第16話
「で、なんで俺なんだよ!」
ルークは木刀片手にイライラとした様子で、少し離れた外野の方でこちらを見ているギルドの面々を睨む。
ここはルーク達が稽古場として日頃良く使っている場所。
そしてルークの前方にはルーがいて、同じく木刀を持っていた。
「普段から稽古してる相手同士の方がわかるでしょ」
バッサリと切るようなリタの言葉に、それならロイドやクレスでもいいだろと思う。
でもなぜその中で自分が選ばれたのかをなんとなくわかるので、腹が立つし言い返せない。
ルークはルーと同じ剣術を使う。
そしてルークの実力は正直、このギルドの中の上くらい。
そこまで強くはないが弱くもなく…と、今のルーの実力を測るにはもってこいだった。
ルークはむすっとしながらも、ルーの方を見ると、ルーはいつも使っている木刀ではなく、少し細く軽い女性向けの木刀を持って軽く素振りをしていた。
普段の実力ではルークはルーに勝てない。
ルーが自分の剣を装備できないということには驚いたが、それでも元々のレベル感が違うのだから、どうせ負けるのだろうとも思う。
くっそ!なんでこんなとこで晒されなきゃいけねぇんだよ!
絶対五分五分のところまで持っていってやると、前向きなのか後向きなのかわからない気合を入れ、ルークは構える。
それに答えるようにルーは剣を構えた。
「二人とも、準備はいい?」
「ああ」
「うん」
二人の間に立っていたクレスの呼びかけに二人は頷く。
クレスは一歩後ろに下がり、手を上げ、そして勢いよく下に降ろした。
その合図とともに、まず動いたのはルー。
ルーは低い姿勢から木刀を振り上げ、ルークに向けて振り下ろすと、ルークはそれを自分の木刀で受け止める。
その時、ルーとルークは思わず目を見開き、ルーは弾かれたようにすぐにルークから離れる。
その二人の表情は何かに驚いているように見え、見守っていた仲間達はそんな二人の変化に気付く。
一体どうしたんだ?
唖然としていたルークはハッと我に返り、木刀を握りなおすとルーに攻撃を繰り出す。
それにルーはすぐに反応し、バックステップで避け、反撃する。
だが、その攻撃をルークはいとも簡単に受け止めてしまう。
それを見た面々は普段では考えられない現象が起きていることに気付く。
今のルーは明らかにルークより…。
見れば、ルークもそれを感じているのか困惑した表情を浮かべている。
ルーもいつもと勝手が違う自分の体に驚いているようだ。
だが、元々負けず嫌いのルーは木刀を構え直すと堰を切ったように攻撃を繰り出す。
スピードは以前よりもあるようで、途中ルークは防御するのに精一杯で押され始める。
が、暫くするとルークも押されっぱなしなわけではなく、途中途中で攻撃を加えていく。
それを完全に防ぐことができないのか、木刀で受け止める度にルーの体は後ろへどんどんと押し出されていってしまう。
それに焦ったルーは、勢いよく大きく木刀を振りかぶり、弾こうとした。
だがルーは体が軽すぎるのか、自分で振り上げた木刀の遠心力に体が引っ張られ、体制を崩す。
「うわっ!!?」
「!」
ルークは咄嗟に自分の木刀をルーに当てないように引いたが、ルーはそのまま後ろに尻餅をつくと、からんと音を立て、木刀が地面に投げ出された。
その場がシンと静まり返る。
ルーがルークに負けた。
それ目の当たりにしたその場にいた皆が衝撃を受ける。
はぁはぁと息を切らしながらその場にいる誰よりも驚いているルークは、暫し呆然としていたが、木刀をおろすとルーにふらりと近づく。
ルークと同じく呆然としていたルーはそろそろとルークの方へと顔を上げる。
「………俺が言うのもなんだけどよ…今のお前…、やべぇぞ」
「!!」
ルーはガーンと大きくショックを受ける。
だがルークの言葉に返す言葉が見つからない。
ルーはその場に両手をつき俯いた状態で打ちひしがれる。
そんな中、様子を見守っていたアンジュがルーに近づく。
「ルー」
「アンジュ…俺…」
「ルーは当分剣を使わない方がいいわね」
「!!?」
弾かれるようにバッと顔を上げると真面目な顔でルーを見ているアンジュがいた。
そんなアンジュを見て、何が言いたいのか察する。
ルーが努力を積み重ねて習得してきたもののベースは男の体で、今の女の体では充分に発揮することはできない。
むしろ今の慣れない体で今までの通りにするのは逆に危険なのだと。
ルーはぶんぶんと首を振る。
「れ、練習すれば…っ!」
「自分の体に染みついた感覚はなかなか変えられないわ。それにもし今の体で習得できたとしても体が戻ったときに今度はそれが悪い影響を与えるかもしれないもの」
「う…」
「ルーは体が元に戻るまで、しばらくクエストお休みね。」
アンジュからの宣告に再びショックを受けるルー。
顔を真っ青にしてへなへなとその場に座り込む。
そんなルーを見てアンジュは苦笑いを浮かべる。
「そこまで落ち込まなくても…」
「だって俺…剣くらいしか役に立たない…」
ずううんと沈み半分涙目のルーにアンジュはポンと肩に手を置く。
「ルー、そんなことないわ。その証拠にこの場の士気は大分上がっているから」
「しき…??」
言葉の意味が解らないルーは半べそを搔きながら首を傾げる。
アンジュの言う通り、これまでのルーを見てきた面々の士気は確実に上がっていた。
俺・僕・私達がなんとかしなければ…!!!
とはいえ、どうしようもない現実にルーはますます落ち込んでいく一方で。
皆なんと声を掛けていいのか考えていると、ピンと閃いたエステルがぽんと両手を合わせる。