第14話
ルークは人気の少ない場所までルーを連れてくるなり、パッと手を離し、くるりとルーの方を振り返った。
「…で?」
「へ?」
「何かあったんだろ。言え」
突然のルークの言葉にルーはぽかんとする。
いまいち把握が出来ないこの状況に、ルーは疑問符を頭の上で浮かべていると、ルークはむっと眉を寄せる。
「お前が何か考え込んでんのくらいわかるっつーの。俺の前で我慢すんじゃねぇって言っただろ。さっきまで考えてたこと洗いざらしに吐け」
そこまで言われてルーはハッとする。
そんなに分かりやすく顔に出ていたのだろうか。
しかも考えていることはなんとなく人様に話すには些か気恥ずかしいような気もして、ルーは頬を赤らめながらあちこちに目を泳がす。
それに対してルークはますます眉を寄せる。
これはあの黒ロン毛絡みか。
ルークにとっての天敵に近いユーリ。
だが、そのユーリは自分と同じか、(認めたくはないが)もしかしたらそれ以上にこのルーの事が好きだというのは誰からも見ても明らかで、盲目的とはこういうことをいうのかと感心するほどだ(認めたくないが)。
そんなユーリがルーを悩ますようなことをするだろうか。
…いや、ねぇな。つーことは、…またあれか。
未だにえーだのうーだの言葉を探しているルーに痺れを切らしたルークは、口を開く。
「お前また馬鹿なこと考えてんだろ」
「!馬鹿な事って!…そ、そんなこと…」
いや、確かに自分は馬鹿だしとずぅんと暗くなるルーにルークはたじろぐ。
「っ!だからそうじゃねぇって!その卑屈モードをなんとかしろっつってんだよ!」
「ひ、卑屈なんかじゃ…」
「じゃあ話してみろよ。俺が判断してやる」
だからさっさと話せと強引に聞き出そうとするルークに、ルーは戸惑う。
けれど、それは自分の為にしてくれているということはルークの目を見れば分かる。
譲るつもりはないと真っ直ぐ、真剣な様子のルークに、ルーは観念し思い切って話すことにした。
ルーは、今日の出来事や先ほどまで考えていたことを、俯きながらも伝える。
そこでルークはいつの間にかルーとユーリが恋仲まで進展していることや同室になっていることを知り、地味にショックを受けた。
途中、ルーに対するユーリの溺愛っぷりに、思わずルークの顔が引きつったりもしたのだが、俯いたままのルーは気付くことはなかった。
「…俺、馬鹿だから…間違いばっかりで、足引っ張ってばっかりで…自分のことばっかりで…」
「…」
「でも…、…これ以上、ユーリに迷惑かけたくない…嫌われたくない…」
俯くルーをルークはじっと見つめ、そして大きなため息をつくなり、ルーの頭に手刀を入れた。
「いたっ!!」
突然のことに驚きつつ、ルーは頭を押さえながらルークを見る。
するとルークは真面目な顔で口を開いた。
「お前、全然わかってないだろ」
「へ?」
「そもそも、あいつは自分に迷惑かけてくる奴が好きだとか、そういうタマじゃねぇだろ。ルーの考えてる迷惑なんて迷惑の内に入んねぇよ。つーかどこら辺が迷惑に入るんだよ。あいつが好き勝手やってるだけで、ルーが気負わなきゃなんねぇようなことなんて別にしてねぇだろ」
きっぱり言い切るルークに、ルーはきょとんとした表情を浮かべる。
その反応を見たルークは若干項垂れながらため息をつく。
「…迷惑っつーなら、むしろそうやって考え混んでる方が迷惑だろ」
「そ、うなのか…?」
「俺だったらぜってー嫌だ。何つーか、疑われてる気分になる。」
「…」
そうなのかとルーは再び俯き、考え込む。
わかったような、わからないような…。
でも結果としてやはり迷惑をかけてるんじゃ…。
ルーは悶々と考えていると、ルークは小さくため息をついた。
「…あいつの気持ちもわかんだよ」
ルークがぼそりと呟くと、それまで俯いていたルーは顔を上げ、首を傾げる。
「え?」
「…だーっもーっ!うざってぇ!!とにかくっ!もし気になるつーなら直接あいつに聞け!グダグダ一人で考えてたって何も解決しねぇよ!!」
「…うん」
確かにルークの言う通りだ。きっと一人で考えていても馬鹿な自分で何もわからないし、変わらない。
そう思うとなんとなくだがスッキリして勇気が出てきた。
ルーは笑顔で礼を言うと、ルークは顔を赤く染め、ぷいっとそっぽを向いてごにょごにょと言っていた。
若干元気を取り戻したルーの背中姿をルークは見送っていると、別の方向からすっとガイが現れる。
「…よかったのか?」
「…よくねぇよ。」
ルークはガイの方を見ることなく、ただルーがいた方向を向いていた。
暫く沈黙が続いたが、それを裂くようにルークは小さく息を吐いた。
「…ルーが無駄な勘違いして、傷つく方が嫌なんだよ」
ポツリと呟き、静かになるルークの横顔をガイはちらりと見ると、その目には慈愛を含まれた優しいものだった。
だが、それも一瞬で、すぐにいつものルークの表情に戻ると今度は呆れたような表情を浮かべる。
「つーか、なんであんな馬鹿みたいな思考に陥るんだ?意味わかんねぇよ」
「まあ、ルーらしいといえば、らしんだけどな。きっと、好きなほど不安になるんじゃないか?」
「…そういうもんか?くそ、やっぱあいつムカつくな」
むすっと剝れるルークにガイは優しく微笑んだ。