第3話
ルーがバンエルティア号現れてから数日が経った。
はじめユーリ達と会ったときこそはおっかなびっくりしていたルーであったが、今では彼本来の姿が見せるようになっていた。
オールドラントからきたルークことルーは、とても人懐っこく明るい性格の持ち主だった。
そして素直で純粋。周りへの気遣いもさることながら、相手の気持ちを汲み取るのがうまい。
困っている人がいればすぐに手を差し出すし、それに対して特に見返りも要求することはない。
時に怒ったり、喜んだり、落ち込んだりとコロコロと変える表情や仕草に見ていて飽きない。
たまに卑屈な一面を見せることもあるが、それさえもルーの魅力の一つとして受け入れられ、老若男女問わずあっという間にギルド内の人気者となり、ルーの周りには常に誰かがいるようになった。
そんな中でも一番驚かされたのはライマのルークがルーに完全に懐いたことだった。
あの我儘で自分勝手な、ライマの人間でさえ手を焼くあのお坊ちゃんルークは、今やルーに引っ付き虫のように傍にいる。
これには長年付き人をしてきたガイでさえ驚いたほどだ。
だが、ルークがルーに懐くのも今になれば納得はするものだった。
ルーはルークの言うことはちゃんと耳を傾けて聞き、決して馬鹿にしたり呆れたりなどしなかった。
それがとんでもない我儘だったとしても、頭ごなしに反論や怒ったりしない。一度それを受け止めつつ、自分のことのように考え、それならこういうのはどうかなと違う見解や考え方を伝える。
それはとても合理的なものばかりで、ルークも納得できるような内容。
ルーはルークのことも考えてちゃんと向き合って話をしているのだということがわかる。
元々こちらのルークも間違っていることはちゃんと認める素直な心をもっている。
ルークがルーに惹かれるのは必然のようなものだった。
一方でその状態をあまり面白く思わないユーリがいた。
ルーが周囲に溶け込み、楽しそうに日々を過ごしている姿は微笑ましいもので、いいことだ。
そう思うのだが、自分の中でくすぶる何とも言えない気持ちも沸き起こるのだ。
特にそれが顕著に表れるのは、ルーへの過剰過ぎじゃないかと思うほどのスキンシップを繰り返すルークを筆頭にする一部の仲間たちに対してだった。
なぜ事あるごとにルーに対していちいち抱き着いたり、手を握ったりするのか。
普通仲間に対してそこまでする必要があるのか。いや無い。
今もそうだ。
朝食を取ろうと食堂に行ってみたら、朝だというのに早速人だかりが目に入る。
その中心にはルーがいて、笑顔で皆からの挨拶に応えているようだ。
それはいい。まだいい。
…が問題はその後ろだ。
いつもなら遅い起床のお坊ちゃんがなぜかいて、ルーに引っ付き虫の如く、ルーに背後からおぶさるように抱き着いている。
ルーは笑っていてなんでもなさそうにしているが、絶対邪魔だろう。
さっさと離れろ。
お得意のツンデレはどこにいった。
「ユーリ、顔に出てるよ」
「あ゛ぁ゛?」
一緒に食堂にきたフレンに指摘され、反射的に睨み返すと若干呆れを含んだ目で返される。
「まさか…とは思うけど、君、気付いてないのかい?」
「何がだよ」
前にエステルにも同じことを言われたな。
一体何が言いたい。
「いや~青年も青いとこあったのね~なんか安心したわおっさん」
「ふふ、そうね。意外な一面というところかしら?」
「それはルーくんにも言えることだけどね~。」
「でも確かにルーは可愛らしいし、いい子よね。うかうかしていると誰かにとられちゃうかもしれないわ。」
「そうそう。ルーちゃん優しいし可愛いもんね~おっさんも混ぜてもらおうかな~」
「よし、おっさん。歯ぁ食いしばれ」
「ちょっ!?青年目が本気過ぎだから!暴力反対!!」
フレンと同じくユーリの様子を見ていたレイブンやジュディスが面白がって続くが、それにイラッとしたユーリはとりあえずレイブンに八つ当たりを開始する。
ぎゃーぎゃーとレイブンが騒ぎ出すと、ルーはユーリ達の存在に気付く。
「あ、ユーリ!」
何発か拳を入れていたユーリはその呼び声にぴたりと反応し、拳下げ振り向くと、ルーが笑顔で手を振りながらこちらに近付いてくる。
「おはよう!…って、何やってんだ?」
「おはようさん」
「おはよう、ちょっと戯れてただけよ」
「?そう、なのか…?」
「そうそう、気にすんな。…そんなことよりも、だ」
床に撃沈しているレイブンを心配そうに見るルーだが、ユーリは特に気にした様子はなく、既に意識はルーにいまだ引っ付いてるルークにあった。
ルークはユーリを物凄く嫌そうな顔で見ている。隠す気は更々ない様だ。
まるで見せつけるかのようにぎゅっと力を込めてルーにしがみつくルークにイラッとする。
「お坊ちゃんよ、そろそろ離れたらどうだ?」
「んで、てめぇに言われなきゃなんねーんだよ!うぜぇ」
「そんなにくっつかれたらルーだって動きにくいだろうし、困るだろうが。そんなこともわかんないのかねぇお坊ちゃんは」
「なんだとっ!?ルーだって何も言わねえんだから良いんだよ!!」
「それは言わないんじゃなくて、言えないんだろ。」
「はぁ!?んなことねぇよなルー!?」
「え?あ、うん、俺は別に大丈…」
「ほら見ろ!変な言いがかりつけてんじゃねぇ!」
「おい、ルーがまだ答えてる途中だったろうが。ちったぁ人の話を聞けよ。」
ルーを挟んで火花を散らすユーリとルーク。挟まれた方はといえばどうしたらいいのか困惑している。
困った姿も可愛らしいのだが、さすがに不憫にも見えそろそろ助け舟を出した方がいいかしらとジュディスが考え始めた時だった。