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第17話



「着いたぞ」
「ここが下町か~」

着いた先は、先程まで歩いていたお店がひしめきあい賑わっていたエリアとはまた異なった賑わいがあり、人々が生き生きと生活しているのを肌で感じることが出来る住居がひしめき合う場所だった。
そのどこか安心できる暖かさを感じたルーはまた目を輝かせる。

「なんかいいな!ラピードもここに住んでるのか?」
「ワン!」
「ラピードはこの下町の用心棒だからな。」
「へ~、ラピードって凄いんだな!」
「ワフッ!」

素直に感心しているルーにラピードも誇らしげに相槌を打つ。
そんな微笑ましい光景を見ているとユーリ達の背後から「あーっ!」っと大きな子供の声が聞こえてくる。

「ユーリだ!!」
「え?あ、本当だ!」
「ユーリおかえり!」
「おう、ただいま」

どこからともなく現れた元気の良い子どもたちはユーリ達を囲うようにわらわらと集まってくる。
突然のことにきょとんとしていたルーに子どもたちも気付く。

「あれ、このお姉ちゃん誰?」
「!お、お姉ちゃん!?」

子どものお姉ちゃん発言に思わず驚きの声を上げるが、そこでハッと我に返ったルーは自分の今の姿を思い出し落胆する。
そうだった、今は女だった…。
ずうんと暗くなるルーに子どもたちは首を傾げた。

「どうしたの?お姉ちゃん」
「うう…」
「まぁ、いろいろあってな」
「わかった!お姉ちゃんユーリの彼女なんでしょ!?」
「!かっ!?」
「察しが良いな、テッド。ルーは俺の恋人だ」
「!こっ!!?」

突然の彼女発言にルーは即座に反応し顔を真っ赤にさせたが、ユーリはそれを肯定するようにいい笑顔で恋人宣言をした。
それに子供たちはおー!!と感嘆した声を上げるが、ルーは赤く染めた顔を更に真っ赤に染め、口をパクパクさせる。

「間違ってねえだろ?」
「そ、そう、だけど…」

改めて言われると恥ずかしいものは恥ずかしい。
なぜそんなに堂々と恥ずかしげもなくいられるのか、時折見せるユーリの男前らしい大胆さにルーは驚かされる。
真っ赤に染まった頬に両手を当て、落ち着け落ち着けと念じているルーにユーリは微笑む。

「つーわけで、よろしく頼むわ」

そうユーリが言うと子ども達は元気にはーいと答える。

「お姉ちゃん、ルーっていうの?」
「あ、う、うん。」
「ねぇねぇあっちで一緒に遊ばない?さっき皆で缶蹴りしてたんだ!」

ユーリのお墨付きを貰ったからなのか、初対面のはずのルーを前触れもなく唐突に遊びに誘う子ども達にユーリはこいつら…と思ったが、ふとルーを見ると、ルーはきょとんとした表情を浮かべていたが、すぐに顎に手を当て何か考え込む仕草をする。

「缶蹴り…」

ぽつりと呟いた言葉にユーリはもしやと思う。

「知らないのか?缶蹴り」
「!し、知ってるよ!ルール、くらいなら…。…やったことは…ない、けど…」

最後の方にいくほどぼそぼそと声が小さくなるルーの答えに予想が的中する。

「なら丁度いいな。俺がフォローしてやるよ」
「!」

バッとユーリを見ると、ニッといたずらっ子のような笑みを浮かべていて、ルーはポカンとしたが、見る見るうちに目を輝かせる。

「うん!」
「えっ、ユーリもやるの?!」
「ああ、手加減はしねぇからな」

ユーリの挑戦的な言葉に子ども達は顔を明るくさせ、絶対負けないと気合を入れた。






*****



「ユーリ大人げないよー!」
「やるからには本気でやらないとな」

ブーブーとテッド達が抗議する言葉にユーリは反省の色はなかった。
あの後、ルーのフォローと言う名でユーリも参加した缶蹴りは最初こそ小規模だったが、ルーのすばしっこさとユーリの大人げない本気の蹴りを前に子ども達は驚き、すぐに下町の人達に救援を求め、最後の方は子どもから大人まで巻き込んだ大勢での缶蹴り大会となっていた。
途中でハンクスじいさんまで参加しそうになって、流石にそれはとユーリがなんとか引き留めたりしたが。
小一時間程度の缶蹴りだったが、とても内容の濃いもので、ルーにとっては初めてやった缶蹴りということもありとても楽しく、そして同時にこの街の人たちに受け入れてもらえたようにも感じて、終始笑顔を見せていた。
とはいえ、皆本気でやっていたこともあり、体を休ませるために自然と解散する流れとなる。
そこでふとルーは思う。

「なんだかハラ減ったなー」

気付けば昼食時も過ぎていて、余計に空腹を覚える。

「そうだな、何か食うか。つっても、この辺りだと食堂らしい店はあんまねぇからな。店のある所まで戻るか、あとは何か作るかだな」
「ユーリのご飯がいい!」

俺も手伝うから!とぐっと拳を作り握り締め笑顔のルーに、ユーリは口元が緩みそうになるのを感じ、すぐに手で覆う。
本当可愛いなこいつ。

「なら女将さんとこで台所借りるか」
「女将さん??」
「俺やラピードが借りてる部屋の主だよ。」
「そうなんだ!」

納得した様子のルーを見て、女将さんにルーを紹介するのにちょうどいいかもしれないと思いながら、二人は早速目的の場所へと向かった。
だが、先程までの缶蹴り効果が良くも悪くも出ていて、向かう道ですれ違い様にいろんな人がユーリとルーに話しかけてきて、なかなか前に進めない。
特にユーリの浮いた話がこれまでなかったからなのか、その相手であるルーを物珍しげに見にくる人が多く、その大概が「どうせ嘘だと思ったけど本当だったのか」驚き、
中には「このユーリのどこが良いのか」など失礼極まりない質問を真顔でルーにぶつける輩もいて、やっぱりここから出るかとユーリが本気で思うほどだった。


「皆仲いいんだな」
「…まぁ、それは否定しねぇけど。お節介にもほどがあるだろ」
「ははっ!でも、ユーリやフレンがここで育ったっていうの、なんかわかるな。皆すげーあったかくていい人たちだもんな」
「ワン!」
「あ、もちろんラピードもな」

ラピードの頭を撫でながらにこにこと笑みを浮かべているルーに、ユーリは目を瞬かせる。
そしてなんともいえない、けれど不快ではない何かがユーリの中で広がるのを感じた。

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