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第10話





ユーリがルーの後を追うと、ルーは自分の部屋へ逃げ込み、その場で崩れるように蹲り、両手で耳を抑えた。
がたがたと異常な体の震えは止まる気配がない。
ユーリがゆっくり近づくと、ルーの手元にルーの愛用の剣があることに気付く。
それにハッとしたユーリはすぐさまそれを蹴り飛ばし、ルーの体を抱きしめた。

「っ!!」

それにびくりと強い反応をしたルーは、暴れ始める。
パニック状態のルーは正常な判断能力を失い、ユーリだと気付かず、必死にその腕から逃げようとする。

「落ち着け!ルー!大丈夫だから!」

ユーリはこのまま離すのは危険だと、ルーを強く抱きしめ、押さえつける。
暫く抵抗するように暴れていたルーだったが、徐々にその抵抗は弱まっていく。
だが、同時にまたカタカタと震えだし、ぶつぶつと小さい声で呟き始めた。

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…っ!」

涙を零しながら壊れたように謝罪の言葉を何度も繰り返すルーに、ユーリは戸惑う。
そして、その痛々しい姿にどうしようもない衝動に駆られる。

「っルー!一体何に…」
「ごめんなさい…っ生きて、て、ごめんなさい…っ生まれて、ごめんなさいっ」
「!」

ルーの口から零れた言葉にひゅっと息を飲む。
一瞬思考が止まったユーリだったが、自分にとって誰より大切な人が何かに怯え、涙を零し、謝罪をし続けているその事実を前に、激しい憤りと悲しみに奥歯を噛みしめながら強く抱きしめる。

「ルー、大丈夫だ、ここにはお前を傷つけるやつはいない。お前は生きていいんだ。」

ユーリは言い聞かせるように何度も大丈夫だと繰り返す。
この言葉が謝罪を繰り返す今のルーに届いているかはわからない。
それでもユーリは諦めず、優しく声を掛け続けた。










どれだけ経ったかわからないが、徐々にルーの体から震えが落ち着き始めた。
ユーリは抱きしめていた力を解き、ルーの顔を覗き込む。

「…ルー、大丈夫か?」
「…ゆ、り…?」

パニック状態だったルーは正気を取り戻し、ユーリの存在に気付く。
だが、顔は青白く未だに小さく震えていた。

「ごめ…お、おれ…。…っ!」

何かにハッとしたルーは、またユーリから離れようともがく。
ユーリは暴れ出すルーの手首を掴み、制止させようと動き封じる。

「ルー!落ち着け!」
「ユーリっ離してくれ…っダメなんだ!」
「何がダメなんだよ!?」

一体何がルーをここまで追い詰めるのか。
矛先のない、言いようのない焦燥感にユーリが声を荒げると、ルーはびくりと体を震わせ俯く。

「俺は、俺は…っ沢山の人の、なんの罪もない人たちの命を奪った大罪人なんだ…っ」
「!?」

ルーの突然の告白に、ユーリは驚愕し息を飲む。
今、なんと言った?
あまりのことにユーリは反応を返せずにいると、ルーは俯いたまま、震える声で切り捨てるように続ける。

「俺は、愛してもらえる資格なんてない…っ!ユーリに、触れてもらえる資格なんて…ないんだ!」

ぼろぼろと涙を流し、自分を責めるその痛々しいその姿にぎりっとユーリは奥歯を噛む。

「俺、なんて…生まれてこなければ…っ」
「っルー!!」

強く制止するようなユーリの声に、びくりとルーは体を震わせる。
シンとその場が静まり返る。

「…言っただろ。」

ユーリは未だ俯いたままのルーを見つめながら、ゆっくりと話し始める。

「俺はお前が抱えてるもの背負うもの、全てを受け止める。あの時、俺は何も考えなしに言ったわけじゃねぇ。…お前が何者でも、思いは何も変わらねぇ。」

静かに紡がれる言葉に、ぴくりと反応したルーは恐る恐る顔を上げる。
そこには強い意志を宿した瞳と合う。

「なにがあっても、俺は、お前を愛し続ける。」
「ユー、リ…」

弱弱しく震える声で名を呼ばれたユーリは、冷え切った体をぎゅっと抱きしめる。
その自分を包み込む温かさと安心感に縋るようにルーは震える手でユーリの服を掴む。
そして先ほどとは違う、締め付けられるような、内側から溢れ出る痛みを感じる。

ああ…そうか…これが…。

ルーの体からはふっと力が抜け落ちるのを感じ、そっと目を閉じた。

「…ルー…?」
「ユーリ…俺…」

ユーリが、好きだ

小さい声で呟かれたその言葉に、ユーリは目を見開く。
だが、次の瞬間ずるりとルーの体が崩れ落ちる。

「ルーっ!?」

反射的に抱き留めたユーリは、ルーを見るとすでに意識はなくぐったりとしている。
だが、それ以上に目を疑う光景がそこにはあった。

その時ユーリの目に入ってきたのは、ぼんやりと透けたルーの体だった。










続く
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