつもと違うし」

改めてルー達の方を見ると、エステルが笑顔でルー達に話しかけていて、また果敢にラピードに手を伸ばしているのが見える。
だが、ラピードはいつもの如くするりとその手を避けていた。

「ふふ、ルーはユーリの恋人よ」

ジュディスは隠すことなくずばり言うと、カロルは目を見開き驚きの声を上げる。

「ええっ!?ユーリの!?それ本当!?」
「本当よ」
「あのどんな場面でも、どんな人でも、どれだけ綺麗な人に言い寄られても色恋沙汰に興味ねぇって、これっぽっちも考えないし状況気にしないし遠慮もしないでばっさりきっぱり言っちゃう、あのユーリが!?」

その後の空気最悪でその度に僕大変なんだよ!!?と心底驚愕しているカロルに、レイブンはだよねぇと呟く。

「まぁ、そうなるよね。おっさんも最初びっくりしたもの。あの青年をべた惚れさせる相手が存在したなんて。」
「でもルーはとってもいい子よ。ユーリが好きになるのもわかるわ」
「へ~…じゃあ本当なんだ」

確かにルーがとってもいい子だというジュディスの言葉は納得できる。
昨日少し話しただけでもとても純真というか優しい子なんだなとカロルは感じていた。
でもそれにしたって、あのユーリが…と感慨深いものがある。

「ユーリにも彼女できるんだね」

感心した様子のカロルに、ジュディスはふふっと笑みを浮かべる。

「今は”彼女“ね」
「?どういうこと?」
「ルーは元々男の子だから」
「えっ!?」

カロルはバッとルーの方を見る。どう見ても女の子にしか見えない。

「ちょっと訳あって今は女の子だけど、数日もすれば男の子に戻るはずよ」

ちょっとのレベルを超えている気がしないでもないが、ここにいるフレンやリタも何も言ってこないので、きっとその通りなんだろう。
驚きっぱなしのカロルは僅かに脱力しながらも改めてルー達を見る。

「な、なんかとにかく凄いんだね、ルーって。あ、でもだから言葉遣いが男っぽいんだね」

なんとなく合点がいったカロルはなるほどと頷く。

「少年も特に気にしないんだね、青年が好きになった相手が男ってこと」
「んーちょっとだけ驚いたけど…でもユーリが好きになったっていうなら別にいいんじゃないかな。むしろそんなことよりもあのユーリに好きな人が出来たってことの方が驚きだよ!」

ユーリも人なんだねと何気に失礼なことを呟き感心しきっているカロルに、フレンは笑みを浮かべる。

「ルーに出会ってユーリ自身変わったのかもしれないね」
「そうね、人を好きになるとその人自身も変わるのかもしれないわ」
「ルーがいるときだけでしょ。たまに二人でいる時のあいつを見てるとこっちが恥ずかしくなる時があるわ」
「あらそう?私は微笑ましいと思うけれど。特にルーに思いっきり振り回せれてる時とか、ね」
「え!?あのユーリが!?」
「そうそう。見ててつい応援したくなっちゃうくらい、頑張ってるよ青ね…」
「聞こえてんぞ」

突然背後に感じた威圧感とおどろおどろしい声に思わず固まるレイブンは、恐る恐るそちらの方を見ると、とてもいい黒い笑顔を浮かべたユーリがいた。
それを見たレイブンとカロルはサッと顔を青くし、後退りをする。

「あれ?皆どうしたんだ?」

首を傾げながら救世主の如く現れたルー。
レイブンとカロルは反射的にすぐさまルーの背後に隠れる。
それにユーリは小さく舌打ちをし、ルーは目を瞬かせた。













――その頃

バンエルティア号も朝を迎えており、クエストへ向かう者達は続々と出発していく。
その中、ルビアは少しばかり緊張した面持ちである場所へ向かっていた。
それは先程朝食を取り終え、部屋に戻ろうとした時にたまたま食事を取りに来たハロルドにジェイドを呼んできて欲しいと頼まれたからだ。
ジェイドといえばライマの国のメンバーの一人。
以前はあのメンバーの中でルークが一番取っつき難く近寄りがたい人と思っていたが、ルーが現れた頃からよくルークを見かけるようになり、その時気付いたことだが、ルークは案外単純であのライマの中では一番わかりやすい人だということだ。
また、気難しい印象を持たせるアッシュもここ最近は前のような冷たい目やとげとげしさも感じることはほとんどなく、ライマの面々とも以前よりは仲良くなれた気がしていた。
が、そのライマの中でも一際異彩を放ち未だに掴めない人がジェイドだ。
紳士的かと思えばそういうわけでもないこともしばしばあり、ルークがジェイドの事を陰険鬼畜眼鏡と言っているのがよくわかる。

そんなジェイドの部屋に行き、ジェイドを呼ぶという軽いミッションを引き受けてしまった自分に若干後悔しつつも気付けばその目的地であるその部屋の前にいた。

…なんでだろう、すごく緊張するのは…。

ごくりと息を飲み、恐る恐るその部屋をノックする。
だが、それに対して全く反応が返ってこず、しんとした静けさが広がる。
…あれ?もしかして寝てるのかな?それとも部屋にいないのかな?
そんなことを考えながら首を傾げていると、突然ガチャリと音がするとドアが開いた。

「あ、おはよ…」
「…なんだよ」

ドアの奥から現れたのはジェイドではなく、全く想定していなかったルークで、下はズボンを着ているが上半身は何も身に着けておらず、眠たげな目をしていた。
白い肌に生える長い朱髪とその眠たげではあるが端麗された綺麗な顔。
その表情、姿全てから普段のルークにはない色気で溢れ出ていて、ルビアはそれを凝視したまま固まってしまった。

「…おい?」
「おはようございます。どうしました?」

ぼんやりと首を傾げるルークの背後からジェイドが現れた。
ジェイドはいつもの軍服姿ではなく部屋着なのか普段見ない薄着でラフな格好をしている。
そんな二人をルビアは交互に見やり、そして顔を真っ赤にさせた。

「おっお邪魔しましたっ!!!!」

声を裏返し、ダッと駆け出し慌ててその場から逃げるルビアに、ルークは寝ぼけて働かない頭でぼんやりとその後姿を見る。

「…なんだ?あいつ…」
「ルーク、いいんですか?追わなくて」
「あ…?なんでだよ」
「きっと勘違いしていると思いますよ。」

ルークは眉を寄せる。勘違いってなんだ…?
そんなルークを見てジェイドはやれやれと食えない笑みを浮かべる。

「鈍いですねぇ、早朝からそんな恰好したあなたが寝起きの状態で、いるはずのない私の部屋からでてきたらどう思うか、なんとなくわかりませんか?」

あなた寝起きの時はいつもないフェロモンがダダ漏れしてるんですよと失礼なことをサラッというジェイドの言葉を受けたルークはぼんやりとした頭の中で何度か再生する。

「・・・・?・・・・・・・・・っ!!?」

一気に覚醒したルークは顔を真っ青にし鳥肌を立てると、すぐにそのまま駆け出しルビアの後を追う。

「待てーーーーっ!!!」
「!ルーク!?」

猛烈な速さで追いかけてきたルークにルビアは驚き振り返るが、そのまま足を止めることなく逃げ続ける。

「る、ルーク!…えっと、そ、その……こ、腰とか大丈夫なの!?」
「はぁ!?~っ気色悪い勘違いすんじゃねぇ!!俺は身体検査受けてただけだっつーの!!」
「えっ!?昨夜から隅々まで…!!!」
「おい!?なに考えてんだっ!!ぜってーわかってねぇだろっ!!!!」
「い、いつからそんな関係!!?」
「!?だからっちげーっての!人の話を聞け!!俺は朝ジェイドに叩き起こされて…」
「はうあ!!ルーク様!?」
「まぁ!ルーク!なんという恰好を!!」
「げっ!!」

バタバタ廊下を走っていると、アニスとナタリアがたまたま通りかかり、上半身裸の状態のルークに驚きの声を上げる。
それに対して面倒な奴がとルークが顔を歪めるとこれまで逃げていたルビアが急停止する。

「待って二人とも!違うの、ルークは悪くないの!これは…あたしが二人の時間をお邪魔したからなのっ!」
「「えっ!?」」
「誤解招くようなこと言ってんじゃねぇっ!!だーっもー!!なんなんだよ!!!!」

ギャーギャーと騒ぐルーク達に他の仲間達が集まり始めていく。
その度にルビアが勘違いさせるような爆弾を次々投下し、ルークは必死で火消しに走る。
そんなルーク達をジェイドは肩に乗るミュウとともに遠目で見ていた。

「暇を知らない人たちですねぇ」
「ルークさん今日も元気ですの!」

フッと笑みを浮かべつつジェイドは手元にあるカルテに視線を落とす。
そしてもう一つのカルテとそれを見比べ、口元に手を当てた。

「…ふむ…」




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