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第17話



「そこまでです」

空気を裂くように制止の声が響き、ハッとしたルーはその声の方を見るとフレンがいた。

「!フレン!」
「なっ!?」

突然現れた騎士団長の姿に、騎士たちはどよめく。
それにかまうことなくフレンはユーリと騎士の間に立つ。

「双方、剣を収めてください。」

怒気はないもののピシャリと強く言ったフレンの言葉に騎士たちは反射的に背筋を伸ばし、そして剣を鞘に納める。

「…ユーリも」
「…」

ユーリは強く騎士達を一瞥するなり、静かに剣を鞘に戻した。
それを見たフレンは小さく息をつくと、貴族の方に体を向ける。

「失礼ながら、詳しいお話を伺いたいので私にご同行願えますか」
「なっ!私は何もしていないぞ!そいつらが勝手に」

声を荒げ、否定しようとしたが、周囲を囲う様にしている住民たちの目はとても厳しく、それを見た貴族はぐっと唸る。

「っ!こんな野蛮な奴らがいるような所、二度と来るか!行くぞ!」

そう言い捨てると貴族は騎士達を引き連れてその場を後にした。
その姿が見えなくなると、途端緊迫していた空気が緩み、わっと歓声が上がる。

「ルー!助けてくれてありがとう!」
「え?あ、いや、俺は別に何も…っ!今のはどっちかっつーとユーリとフレンが…」
「そんなことないよっ!本当にありがとう!」

皆の反応に驚き戸惑いを見せたルーだったが、ルーの腰にギューギューと抱き着き、体全体で感謝の意を伝えるテッドを見て、笑みを浮かべる。無事でよかった。


「ルー!」
「!エステル、リタ!」

こちらに向かって駆けてきたのはリタの家に行くと言っていたエステルとリタ。

「大丈夫ですか!?ケガは…っ」
「あ、うん、大丈夫だよ」
「良かったです…!」

ルーの言葉を聞いた二人はほっと安堵した様子で笑みを見せる。
一方でルーは首を傾げる。

「エステル達はなんでここに…?」
「実はリタの家に向かう途中、フレンの元に騎士が来てここに騎士団が入っていくのを見たと教えてくれたんです。」
「だから何かあったのかと思って念のため見に来たわけ。」
「そうなんだ」

エステルとリタの話を聞き納得したルーはフレンの方を見る。

「フレン、ありがとな」
「いや、むしろ部下たちの非礼を詫びなければいけない立場だよ。」

申し訳なさそうにしているフレンにルーは首を振る。

「すげー助かった、ありがとな。」

改めて礼を言われ、フレンは小さく微笑んだ。

その後、ユーリだけでなくフレンも帰ってきたと喜ぶ下町の面々は賑やかさを増す。
フレンを囲いわいわいと楽しそうなその雰囲気にユーリがふっと息をつく。
だが、その時どこか浮かない表情を浮かべているルーに気付いた。

「ルー、どうした?」
「あ、うん…」

僅かに俯き黙り込んでしまったルー。
ユーリはちらっと周りを見やるなり、ルーの手を取るとそのまま静かに近くの路地裏に連れていく。
ルーはそれに特に反応を返さず、ユーリに手を引かれるがままついていった。



人気のない所に着くなり、ユーリはルーの方を見ると未だ俯いたままで、もしかして具合でも悪いのかと一抹の不安を覚える。
手を放し、向き合う様に立つと俯いているルーの顔を覗き込む。

「…ル」
「うがーっ!!マジでむかつく!!なんなんだよあいつら!!!一体何様だよ!?野蛮なのはあいつらだろ!!うぜーっ!!!」

バッと顔を上げて突然怒り出すルーにユーリは目を瞬かせる。
ルーは怒りが収まりきらないようで、両手で頭を抱えると今度は地団駄を踏んだ。
その癇癪を起しているルーの動き、発言がどこかルークっぽくも見え、そんなルーを前にユーリはポカンとする。
ここまで感情的なルーを見たのは初めてかもしれない。
そう思うとなんだか貴重で、そして面白いものを見ているような気分になり、ユーリは笑い出す。
つい先程までルーと同じで、ぶつける先がない怒りを覚えていたというのに。
突然笑い出したユーリにそれまで怒っていたルーは一転してキョトンとした表情を浮かべる。

「?ユーリ??」
「本当、お前にはかなわねぇな」
「へ?」

頭上にハテナを飛ばしながら不思議そうな顔をしているルーに、ユーリは微笑む。

「ありがとな、お前がいて助かった」
「え、俺は何も…むしろユーリに助けてもらったし…。しかも剣まで抜かせて…ごめん…。」
「なんで謝るんだよ。ルーは謝らなきゃなんねぇようなことなんて何もしてねえだろ」
「…でも…」

ルーはしゅんと肩を落とし落ち込む。
フレンが止めてくれたからよかったものの、あのままもし戦闘に入ったらユーリは完全に不利だった。
それになによりユーリ達が育ったこのあたたかな場所で剣を使わせてしまうところだった。
あの貴族たちは許せそうにないが、それでもあの時自分が感情のままに飛び出して行ってしまったのが良くなかったのではないか、もう少し落ち着いて物事を考えていれば、あんな状態にならなかったのではないか、そう考えると心は沈んでいく。
すると、ふと頬に暖かな手が触れるのを感じた。
ルーは、それに導かれるように顔を上げる。
そこには綺麗な笑顔を浮かべたユーリがいて、思わずその笑顔を見入っているとそのまま流れるようにキスをされた。
ルーは目を見開き固まる。
あまりの不意打ちに全く頭がついてこない。
直立したまま思考が一時停止状態のルーにユーリは舌を器用に使ってルーの口内に割って入っていく。
そしてルーの舌に自分のそれを絡めながら、ゆっくりと壁側に追いこませ、ルーの頭上の辺りの壁に腕を押し当て、ルーの退路をなくす。
キスに慣れていないルーはぎゅっと目を閉じ、されるがまま翻弄され、途中耳に届く音にびくっと体を震わせる。
暫く堪能したユーリはすっと顔を離すと、首元まで真っ赤に染め、蕩けたような表情で浅く呼吸をしているルーが目に入る。

「…ちとやり過ぎたか」

そう言いつつもその声の調子は全く対称的で反省している様子はない。
だが、ルーはまだ余韻を引きずっていて首を僅かに傾げるだけだ。
その様子にユーリは笑みを浮かべ、ルーの耳元で囁く。

「このまま続き…といきたいとこだが、今のお前を他の奴らに見せるのはもったいないからな」
「……?」

働かない頭でルーは一体何のことを言っているのだろうとぼんやりと考えているとがたっと何か物音がしたのが聞こえた。
その音に反応しそちらの方を見ると、少し離れた所にいるエステルやテッド等多数の人たちの姿があり、皆こちらを見ているのが目に入る。

「・・・・・・・・・・っ!!!!???」

ボッと音が聞こえるような勢いで顔を真っ赤に染め、目を見開き、口をパクパクとさせる。

「ま、ま、ま、さかっ…み、見…っ!?」

ルーはわなわなさせながら、まさかまさかと汗をダラダラ流し、問うとエステル達は皆いい笑顔を浮かべ、そしてしっかりと頷いた。
それを見たルーは卒倒するような勢いで声にならない悲鳴を上げ、パニック状態でダッとエステル達の方へ駆けていく。

「わーーーっ忘れてくれーーーっ!!!!」

叫びながら懇願するルーに皆はしゃぎ、笑いながら逃げる。
それを必死に追いかけていくルーの姿にユーリは笑みを浮かべ、きっとお腹を鳴らしながら不貞腐れるであろう愛しい人の機嫌を直す為、追加でお菓子でも作るかと考えながら来た道を戻るように歩き出した。









続く

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