第16話
「ごめん…」「…悪かった」
声を揃えて謝罪するルーとユーリ。
その顔には猛反省していることがありありと浮かんでいて、そんな二人を前にアンジュは小さくため息をついた。
昨夜、女性の体になったルーが考えなしにいつものように男湯に入り、その後ユーリが理性を失い暴動と言ってもいいほどの大騒ぎを起こした。
途中騒ぎを聞きつけたフレンからの強烈な一発を受けたユーリはそのまま倒れ、湯にのぼせ気を失ったルーと共に医務室に運ばれるという、なんとも恥ずかしく居た堪れない失態を起こしていたことを知ったのは今朝のこと。
二人は今回の被害にあった面々には勿論、ギルドのリーダーであるアンジュに頭を下げていた。
「…もういいわ、二人とも充分反省しているようだし。」
そうアンジュからのお許しを得た二人だったが、全く心は晴れやかにはなれない。
ルーに至っては完全に凹んでいて卑屈モードに突入しそうな勢いだ。
そんな二人の様子を見た周囲にいた仲間はやれやれと苦笑いを浮かべつつも励まし始める。
なんだかんだで結束力は強く、人の良い面々が集まるアドリビトム。
その中でもルーは皆の弟のようなマスコットのような存在で、気付けばルーの周りには多数の仲間達がいて、皆気遣う言葉をかけていた。
それを少し離れた所から見守るようにいたユーリに、レイブンが声を掛ける。
「それにしても、常に尋常じゃないくらい物事に動じない精神力を保ってるのに、ルーちゃんのことになると途端異常に沸点低くなるよね、青年」
「…今回の件は反省してる」
軽い冗談半分で言ったレイブンの言葉を受け、ユーリは僅かに肩を落とし素直に非を認めた。
普段ならよほどのことがない限り物事を適当にあしらうことができるのだが、ルーが絡むとそう上手くいかない自分がいることをユーリは自覚していた。
気を付けねぇとな…。
ユーリはため息をつきつつ、その視線は自然とルーの方へ向いていた。
そんなユーリを見て、レイブンはフッと笑みを浮かべる。
「レイブン?どうしたんです?」
「いや~、ルーちゃんって凄いな~って思ってたとこ」
「?」
首を傾げているエステルを横目に、レイブンはちらっとルーの方を見る。
「それにしてもルーって凄いスタイルいいよね、細いのに胸はしっかりあるし~!」
「いやそれ全然嬉しくねぇよ…」
ブーブーと文句を言うアニスに、ルーは嫌そうに顔を歪める。
女性に対してなら誉め言葉だろうが、男の自分にとっては全然嬉しくない。
それに何よりコンプレックスの一つである身長が前より縮んでいて、ショック以外の言葉が見つからない。
しかも今のルーが着ている服は、上はいつものシャツと白いテールコートを無理やり羽織っている状態で、下はどうにもならなかったため、カノンノから借り白いスカート。
すーすーするしズボンがいいと主張したのだが、折角だからと謎の言葉を返されてしまった。
はぁぁとがっくりと項垂れるルー。
より一層早く元に戻りたいと強く思う。
その間、ペタペタとルーの体を無言で触り続けていたソフィーだったが、ふと顔を上げる。
「ルー」
「…ん?なんだ?」
「この体で剣…使える?」
「え?」
ソフィーの言葉に目を瞬かせる。
剣が使えるか…?
どういうことだろうと考えるが、すぐにハッとする。
自分の腕を改めて見ると、以前よりだいぶ細くなってしまった女性の腕。
まさか…っ!?
ルーはダッと駆け出し、自分の剣を取りに向かう。
そして、自室に入るなりすぐに自分の剣を掴み、持ち上げる。が。
「っ!?おも…っ」
いつもなら感じない剣の重みに、片手で持つことが出来ず、咄嗟に両手を使う。
だが、それでもその剣先は重みで揺れてしまい、ルーは直ぐに剣を下ろす。
剣が装備できない。
その事実にサッと顔が青ざめる。
後を追ってきたユーリ達もそれを目の当たりにして、目を瞬かせる。
「え?え?ルー…マジ?」
「そ、そんな…っそんなわけ…!」
恐る恐る問うアニスの言葉にルーは首をぶんぶんと振る。
そしてもう一度剣を握り、持ち上げるが、やはり先ほど何も変わらず、その重さですぐに剣を下してしまう。
ルーは焦り、自分の中に取り込んでいたローレライの鍵を復元しその柄を持つが同様で。
ルーの顔に驚愕と絶望の色が浮かぶ。
その姿を見た皆もその事実に驚き、そして思わずお互いの顔を見合わせた。