第17話
「すっげー!大きい街だな!!」
ルーは目をキラキラと輝かせながら目の前に広がるガルバンゾの街並みを見ていた。
ここへ向かう途中にフレンからガルバンゾについて地図を見ながら説明を受けていたルーは、ユーリの言う通りとても大きい国であることを認識はしていたが、実際に見てみるのとでは感じ方は大きく違う。百聞は一見にしかずというのはこういうことだろう。
街の中心部には立派な城があり、それを囲う様に多くの建物があった。
整備された通りには沢山の人々が行き来し、忙しなく、けれど賑やかで、街全体が活気に溢れていた。
「ここがエステル達の国か~」
「はい!ルーに来てもらえて嬉しいです!」
「エステリーゼ様、くれぐれもあまり目立つようなことは…」
「はい、わかっています。大丈夫です!」
そういうエステルの表情はいつになく輝いていて、全く言葉に信憑性がないエステルにフレンは苦笑いを浮かべる。
今、ルー達がいるのはガルバンゾの首都の入り口の門から少し離れた所で、僅かにできた抜け道の先にいた。
街へ真正面から入らなかったのはエステル達の存在になるべく気付かれないようにという配慮で、フレンもいつもの団長姿ではなく、少しラフな格好をしているのもカモフラージュの一環らしい。
それを聞いた時、本当に来てよかったのだろうかとルーは心配になったが、当のエステル達は特に気にしていないようで、むしろ女性陣達はどこで買い物をしようかと作戦会議に熱心だった。
それに対してフレンはといえば、小さくだが何度もため息をついていて大変そうだなと思う。
「団長様も大変だな」
「…わかっていると思うけど、ユーリ達もあまり目立つようなことはしないように」
あまり大事になると庇えきれなくなると他人事のような発言をするユーリに対して釘を刺すフレンに、へいへいとユーリは適当に返答する。
ユーリはルーの方を見ると、きょろきょろと辺りを見渡し、今にも飛び出して行きそうなその様子に笑みを浮かべる。
これは迷子にならねぇようにしねぇとな。
すると、何かがこちらに駆けてくる音が聞こえ、ユーリはぴくりと反応しそちらの方に目を向けると、それに合わせたかのように一匹の成犬がシュタっとユーリ達の前に現れた。
成犬は片目に傷があり、キセルを銜えている。
ユーリは成犬を見るなり笑顔を浮かべ近づくとその前で膝をつき、目線を合わせた。
「久しぶりだな、ラピード。元気にしてたか?」
「ワン!」
ラピードの元気の良い鳴き声にどこか安堵したユーリはその頭を軽く撫でると、ラピードはそれに答えるように尻尾を振る。
その姿を目を輝かせながら見ていたルーは興奮した様子で近づく。
「~っ!なんかすげーかっこいいな!!もしかして、ユーリが言ってた相棒のラピードか?」
「ああ」
「そっか!お前がラピードか!!すげー強そうだな!!」
手をぐっと握りしめながらキラキラと輝かせた目をラピードへ向ける。
そしてルーもその場にしゃがむと、ラピードとの視線を合わせた。
「俺はルーっていうんだ、よろしくなラピード!」
にこにこ笑顔を向けるとラピードはルーに自然と歩みよる。
そんなラピードにルーは笑顔を浮かべたまま手を伸ばし、優しくラピードの頭を撫でた。
それに対して尻尾を振り甘えた声で鳴いたラピードにユーリとフレンは驚き、エステルに至っては大きくショックを受けていた。
それに気付いたルーはユーリ達の方を見やるなり首を傾げる。
「?どうしたんだ?」
「あーいや…ラピードはあんまり人に懐かねぇ所があるから驚いただけだ」
「おっさんたちなんて付き合いそこそこ長いはずなのにまだ触らせてもらったことないのよ。ルーちゃんは瞬殺だったけど。」
「え?そうなのか?」
ルーは目をぱちぱちと瞬かせ首を傾げながら、ラピードに問いかけると、ラピードはそれを肯定するかのように自ら頭をルーの手に摺り寄せた。
その完全に懐いている姿を見たユーリ達は再び驚き、ジュディスは感心したような笑みを浮かべる。
「ふふ、飼い主に似るのかもしれないわね」
「へ?」
「・・・・・・・。」
「ら、ラピード、私も…」
エステルが果敢に手を伸ばすが、するりと避けてルーの体に寄り添う。
それを目の当たりにしたエステルはショックを受けてがっくりと項垂れる。
「うう…なんでですかぁ…」
***
「…さてと、この後どうするんだ?」
着いたはいいが、到着初日については特に何をするなど具体的に決めたわけではない為、ユーリが皆に問いかけると、あ!とリタが声を上げる。
「私家に戻って荷物取ってくるわ。元々それが目的だったし」
「そういやそんなこと言ってたな」
「あ、私もリタの家に行きたいです。」
「?別にいいけど、なんもないわよ」
「そんなことないです。とても貴重で珍しい本が沢山あって…是非拝見したいです!」
本の虫と言ってもおかしくない程本が大好きなエステルは目をらんらんと輝かせてリタに懇願する。
それにリタは照れながら、しょうがないわねとぼそぼそと言っているのが目に入った。
「私はこちらのギルドに顔を出しに行ってくるわ。あまり放っておくと拗ねちゃうかもしれないもの」
ジュディスの言葉を受け確かにと納得しているユーリ達をルーは不思議そうに傾げる。
「拗ねちゃう??」
「私たちの首領よ。」
「とっても物知りなんですよ」
「へ~!」
「おっさんもちょっと挨拶しに行ってこようかな。ルーちゃん達はどうするの?」
レイブンの問いかけに、ルーは悩む。
できればそのユーリ達の首領って人に会ってみたい。
けれど来たばかりのこの街の中を散策したい気持ちも強い。
二つの選択肢に揺れ動いているルーにユーリ達は顔を見合わせ頷く。
「ルー、首領になら後で会わせてやるよ」
ユーリの言葉にルーはバッと反応する。
「え!いいのか?」
「ああ」
「私たちが話をしておくわ。きっとルーに会いたがるはずだから。」
「!うんっ!」
嬉しそうなルーに皆笑顔を浮かべる。
結局フレンはエステルの護衛としてリタの家へ、ルーとユーリ、ラピードは街の中を散策することにし、夕刻ごろに宿屋で待ち合わせとして一時解散となった。
ルーは街中を歩きながら、あれはなんだこれはなんだと色んなものに興味津々で、それにユーリは答えつつも、自然と集まってくるルーへの視線にどう牽制すべきか考えていた。
元々ルーは人目を惹く容姿をしていたのだが、今のルーは完全に美少女そのもの。
しかもその忙しない動きと興奮した笑顔も相まって可愛らしさ全開。
以前よりもその視線を多く集めているのは気のせいではないだろう。
その証拠にすれ違いざまに振り返る輩も多く目に入り、その度にイラッとする。
だが一方でその張本人はといえば全く気付く気配はなく、無邪気な笑顔で話しかけてくるので、その姿に癒されているのも事実だった。
「フレンが言ってた通り、凄い大きい街なんだな」
「まあな」
感心しっぱなしのルーだったが、ふと思う。
「ユーリもここに住んでたのか?」
「ああ、俺とフレンはここにある下町って言われてるエリアで育ったからな」
「下町??」
聞いたことのない単語にルーは首を傾げる。
それを見たユーリはルーにでもわかるようにどう説明しようかと考えたが、うまい言い回しが見つからなかった。
「なんなら行ってみるか?」
「!いいのか!?」
「こっからも近いし、時間もあるからな。…つっても、期待するようなものなんて何もねーとこだぞ」
「行ってみたい!」
間髪入れずに身を乗り出し行きたいアピールをするルーに、ユーリは僅かに目を瞬かせたがふっと笑みを浮かべる。
「じゃあ決まりだな、こっちだ。」
「うんっ!」
元気よく頷いたルーはユーリの案内に従う。
ユーリ達が育ったところってどんなところなんだろうか。
そんなことを考えながら足を進めた。