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第17話


予定よりは時間がかかったが、なんとか目的地に到着したユーリ達は早速女将さんの元へ向かう。
多分ここだろうとユーリが算段した部屋に入ると、案の定女将さんがいて、ユーリの姿を見るなり驚いた顔を見せたが、すぐに納得した表情をする。

「おや、ユーリ。帰ってたのかい?ラピードが飛び出していったから何事かと思ったけど、あんただったんだね」
「おう。元気そうだな」
「まぁね。ユーリも元気そうだね…おや?」

女将さんはユーリの背後にいたルーの存在に気付く。
ルーはラピードと何か話をしながらゆっくりとこちらへ向かってくる。

「随分と可愛らしいお嬢さんじゃないかい」
「まぁな」

可愛らしいという言葉にごく自然と肯定するユーリに女将さんは驚く。
その中ルーは女将さんの存在に気付くとぱたぱたと駆け寄ってくる。

「ルー、さっき話した俺とラピードがよく世話になってる女将さんだ」
「初めまして、ルーっていいます!」

行儀よく一礼し、笑顔を見せるルーに女将さんも笑顔になる。

「ルーちゃんかい、よく来たね。ゆっくりしていっておくれ」
「はい!」
「早速で悪いんだが、台所貸してくれねえか?」
「構わないよ、好きに使っておくれ」
「ありがとうございます!」

ルーは元気よく礼を言うと、よし頑張って手伝うぞと気合いを入れながら台所の方へ向かう。
そんなルーを見ているとふと視線を感じたユーリはそちらの方に目を向けると感心した様子の女将さんと目が合う。

「あんたもそんな顔するんだねぇ」
「は?」
「良い子そうじゃないか、大切にしておやりよ」

女将さんからの言葉にユーリは僅かに目を瞠ったが、すぐにふっと笑みを浮かべルーの方を見やるなり、ああと答えた。





二人で料理を始めたまでは良かったが、ルーは女になっても相も変わらず不器用のままだった。
特に包丁で食材を切る姿は誰もがハラハラする程で、ルーに対して大分過保護になっているユーリにはそれが顕著に表れ、今にも手を切ってしまいそうなルーに全く目が離すことが出来ず、結局ルーから包丁を取り上げることにした。
それに対してぶーぶー文句を言うルーだったが、代わりに盛り付けを任されると一転して張り切りを見せるその姿に、ユーリは勿論、見守っていた女将さんも笑顔を見せた。

あともう少しで完成するというところで、突然外が騒がしくなる。

「ん?なんだ?」
「…妙に騒がしいな」

その騒がしさは先ほどの缶蹴りの時とは全く異なる騒がしさで、それまで丸まって休んでいたラピードがピクリと反応し、すっと立ち上がると直ぐに外へ飛び出して行った。
ルーとユーリはお互いの顔を見合わせるなり料理を中断すると、すぐにラピードの後を追う。

騒ぎの方へと駆けていくラピードを追っていくと、少し開けた場所に人だかりが出来ているのが見える。
そして、その中心にいる人物を見たユーリは目をスッと細めた。
一体何事だろうとルーは首を傾げながら近づくとそこには騎士団とそれを率いているように一人の男が見えた。
その男の身なりは遠くから見てもとても上等なものだと分かるもので、どうやら貴族の様だ。
だが、ルーはそれよりもあるものが視界に入り、それに大きく目を見開く。

「!」
「!ルー!」

ダッと走り出したルーにユーリはハッと我に返り止めようとしたが、それよりも早くルーはその中心に入っていく。
多数の騎士の間をするすると器用に抜けていくと、見えたのは先ほど缶蹴りで遊んだテッドが怯えている姿とそのテッドに向けて剣を向ける貴族の姿。
ルーはその貴族の前に飛び出し、テッドを庇う様に間に入るとキッと貴族を睨みつける。

「!なんだお前は!」
「ルー…?」

突然現れたルーにその場がざわつき、貴族は声を荒げた。
テッドも全く想像もしていなかったルーの登場に弱々しくも驚いた様子だった。
気付けばラピードもルーの傍にいて貴族や騎士達に向けて威嚇していて、騎士たちは思わず一歩後退る。

「お前、何してんだよ」

視線を逸らさず睨みつけながらルーが問う。
貴族はそれに少し怯んだが、すぐにフンと鼻息を荒くしながら、人を見下したような目を向ける。

「それはこちらのセリフだ。ここの連中で税金を滞納する輩がいるという話を聞いて、この私がわざわざここまで足を運んでやったというのに、そこにいる子どもが私にぶつかってきて、あろうことか私の服に汚れをつけたのだ」
「ちがっ!そっちが勝手にぶつかってきたんじゃないか…っ!」
「言いがかりは止めてほしいものだ。これだからここに住む輩達は…。ロクに税も納めずに、その減らず口を叩き、上流階級である貴族の私にも無礼を働くことができる、素養のないこの国のごくつぶし…」
「ふざけんなっ!!」

大きな声で怒鳴りつけたルーに視線が集まると、ルーの目が怒りに染まっており、それを見た皆が息を飲む。
普段穏やかで天真爛漫なあのルーがここまで本気で怒り、それを露わにすることはこれまで見たことがなく、ユーリは目を瞠った。

「今言ったこと、取り消せ!!お前は貴族なんかじゃない!!」
「なっ!?」
「王族や貴族は民を護るためにいるんだ!民の皆が幸せに、豊かに暮らせるようにどうすればいいか考えたり、実行したり、責任をとるのが仕事だ!なのに、なんなんだよお前…っ!!」

ぎろりと強く睨まれた貴族や騎士達はその迫力と目にたじろぐ。
だが、ルーは怒りが頂点に達しているのか手を僅かに震わせながらどんどん近付いていく。

「その大切にしなきゃいけない人たちに何してんだ!!貴族はこんなことするためにいるんじゃない!!人として、恥ずかしいと思わないのか!!?」

声を荒げ、一喝するルーの姿、気迫は野蛮さはなく高貴さを纏っており、それは王族を彷彿させるものだった。
それを目の当たりにし先程まで偉そうに持論を唱えていた貴族は押し黙る。
ユーリはルーの言葉とその姿に己の中に渦巻いていた怒りが徐々に消えていくのを感じる。

本当にこいつは…。


するとその様子を見ていた下町の面々がルーの言葉に勇気を得たのか貴族たちに向かって抗議の声が上がり始める。
それに騎士たちはたじろぐが、貴族は顔を真っ赤にして剣をルーに向け振り上げる。

「うるさい!お前こそ、誰にものを言ってっ!痛っ!」
「いい加減にしろ」
「!ユーリ…」

剣を持つその貴族の手首をぐっと力をこめて掴み、振り下ろすのを阻止したユーリにルーは目を見開き驚く。
ほとんど丸腰のルーに剣を向けたという事実に、ユーリは剣吞な空気を纏わせ更に力が籠る。
その力に貴族は呻き声を上げ剣を落とすと、それを見た騎士たちが武器を構える。
対してユーリも手を放し剣を抜いた。
一触即発な空気に、緊張が走る。
その時だった。



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