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第15話



「…つ、つかれた…」

陽も落ち、夜も更けた頃、ようやく女子達から解放されたルーはよぼよぼになりながら自分の部屋に戻ると、ルーは自身のベッドにダイブする。
あの後、最初こそは抵抗していたルーだったが、問答無用で女子達がとっかえひっかえ思い思いの服を着せたり脱がせたりと、完全に着せ替え人形と化し、途中から抵抗する気も失せされるがままだった。
あまりにも目まぐるしかったため、あまり覚えていないが、とりあえず女子は怖いということだけは身をもって体験したことだけは確かだ。
とりあえず借りていたコレットの服は先ほど返し終え、今はぶかぶかになってしまった自分の服をなんとか着ている状態で、明日からの事を考えると気が重い。
はあああと深いため息をつき項垂れる。
ふと、隣にあるユーリのベッドに目を向ける。
今日ユーリはクレス達とともに買い出しに出ている。
時計を見ると、そろそろ帰ってきてもおかしくない時間だ。

…絶対気持ち悪いと思われる…。

ずううんと落ち込み、枕に顔を埋める。
今朝男だった奴がいきなり女になってたら誰だって驚くだろうし、気持ち悪いと思うはずだ。
現に皆の驚き方は半端じゃなかった。ジェイドは…あんまり変わんなかったけど。
ルーはむくりと体を起こし、改めて自分の体を見る。
そこには女性ならではの胸があり、アニス曰くCカップなのだそうだ。
お腹の腹筋はなりを顰め、その代わりに前よりもくびれた腰。
そして股には男の時にあったものもなくなっており、その見慣れない女性の体にルーは顔を赤らめながら視線を逸らす。
自分の体のはずなのに違う人の体の様で、なんとも言えない気分だ。
早く元に戻りたい。
とはいえ、今はジェイドの作ってくれる薬を待つことしかできない。
ユーリにはそれまでの間、気持ち悪いかもしれないが我慢してもらうしかない。
再び深いため息をつき、ルーはベッドを出ると、そのままよろよろと部屋を出た。















その頃、ユーリ達買い出し組は買ってきた物資をバンエルティア号に運んでいた。
何度経験してもこの重労働には慣れそうにないと、疲労気味のユーリは息をつく。
そしてこう疲れたときにふと思い出すのは、出迎え時のルーの笑顔。
あれを見ると疲労が吹き飛ぶような気分になるのだ。
本当はその笑顔を真っ先に見たいところだが、今日はルーもクエストで出かけていると聞いていた為、すぐには難しいだろう。
小さくため息をつきつつも、自分が任されている分を運び終えるなり、少しでも疲労を取るためにその足で風呂場へと向かった。

ユーリは脱衣所に入ると、そこには人がおらずガランとした雰囲気であったが、ふと端の方に服が置かれていることに気付く。
よくよく見るとそれはルーやルークの着ている白いテールコートだ。
だが、ルークはこの時間帯に入らないらしいと聞いたことのあったユーリは、恐らくルーのものだと考える。

タイミング良いな。

ユーリはさっさと服を脱ぎ、腰にタオルを巻いた状態で浴場へ足を踏み入れる。
中は湯けむりであまり視界はよくないが、それでも朱色の短い髪が目に入り、思わず笑みを浮かべる。
一方でルーはと言えば体を洗っているのか、こちらに気付いていない様で反応はない。
そんなルーをユーリは少し驚かしてやろうと思い立ち、足音を殺しゆっくり近づく。
だが途中で、何か違和感を感じ始める。

…あんなに小さかったか…?

ルーの体は大きい方ではない。
とはいえ少々細い方ではあるが男子としては比較的普通な体型に入るはずだ。
けれど、今のルーはいつも見る姿より一回りか二回り小さいように見えた。
ユーリは怪訝そうな顔を浮かべ近づいていくと、その全貌がハッキリと目に入る。

「なっ!?」
「ん?」

疲労からかボーっと無心で体を洗っていたルーは声のする方に目を向けると、そこには目を見開き固まっているユーリがいた。

ルーはパッと笑顔を浮かべてユーリの方に体を向ける。

「あ、ユーリ!買い出しお疲れ…」

お疲れ様と続けようとしたルーだったが、ユーリの異変に気付く。
いつもなら笑顔で返事を返してくれるユーリが微動だにせず、ただただこちらを見ている。
どうしたんだろうと思って見ていると、ユーリの視線が下の方に向いていることに気付く。

??何を見て…

ルーはその視線の先を追うと、そこにあったのは自分の胸と…

・・・・・・・・・・・・。

「わーーーーーーーーーーーーーーーっっ!!!!!」
「!?」

ルーは大声を上げて両腕で体を隠す。それにユーリはハッと我に返る。
ルーは全身を真っ赤に染め、ぷるぷると震わせながらその場にしゃがみ込む。

さっきまで嫌というほど自分の体を意識していたのに、それをこの短期間で忘れるとかどんだけだ俺!!!!

改めて感じた自分のお馬鹿さ加減に打ちひしがれるルー。
その一方でユーリはと言えば、全く想像もしていなかったルーの姿に目を瞬かせる。
けれど、髪や瞳もそうだが、この反応といい雰囲気といい紛れもなくそれは自分の恋人で。

「…ルー…だよな?」

確信を持ちつつも慎重に問うユーリに、ルーはビクッと反応し、ちらりとユーリの方に顔を向ける。
恥ずかしさが先行しているルーは顔を真っ赤にしながら、目を潤ませた状態で小さく頷く。
その破壊力にユーリは再び固まる。
普段のルーも可愛いが、今のルーはまた別の可愛さで、顔に熱が集まるのを感じる。
一体何が…と考えていると、それに気づいたのかルーは持っていたタオルで前を隠すとユーリの方に向き直す。

「あ、あのな、実は…」

ルーはおずおずと今日何度目かになる今回の出来事を話す。

これまでの経緯を聞いたユーリは呆気に取られていたが、僅かに眉を寄せる。
それを見たルーはしゅんと俯く。

やっぱり気持ち悪いよな…。

ずぅんと沈むルーに、ユーリは近づきその場にしゃがみ込む。
それに気づいたルーは恐る恐る顔を上げると、至極真面目な顔で見つめてくるユーリと目が合う。

「ルーお前、怪我は?」
「え?あ、うん、怪我はないよ」

ルーは素直に答えると、ユーリは安堵したような表情を浮かべる。

「そうか、ならいい。」
「へ?」
「ルーが強いのはわかってるつもりだが、そんな訳わかんねぇやつと闘って池に落ちたんだ、怪我したっておかしくないだろ。色々言いたいことはあるが…お前が無事でよかったよ」

いや、無事かというと少し違うような気もするが…と思いつつもユーリは安堵した笑みを浮かべた。
そんなユーリを前にルーはきょとんとする。

「え、え?」
「ん?どうした?」
「えっと…その…ユーリは俺が気持ち悪くないのか…?」
「なんでそうなるんだよ、気持ち悪いわけないだろ。流石に驚いたけど…むしろ見事だと思うぞ」

どこからどう見ても女性になってしまったルーの完成度の高さに思わず感心してしまう。
そんなユーリの素直な感想を受けたルーは何を思ったのか僅かに顔を暗くする。

「ルー?」
「…ユーリ…あの…」

ルーは俯きがちに目をさ迷わせる。
もしかして実は体調が良くないのかとユーリは眉を寄せると、ルーは俯いたままポツリと呟いた。
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