第15話
その日、ルーはジェイド・アッシュ・リフィル・ロイド・コレット・クラトスと共に、未開拓とされているエリアに足を踏み入れていた。
ここはジャングルのように緑で覆われた所で、所謂秘境のような場所。
今日はこのエリアの生態系の確認と探索が目的であり、それがクエストの依頼内容になる。
このクエストの依頼主はこの場にいるジェイド自身で、軍人としてもそうだが研究者の一人としてもこの地を調べ、あわよくば研究材料となるものを確保したいのだそうだ。
ジェイドの作るものは役立つものばかりだが、時に変なものを作ったりもするので不安でもある。
それでもちゃんと手続きを踏まれた依頼ならば受けない選択肢はない。
とはいえ、未開拓の地であることには変わりなく、魔物のレベル感もはっきりとしないため、ある程度の戦力でないと厳しい面もあった。
それらを考慮した結果、ギルドの中でも上位の実力を持つルーが抜擢され、同様の理由でアッシュ・クラトスも参加することなった。
また、ジェイドと同じくこの場所を調べたいと考えていたリフィルとそのお手伝いとしてロイドとコレットも同行することになり、比較的人数が多い。
今回はルー・ジェイド・アッシュ組とリフィル・ロイド・コレット・クラトス組に分かれて幅広く探索をすることになった。
「ここは未だ生態がわかっていない魔物や植物ばかりですから、くれぐれも気を付けてください」
「うん」
ジェイドからの忠告に素直に頷くルーは、改めて周囲を見渡す。
確かに見たこともないような植物が沢山あるように見える。
また、これまで人が訪れることがない地のせいか道という道はなく、緑が覆い茂った獣道しかない。
普通の人なら躊躇ってわざわざ入ろうとはしないだろうと思えるほど、鬱蒼としたなんとも言えない雰囲気が漂っていた。
だが、そんな中でもルーは特に怯むことなく、むしろどこか楽しげだった。
それを見たアッシュは怪訝そうな顔を浮かべてルーを見ていると、それに気づいたルーは笑顔を浮かべて話し始める。
「ここもなんか凄いけど、オールドラントにもキノコロードって言う変なキノコが沢山生えてる場所があったな~って思い出してたんだ。俺の身長より高いキノコとかそこら中に生えてたりさ」
「それは凄そうですね」
「うん」
母上の薬を取りに行く目的で訪れたキノコロードだったが、そこでアッシュとばったり会ったのを覚えている。
あの時ルーは留守番役だったので詳しくは知らないが、それでも変なキノコがそこら中に生えていたのは印象深く残っている。
ちらりと横を見ると、アッシュがいてそれだけでルーは浮かれていた。
ルーにとってアッシュはユーリやルークとは別の意味で特別だ。
自分の被験者であるオールドラントのアッシュとは別人ではあるが、それでもアッシュと一緒に行動できるということに嬉しく感じ、ニコニコと笑顔を浮かべる。
暫く周囲を調べながら足を進めていると、突然ガサガサっと音がし、その次の瞬間魔物が飛び出してきた。
ルー達はそれに気づくなり、すぐに戦闘態勢に入る。
魔物は4、5匹ほどのウルフ系で、真っ先に動いたルーは魔物に向かって走り出し、腰に下げていた剣を振るう。
アッシュも巧みに剣を使い攻撃に参加する。
その間に詠唱し終えたジェイドの強力な譜術が炸裂し、それを食らった魔物たちは鳴き声をあげながら逃げて行った。
その後を追おうとするアッシュだったが、すぐ横で剣を鞘に納めるルーが目に入る。
ルーは魔物相手でも戦意を喪失した段階ですぐに攻撃を止めてしまう。
ルー曰く、魔物にだって命があって、元々自分達が彼らの住処に足を踏み入れてしまっているかもしれない、それに対して彼らは自身を護るために必死になってるだけになっているかもしれない。
そう考えると必要以上の攻撃はしたくないのだそうだ。
ルーの考え方は甘いと感じる者もいるかもしれないが、ある意味的を得ている気もして、ギルドの中ではそれに賛同する者達も少なくない。
普段から傍にいるミュウとルーはとても仲が良く、それを目の当たりにしているのも一つの要因かもしれないが。
「みゅ!ご主人様ご主人様!」
「ん?なんだよミュウ」
「あそこにとっても綺麗な花があるですの!」
「花?」
ルーの道具袋から顔を出し、一生懸命にその花を指差すミュウ。
その指差す先を追っていくと確かにその先には珍しい色の花の群衆があった。
ルーはそれに向かってぱたぱたと走り近づくと、その場にしゃがみ込む。
「へー確かに綺麗だな、いっぱいあるし…あ、キノコ!」
さっきジェイドから気をつけろと言われたばかりなのに、もう既に警戒心のかけらもないルーにアッシュはため息をつく。
物凄く気が抜ける…。
だが、これでルーの方が自分よりも戦闘に強いことをアッシュ自身認識しているので、なんとも複雑だ。
すっかり戦う気が萎えたアッシュは小さく息をつき、剣を鞘に納める。
それはジェイドも同様なのか、既に戦闘モードを解いており、近くの植物の採取を始めていた。
楽しそうに笑顔を浮かべてるルーに気を取られていたのか、その時、アッシュは気付かなかった。
「!おいっ!」
「へ?っ!」
アッシュの呼びかけにハッとしたルーは足元に蠢くツタのような植物がいることに気付く。
足に絡みつこうとするそれにルーは咄嗟に剣を手に取り、それに突き立て断ち切る。
だが、それにホッとする間もなく、今度はアッシュの背後に大きな植物が姿を見せた。
「!」
これがさっきの植物の本体だということに気付くなり、剣を抜こうとしたアッシュだったが、それよりも早く植物がアッシュを捕えようとしていた。
「!アッシュ!!」